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私の読む「源氏物語」ー60-夕霧ー3

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 興奮が冷めてくると落葉宮はただ身の程知らぬ女と、柏木や雲井雁の父前大臣にも、父の朱雀院にも、思われ外聞悪く、前大臣や朱雀院が、夕霧と契りを結んだことを聞き心配されるかも知れないことが、たとい避けようとしても、避ける方法がないのに、その上、契りを結んだのが母の死の喪中の最中であるから気が落ち着かなかった。しかし、洗面や朝の食事などは、塗籠から出て落葉宮の平素の居間の方で取った。喪中なので平常と違った、喪中の黒色の設備も、婚姻の最初に、不吉のようであるから、服喪者の住む西廂の北の間の東側(表)には北廂と西廂の境に屏風を立てて、西廂と母屋との境には、吉凶両方に用いられる丁子染の御几帳など、喪中らしくない色の物や。沈香木の二階厨子などというような調度を立てて、婚姻ということで喪式を隠して準備をした。総てのことは御息所の甥大和守の考えであった。
 女房達も喪中の青鈍の着物を、明るくても派手でない色の、山吹襲や掻練襲や紫色の濃い着物に着かえさせ、紫の薄色を着ている者でも、青朽葉などに着かえさせた。こうして、喪中を何かと紛らわし祝儀の意を表して二人に食事を差しあげた。女ばかりの女世帯なので、柏木の歿後は、女房達が、万事万端を、しまりなく不規律にやり馴らしていた御殿の中であるのに、注意して、小人数の召使に対しても、よく言い諭し大和守一人が男としての万事を引き受けていた。
 このように考えられない尊貴なタ霧が一條宮にお住みになると、伝え聞いて御息所などを軽視して以前には御用も勤めなかった家司達が出し技けに参上して政所などという所に居て事務を執り始めた。

 このようにタ霧が一条宮に無理矢理押しかけ婿のようなかたちで住みはじめたことに、三条殿に残った雲井雁は、こうなっては、もう駄目であるようだと、思いもし、落葉宮に執心して私を捨ててしまう事はないと、タ霧を一方では疑いながらも、一方では信頼していたのであった。真面目一方で暮らしていた人が一端道を誤ると許へ戻るのは難しいことと、夫婦の仲がはっきりと分かったような気がして、落葉宮とよろしくやっている夫の顔を見多区内と思い、父親の前の大臣に、
「方違いでかえってきました」
 と言って実家に帰ってしまった。丁度弘徽殿女御が里帰りをしていたので
雲井雁は姉の弘徽殿と会い、現在の憂鬱晴らしのはけ口にと、姉弘徽殿女御に今の心境を少し聞いて貰おうと、三条殿にすぐに帰らなかった。このことを夕霧が聞いて、予想した通り雲井雁は生まれつき気が短いし、それはそれで父の前大臣も、高い身分にふさわしく悠々と落ちついた所があればいいのにこの方も少し気が短い方で、父娘とも気短で全く一徹もので融通がきかず、何事も派手に表沙汰にされる人達なので、「夕霧の顔など見たくも声も聞きたくないわ」と、離縁するときっと言われるに違いないと、驚いて急いで三条殿帰ると、子供達の幾人かが残っていて、雲井雁は娘とそして幼い男の子だけを連れて里帰りをしていた。夕霧が帰ってきたのを見て男の子達は喜び群がってきて、ある者は母親を恋しがり
泣きわめくのを、夕霧は辛くやりきれなかった。
 夕霧は雲井雁に何回も使いを出して迎えるのであるが、雲居雁からは何も言ってこなかった。夕霧は、このように頑なに拒むような夫婦仲であったのかなあと、雲井雁の自分への態度が気に入らないのであったが、前大臣が既に雲居雁から聞いておられることであろうと日の暮れを待って、自分で雲居雁を迎えに出かけた。到着すると、女房が、
「弘徽殿女御のいらっしゃる寝殿におられます」
 というので、雲井雁の自分の部屋に行くと子供達と乳母とが連れ添ってその部屋にいた。
「よい年をして、私が来たのに、出て来て会いもせず女御とお話に夢中とは、親らしくもない、このように子供達を、この邸と三条邸に、捨てて置いて。何という事か、寝殿で遊んでいるとは、私の妻としては困った者であると、最近になって私も分かってきたことだが、私の妻としては如何なものか、私は昔から雲井雁を心から離れ難い存在として想い、今はこの大勢のややこしい子供達が可愛いから、私たちはお互とも離縁する事ができるものでないと、信頼していたのであるが、ところが一寸した私の女に関わったことで、こんなに子供まで捨てて」
 と夕霧は雲井雁を非難し、愚痴っぽく恨み言を言うと、女御の姉の所から帰ってきた雲井雁は、
「万事につけて、貴方を、今は見る甲斐がないと、諦めましたので、貴方に飽きられてしまった事、それはそれとして貴方の心に今更私が気に入るように直そうという気持ちはありませんから、もう貴方に付いていく気がありません、と考えて実家に戻りました。子供達を貴方が思い続けていかれるならば私は嬉しゆう御座います」
「あっさりと軽く言いなさる。この問題で傷つくのは、我等二人の中どちらであろう、君の名折れになるであろう」 と言って夕霧は無理に雲井雁の三条殿への帰館するようにとも言わずその夜は、前大臣方の雲井雁の居間に、1人で寝た。落葉宮は拒み雲井雁は逃げ、妙に落ちつかない中途半端なことになったなあと、想いながら子供達と共に横になり、雲井雁のこちらではこの状態であるが、一条宮では、こちらとは別に落葉宮が私と契りを結んでどんなにか思い悩んでいることだろうと、落葉宮を想い、落葉宮の事が不安な、気にかかる事であるから、誰が私と落葉宮の恋のことを興味もって考えるであろうかと、何となく夕霧はたしかに懲り懲りしたようになっていた。夜が明けると、雲井雁に、
「他人が見たら、子供も大勢あるのに里に帰った貴女の今回の行動は、子供みたいなことであると思うのであろうが、夫婦の縁もこれまでであると、言い切って御しまいなされるならぱ、そのように離縁して、この後どうなるかためして見ましょう。三条殿に置いてきた幼い子供達もいじらしく貴女を恋い慕っているのを、三条の家に選ぴ残して置きなされたのは、理由がある、とは考えるものの、どの子供も捨ててしまうことは出来ないでしょうが、どうあろうと貴女がが捨てようとも、私はきっと残された子供の世話しましょう」
 と雲井雁に少し強く言う。雲井雁は聞いて彼女は一本調子な性質であるので、連れてきた子の子供達ももしかして子供達が知らない一条宮にタ霧が一緒につれて、移ってしまうのであろうかと、危惧する。娘を夕霧が
「さあ此方へお出で、姫に会うために此方へ参上することは私としてはきまりが悪いから、始終まあ来ないつもりである。三条でも可愛い子供達を、三条邸で同じところで世話をしよう」
 と娘を抱いて言う。娘はまだ小さいので父親が何を言っているのかと不思議に思う。そんな娘を可哀想にと夕霧は見て、
「母上の教えに、その通りには御なりなさるな。父は情ないと思う程母上は思慮分別のない心を持っているのは、大変性格が悪いからね」
 と姫に言い聞かせている。
 雲井雁の父親前太政大臣、かっては頭中将と言った、夕霧にも伯父に当たる。彼も二人の仲のことを聞いて、雲井雁の行動が人から笑いものにされるのではと、思い心配するのである。