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私の読む「源氏物語」ー59-夕霧ー2

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 と、雲井雁や女房達までも夕霧を、憎たらしい奴と思うのであった。
 雲井雁はまことに情なくつらく、落葉宮にうつつを抜かし始めてしまったタ霧の何という心であろう。もともと初めから、そのような嫉妬もなく、仲よく、暮していたのであった、源氏の六条院の、多くの婦人方(紫上・花散里・明石上など)を何かがあると引き合いにされて、嫉妬もなく仲が睦しいと言って、立派な例として引きあいに出し、私のことを気にくわなく、無愛想な無作法な者として、タ霧が考えるのは無理なこと。雲井雁とても、昔から、六条院の人々のように、タ霧の思い人(妻妾)達が一緒に並んでいる習慣が、もしもついてしまっているならば、世間の人の見る目も、当然の事と思い私も却って嫉妬などしなくて過ごしてしまったであろうに。夕霧は世間の手本に確かにする事のできる、堅い心の持ち主であると、雲井雁の親や兄弟を始め女房なども皆自分を良い夫を得た立派なタ霧に似あった果報者に思っていたのに、その自分が、久しい間、連れ添うて、最後の今になって世間に恥じるような外聞の悪い事があろうなんて。雲井雁は芯から嘆き悲しんだ。22
 夜の明げ方近くにタ霧も雲井雁も、御互に言葉を言うこともなく無言で、背を向けあったままで明け方を迎えた。夕霧は朝霧が晴れるのも待たないで、落葉宮に例によって恋文を書き始めた。腹の立つことをすると、雲井雁は思うが、前にしたように奪い取ろうとはしなかった。夕霧はことこまかに文を書いて筆を置いて歌をくちずさみ始めた。凍えではあるが雲井雁には聞こえていた。

いつとかはおどろかすべき明けぬ夜の
   夢覚めてとか言ひしひとこと
(何時の事と期待してまあ、落葉宮を訪問し驚かしましょうか。「長夜の悲しい夢がさめて、人心地がついた時に、御見舞の御礼を申す」とか、貴女がかつて仰せなされた一言を返事もなくて、どうしてよいのかわからず、困っています)
いかにしていかによからん小野山の上よりおつる音無しの滝」

 と認めになったのであろう、書いた文を包紙に包んでからその後までも、小野山の歌の句「いかでよからむ」を
口ずさんでいた。夕霧は人を呼んでこの文をわたした。雲井雁は落葉宮から返事が来れば見つけてやろう。 やっぱり関係はあるらしい。さて、どんな関係になっているであろうか。と夕霧の行動を見て彼女は思っていた。返事は陽が暮れてから使者が持って帰ってきた。文は濃い繊細な料紙であるが、内容はいたって愛敬がなく、なまめいた懸想風のものでなくて、小少将が書いたものであった。以前と同じ代筆で申し訳ない、取り次いだ甲斐がないと、詫びて
「夕霧様のお気の毒な様は、先頃あった夕霧様の御文の端に、落葉宮が、字を稽古して、無駄書きなされたのを、
こっそりと盗み出しました」
 と書いてあって、返書の中にその手習いした夕霧が送った文の端きれが入れてあった。落葉宮が一応は文を読んだ証であると、夕霧は嬉しかった。これは全く不体裁な事で、落葉宮が取りとめもなく書いたものを夕霧が見ると、

朝夕に泣く音を立つる小野山は
      絶えぬ涙や音無の滝
(明けても暮れても、私が泣く音を立てているこの小野山には、私の絶えず泣いている涙が音無しの滝となるのであろう)

 とあった。どう考えるべきか。この歌の他に古歌なども、何かと悲嘆にくれているような状態で、書き散らしているのは、なかなかの筆蹟であった。
夕霧は他人が今の自分のように恋に焦がれて、深く思いつめずにはいられない事は、歯がゆく、正気の沙汰ではないと思っていたが、さて自分がそのような状態になっている今、女に恋をするということは、体が切り刻まれるように堪えられないもので、わけのわからない不思議な事である。自分ながらどうして、落葉宮をこんなに思わねばならない心の煩悶であるか、心を見返ししてみるが、恋の力にはどうすることも出来ないのであった。
 源氏も誰かの耳から夕霧の恋のことを聞き、彼が意外と老成した人のように、何事にも万事落ちついて思慮があり、人が非難する点はなく感じよく過ごしているのを父親として、名誉なこと嬉しいことで、自分の若い頃いくらか、女あさりをした浮気が過ぎ、世間に浮いた評判を取ったことを息子がその不面目を回復してくれていると嬉しく思っていたが、その夕霧が、よりにもよって、雲井雁と落葉宮との、どちらも、困る結果になるであろう。夕霧と雲井雁の父前大臣とは、せめて他人ででもあるならば、まだ良いのに、前太政大臣なども、落葉宮とタ霧の事を聞いてどう考えるであろう。タ霧は前大臣の甥であり、落葉宮は柏木の嫁であるし、雲井雁は前大臣の娘である。夕霧はそれ位の事を、気づかぬわけではあるまいと思う。然し、タ霧が、落葉宮と、こんな状態になったのは、持って生まれた運命という宿縁から、タ霧も、逃れようとしても逃れることが出来ないことである。とにかく、このタ霧と雲井雁との一件は自分が口を挟むことではないと、源氏は考えた。然し、タ霧との関係は、いかにも女の方から見ると、落葉宮・雲井雁のどちらにも御気の毒であると、その点が気になり気をもむ源氏であった。源氏は紫上にも来し方行く末を思いながら落葉宮のように夫に死別した婦人の例を聞くにつけても、自分が、もしも亡くなるとして、その後に残る紫上の身の上を心配sると、紫に話すと、紫は顔を赤くして「情なくつらいこと、私をどうしても後に残されるつもりですか。
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 大体女ばかりが、身持も、思うにまかせず窮屈で、当然同情して貰わねば成りません。何か風流な催しにも、その風流なことに充分理解しながらも、女だからと遠慮して、分からないようなふりをしていたり、また、沈み込んだりなどしておるから男には分からずに何事にも、表だった世に花々しい栄光を負う事ができ、また、この世の手持無沙汰、所在なさを慰める事ができるものかなあ、その女を生まれてから今日まで養育した親の身になっても口惜しいことでありましょう。言いたいことを心の中でぐっと堪えて、無言大師とかいう名前を貰って法師達が説経の悲しい物語にする、昔から言われているように女は良きにつけ悪しきにつけ、分かっていながらも、その事が話されずに埋れてしまうということがつまらない。そうかと言って、自分の心のままであるとは言うものの、知っていて知らないようにするのも、または全く知らないのもつまらない。といって、いかにも知っていますというような知り顔するのは、なお悪いから過不足ないようよい程度を得るためには、女という者は誰からもよく見られるようにするにはどうしたらよいのであろう」
 と紫が言うのは、自分の身のためではなくて、明石中宮腹の女一宮、紫上の養女の、立派な養育の方針のためである。
 夕霧が源氏の許にやってきた。話のついでに源氏は落葉宮に恋をする夕霧のことを話題に出して、源氏はそのことを聞きたいので、