私の読む「源氏物語」ー59-夕霧ー2
「一條の御息所の喪は明けるのであろう。昨日であったか今日であったか。柏木も亡くなって三年になる。三年になれば柏木のことはせけんからは消えてしまう世の中であるから、考えてみるとこの世は本当にはかないとしか言いようがない。誰も皆、夕の露が草葉に玉となって置いている程度のはかない寿命が、いくらかでも長いようにと、慾ばり、苦労することである。私はなんとしてもこの髪を剃り世間を捨てようと思うのであるが、出家もせずこのように暢気な様子をして過ごしているよ。これは悪いことであろうか」
「この世には何も未練がないのに、皆さんは離れることが出来ないのがこの世ではありませんか」
と夕霧は言って、
「御息所の四十九日の法事は大和守という朝臣 一人でしたようですので、奇特な事であります。御息所のように有カな身寄りのない方は、生きているこの世の間だけは人が寄ってきますが、亡くなられてしまってははかなく寂しいものです」
夕霧は父に言う、
「朱雀院も御見舞なされるであろう。あの二宮は大変悲しんでいるであろう。以前に私が聞いておったよりは、最近、聞くとこによると、この更衣(御息所)は大変気だてもよく、非難する点もなくて、立派な人物中の一人なのであったそうだな。何と考えても彼女の死は惜しいことであった。この世に生きてなければならない必要な人が、この更衣のように早く亡くなるものである。朱雀院も驚かれたことであろう。あの二宮は私が所に嫁してきた三宮入道の次に美しく艶やかな人であった。彼女は性格も良いであろう」
「落葉宮の性格は分かりません。御息所は生前は、、人としての態度や、性格で、穏やかな方でございました。私には親しく物を言っておられましたが、
一寸したつまらない何かの機会に、自然、御息所の、人としての心づかいは
きちんとした方でありました」
と答えてゆうぎりは落葉宮のことは言わなかった。源氏は夕霧の心を察して、生真面目な気持で、落葉宮を思いそめてしまったとすれば、その事を、たとい諫めても、どうしようもないだろうと思った。注意してもタ霧が聞き入れないようなことを、自分が利口ぶって口にするのも、無駄なことであると、源氏はもう夕霧に何も言わなかった。
このような事情で、御息所の御法事は夕霧が総べて取り仕切って行われた。素のような噂は、自然に現れるもので、雲井雁の父の前太政大臣(頭中将)なども、世間の評判(御息所の御法事をタ霧が万事奔走して取り行ったと)を聞いて「夕霧が法事を仕切ったなどと、そんな事があるはずがない」と、落葉宮の考えが足りなく、タ霧に心を懸けたのであろうかと、推測するのは当然のことである。柏木と昔の縁故もあるから、柏木の弟たちも御息所の法事に
に参加をした。誦経の僧達への御布施などは、前大臣からも、大層立派に贈られた。柏木の弟たちもそれ相当な物を供えて贈った。そのような訳で御息所の法事は、時めく人の仏事に劣らない盛大な催しになった。
作品名:私の読む「源氏物語」ー59-夕霧ー2 作家名:陽高慈雨