小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私の読む「源氏物語」ー56-横笛

INDEX|5ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

 六条院内の明石女御の居間に、たまたま源氏が話している時であった。源氏は、六条院内の紫上の部屋に大体はいるので、タ霧は紫上の部屋を目ざして行ったのであった。明石女御の三宮である匂宮が三歳になるのであるが、兄弟の中でも特別に可愛らしい、源氏が紫上方に別に引き取って、育てながら住ませていた。その匂宮が夕霧を見つけて走り寄ってきて、
「大将よ私を抱いて母様の所へ連れて行って」 
 タ霧が、源氏の在否を、匂宮に尋ねたので匂宮は、源氏は今女御方におられると、告げたので夕霧はそちらに行こうとしたから、「抱いて行け」と、匂宮が言ったのであった。夕霧は笑って匂宮に、
「こっちまで来なさいませそうすれば抱いてあげますよ。私は紫上の御居間の御簾の前を、挨拶もせずに通り過ぎることは失礼ですので通りれません」
 と言って寄ってきた匂宮を抱き上げてそのまま動こうとしなかった。
「人も見ていないから、私が顔を隠してあげます、さあさあ行きましょう」
 と言って匂宮は自分の袖を広げて夕霧の顔を隠す、その姿が大層可愛いので夕霧は明石女御の部屋へそのまま入っていった。明石女御の部屋には匂宮の兄の二宮と薫とが遊んでいるのを女御と源氏が楽しく見ていた。夕霧は明石女御の部屋の隅の間の辺に匂宮をおろしたのを二宮が見つけて、
「私も大将に抱いてもらいたい」
 と夕霧せがむのを、匂宮が見て、
「我が大将であるのになあ」
 と言って、タ霧を手もとに引っ張った。源氏はそれを見て、
「これこれ行儀の悪いことをするでないぞ。夕霧近衛大将は帝の御そばの護衛であるものを、それを、自分一人の随身として、自分の物にしようと、二人は喧嘩して。弟のくせに匂宮は本当に、たちが悪く、始終、兄に張り合うことよ」
 と、注意して二人の間に割ってはいる。夕霧大将も笑って、
「二宮はすっかり兄上気分で、弟匂宮に譲るところは、いかにも聞き分けがよくてありなさる。二宮は御年は四,五歳の子供に比較すると、びっくりする程賢こうございますね」
 と夕霧が父源氏に言うと、源氏は満足そうに笑って、両宮とも本当に可愛らしいと、明石女御達に言う。
「隅の間はは、タ霧のような大臣か三位以上の公卿の御座としては、みっともなく、また軽々しい御座である。私の居間(紫上の居間)であるあちらに、移るように」
 と源氏は夕霧に促して立ち上がると、子供達が源氏に纏わり付いて源氏を放さない。その中に薫も混じっているのを源氏は、薫はこの中に混じってはならないぞと、心の中では思うのだが、特別に、薫にそのような扱いをすれば、自分の気持ちを三宮が察して、薫の母三宮が、却つで柏木との密事の件を思い、ひがんだ考えをするであろうと、こんな風に考えるのも、源氏の持って生れた心の癖で、三宮を可哀想な境遇にあると思うと、明石女御の子供達と同じように可愛がっていた。夕霧は薫をしげしげとゆっくり見たことがなかったので、御簾の隙間から顔を出して桜の花が付いたまま折れてあるのを拾って、薫に見せて手で招くと、薫は走ってきた。二藍色の直衣だけを着て色白で可愛らしく美しいところは明石女御の子供より勝っているように見え、まるまると太っている。柏木の子供ではないかと思って見るせいか、眼つきなどは薫の方が柏木よりも、少しきつくて、才覚のある様子は、勝れているけれども、
目尻の切れ目の、なんとなくさがっている様子は、柏木に大層よく似ている。口元はきわ立ってはっきりしていて、にこにこ笑っている様子など、よく見たらどうか知らないが、タ霧は、突然見たせいだろうか、本当に柏木に似ている。
 多分父の源氏は、柏木に似ている子であると、必ず気づくはずであると、前にも増して源氏の考えが知りたくなった。
 明石女御の子供達は、帝の血を引く高貴な子供という先入観から見ると、気のせいでいかにも気高く上品に見えるのであるが、世間普通の可愛らしい幼児達とあまり変わりはないと夕霧は見るのであるが、薫は貴くみやびやかな容姿は、格別に勝れて人目を引く程美しいところを明石女御の子供達と見比べて夕霧は、さてさて薫は気の毒である。もしも柏木の子かと私の疑が真実ならば、柏木の父親が柏木の死後あのように惚けてしまわれ、柏木の子供であると名のって出て来ることも出来まい、せめて、柏木の形見として見る子供だけでもこの世に残しておきたいと、悲痛に思い、薫が柏木の形見の子供であることを、もしも柏木の父に自分が告げないとすると、それは罪作りなこと、と考えるが一方では、薫が柏木の子であるということはあるはずがない、とも考えてみたものの、いろいろと自分が聞いたことなどを考えてみるとやっぱり合点が行かず、判断に苦しむ。容姿の勝れている上に気立てまで、薫は親しみがありやさしくて、夕霧にまとわりつくのを夕霧は他の子供たちよりも可愛く思わずにはいられないのであった。  六条院の紫上の住居で、源氏の常にいる所の西の対へ、源氏が戻ってしまったので、夕霧もそちらに行って源氏と話をしていると日が暮れてきた。夕霧は昨日一条宮に落葉宮を訪問した折のことを話すと源氏は微笑みながら聞いていた。しんみりとした、柏木在世当時の昔の事や、源氏に関係したことなどを源氏も応答しながら話す中で、 「落葉宮が想夫恋を弾かれた気持はどうなのであろうか、なる程、物語などにもある昔の例にも、そのようなことがあるものだが、女は、落葉宮のように、男の心が動揺する程の奥ゆかしい情趣を簡単に男に示しては宜しくないのではないか、落葉宮は、想夫恋など弾かない方がよいのであったと、気がつかずにはいられない事なども沢山ある。亡くなってしまった柏木との交友を忘れず、時々見舞って、将来までも続く厚意を落葉宮に認められたとするならば、厚意は懸想心などはなくて潔白な心で、何事にも世話をやき、然し決して、感心しない浮気のないことが、タ霧と落葉宮のためにも、奥ゆかしく、人目にも当然、醜くないはずの事であろと、私は思うよ」
 と夕霧に諭すように言うと、
 その通りであるなあ。けれども、他人の男女の交わりについては、自信を持ってしっかり言われるが、自分の落葉宮に対するような浮気心は、もし源氏自身であったらどうするであろうか、と夕霧は父の浮気心を知っているので源氏が真面目に語るのを、そのような気持ちで聞いていた。が返事は、