私の読む「源氏物語」ー60-夕霧ー3
「落葉宮の、内々の御服喪の程は、宮の心を乱す事なく過ごそうというお気持ちは、仰せの通りにしても、宮のお気持ちを壊さないで、当分の間は、夫婦のようにしましょう。夫婦らしくない状態が、おかしいと思うのです。また、私を拒否なさるのがこのように固いと言うことで、私が全くここへ参らないということになると、今度は貴女が私に捨てられたという、落葉宮の評判が立ちましょう。落葉宮は、只もう一途に、物を考えなされて、幼稚な子供らしいのが気の毒であります、お考えなされ」
と取り次ぎ役の少将にきつく夕霧が言うので、少将も考えると、なる程尤もであると、思い夕霧を見るが、少将も辛い気持ちである。がしかし彼女は夕霧を落葉宮にとって大切な方であると、自然に思われるタ霧の態度であるから、落葉宮が世話をする女房を入れるために開けてある塗籠の北の入り口へ夕霧を案内して塗籠の中へ入れてしまった。それを見た落葉宮は、呆れたことをする情け無いよお前は、と少将を見るが、同じように側に従う女房も夕霧と少将を見るのであった。落葉宮はなる程、私が浅ましくつらいと思う通りこんな、つらい世の人の心であるから、私にこれ以上タ霧を退けても、又どんな人を導き入れるか分からないという憂き目を、きっと見せるに違いないのだなあ、と、今は頼りにする少将の女房も夕霧の味方をするようになってしまい、落葉宮は自分を守ってくれる者がいなくなったのを、どうしようもなく悲しむのであった。
夕霧は色々とこの世間では当たり前に通用する常識というものを、誰でもが当然理解していなければならないことを、落葉宮に言葉を色々と換えてしみじみと愛情を込めて口説くのであるが、彼女の心の中は、つらく、気に食わず不快である、と言う気持ちで一杯で、夕霧の言葉を聞いている余地がない、
「なんと貴女が、言おうとしても言葉が出ないほど不将者と思っておられることでしょう。私も経験したことがない行動を恥ずかしく思っています、貴女にしてはならない飛んでもない恋心が私にとりついたのも不心得なことと自分ながら困り果てておりますが、その恋心を今更取りもどして白紙に返す暇もない早さで、浮名が世間に知られてしまいました。ですから、潔白であると、貴女が考えなされても、世間の噂にも上ってしまった今は、貴女が潔白であると言うことは世間では認められないでしょう。だから、私との浮名は今更どうこう言うても甲斐がないと諦めて折れて私の言葉に従いなさい。思い通りに行かないと淵や川に身を投げることも世の中にはそうする人もいますが、私のこのような情愛を、深い淵に体を投げたと思って、淵に捨てた身と敢えて私の心に従いなされよ」
落葉宮は下に着ている単衣の御召物を、頭からかぶって、かがまっていて、
心強くしなければと思う手段として、声を出して、泣く様子が、人に見せまいとする慎しみの気持が深く、いじらしい。夕霧はそれを見ていて、いやな人間であるとしても、私のことをどうしてここまで嫌がるのであろう。甚だしく強情な人でも、状況が、これ程になってしまえば、自然に、気の弛む様子もあるものなのに。岩や木よりも靡くことがないのは、前世の縁がなくて、男を、憎い、などと考えるような例があるという。落葉宮も、そんな風に、私を考えているのであろうか。と考えるけれども、その考えは彼女にあまりにひどい思い方であるから、夕霧は情なく思うにつけ、彼を想う雲井雁のことを、以前は何の気苦労もなく雲井雁と二人愛情を交わしていた時のこと、
今まで長い間、夫婦の間は安全であると、隠す事がなく夕霧に体を預けてきた雲井雁のことを想い出すと、落葉宮を恋い自分の心から宮を追い求めて、雲井雁と不和になった事を情け無いと思い続けると、落葉宮を自分の良いようにすかし宥めるのを止めて、塗籠の中で満たされない想いに嘆いていた。
こうまで嫌われているにもかかわらず、情け無い様で一條宮へ出入りするのは世間からはおかしく見られるであろうから、今日は一條宮に留まって夕霧はのんびりと落ち着いていた。夕霧が訪問して、その上泊ってまでいる、こんなに向う見ずな態度を落葉宮は、見苦しいこと、と思い、益々夕霧を鬱陶しい者と思いが強まるのを、夕霧は
愚かしい宮のお心よと、情ないものの、一方では彼女の頑なさを気の毒であると同情もしていた。塗籠の中は細かな道具類が、格別沢山もなくて、主として香料や香具の類を入れた御唐櫃や置き戸棚だけである。その他、或は細かなもののあるのはあちこちに寄せ集めて、いかにも間に合わせに設備して落葉宮は座を造っていた。塗籠の中は暗いけれども朝日が当たる感じがそこらの隙間から漏れてくるので、落葉宮が夕霧が乱入したときに被った単衣を、夕霧が無理に引き取り、乱れた彼女の髪を夕霧が掻き上げて調え、初めて顔をかすかに見る。落葉宮は期待通りの女らしい艶めいた感じがした。その宮を見つめる夕霧はきちんと取りすましているときよりも、このように打ち解けているときの方が清らかな感じであった。亡き柏木が特別に際だったような容姿でもないのに精一杯にうぬ惚れ「落葉宮の御顔は、たいしたことはない」と、柏木が何かの機会のある度ごとに、かつて思っていた様子を落葉宮は思いだし、こんなに、昔以上に衰えてしまった自分の姿を、タ霧が我慢してでも見てはくれまい、と落葉宮は恥ずかしかった。それで、あれやこれやと思案して、落葉宮は、タ霧に打解けようと自分の気持ちを調えていた。やはり女という者は男なしでは生きられないのであろうか、あれほど嫌っていた夕霧にこのように気持ちが変わるというのは。宮は夕霧に髪を撫でられ抱きかかえられて時分の気持ちが落ち着いていくのを感じていた。夕霧も落葉宮が柏木から聞いていたよりも女らしい魅力があるのを初めて知り、男の血が次第にたぎってきた。懐から手を入れ乳房を触る、痩せている感じは手に伝わってきたが乳房は柔らかく膨らみがあった。群れた春寒宮はびくっとしたがすぐに男に身を任せた。息が弾んでくる。周りの女房の視線を感じながらも二人の愛撫が進んでいく、女房が周りにいても何とも思わない常に誰かが側にいるのが日常のことであったから。落葉宮は夕霧の手が乳房を触って愛撫された瞬間あたまの中の夕霧を嫌った弦が切れ宮は女になった、体中に男を受け入れようとする血が流れ始めその速度は次第に速くなっていった。
合わせた頬から夕霧の暖かさが伝わってくる、
「宮、可愛い、愛している、いいの」
夕霧の囁く声が天空から舞い降りてくる妙なる奏楽のように聞こえる。夕霧の胸に抱かれていたのを向き合うように横向きに彼女はなった。女の中心が濡れてくるのを感じたとき、女は無意識のうちに男のたぎるものを手の中に握っていた、長く眠っていた女が目覚めた。そのまま無言で男の手が彼女の敏感なところを愛撫する、宮は堪えきれずお床を受け入れようと手の中のものを自分の中心へ持って行った。2人は重なり契りが結ばれた。
作品名:私の読む「源氏物語」ー60-夕霧ー3 作家名:陽高慈雨