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私の読む「源氏物語」ー52-若菜 下ー3

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 三宮の様子がおかしいと言うことを聞いて源氏が六条院へ出かけねばと思う。そのことを紫に告げようと彼女の病室へ行くと、紫は、暑くて気分がむしゃくしゃすると言って、髪を洗い気分がさっぱりと、爽やかに落ち着いていた。洗髪を横になったまま、広げてしたので、急に乾かないけれども、癖毛が濡れて撓み膨らんで髪の筋が少しも乱れたところがなく、顔色は少し青みを帯びてやつれてはいるが、特にその色は青と言うよりも白く綺麗で、透き通っているように見える肌色などは、またとなく可愛らしい様子である。虫の抜け殻のようにまだまだ少しふらついているようである。源氏が離れてから暫く人の住まない二条院の内部はことのほか荒れて狭く感じる。紫は昨日今日と気分が晴れているので、特に念を入れて造園した引き水や、植込が、見ただけでも気持よさそうな風情を醸し出しているのを眺めながら、今まで生き長らえて来た事をしみじみと思うのである。池の水は満々として涼しさを送ってくれる、蓮の花が咲き、葉の色は緑で露の玉をきらきらと輝かせている、傍らから源氏が、
「ほれ見て御覧。蓮は一人だけ涼しそうにしているではないか」
 言われて紫は上体を起こして蓮を見ている、源氏は久しぶりの紫の姿に感激して、
「このように元気になったお前を見るのは本当に私は夢のような気がする。お前だけでなく自分もこの世の終わりと本当に覚悟したことが何回もあったよなあ」 
 と涙を流して喜ぶ夫の源氏を見て、紫も感激して、

消えとまるほどやは経べきたまさかに     蓮の露のかかるばかりを
(私は蓮の露が消え残っている程の短い間も、生きている事ができるでしょうか。私の命はたまたま露が蓮の葉に頼ってこうしているだけの短いものでしょうね)

 源氏は、

契りおかんこの世ならでも蓮の葉に
      玉ゐる露の心隔つな
(今から約束をしておこう、この世だけではなく、あの世に行っても、蓮葉の上に玉となっている露のように私の心から離れるなよ)

 今から三宮の許へ出かけようと思うのであるが、源氏は気が進まないのである。しかし帝や朱雀院の耳にはいることもあろうから、三宮の体調が悪いと言うことを聞いてから日数が立っているので眼前の紫にかかわっている間に、三宮を見てやることが出来なかったので、紫の病中ずっと付添っていた上五月雨の止んでいる間で紫の気分がよいときに二条院にぱかり居てはなるまいと、思い切って六条院へ向かった。 三宮は柏木との浮気のことがあり良心に咎められて、源氏の前に出るのも、恥ずかしく気づまりに思い、源氏が何かを話をしても返事をすることが出来ない。源氏はそんな三宮を見て、彼女の浮気したことは分からないので、紫の看病の間放っておいた恨みが貯まったものの表面は、さらりと何気ない風をして、内心は恨めしいと思っていると、源氏は可哀想に思い何やかやと慰めの言葉を三宮に言う。古くから居る女房を呼び三宮の体の調子を尋ねる。
「普通ではないようで御座います。お子がお出来になったのでは」
 と最近の三宮の体調を告げる。
「婚姻して相当年がたち今頃妊娠とは珍しい事であるなあ」
 とだけ言って、心の中で、長年連れ添った夫婦で子なき者が、年を経てから子供ができるなんて、妊娠と言っても本当だろうかと、思うと、とくに三宮には妊娠の事に触れてずに相手になって話し合い、何となく病のために可愛く見えるのを源氏は、なんと可愛い子供もであると、見ていた。長い期間紫の看病でようやく御思い立って来た六条院の三宮の許であるので、すぐに二条院に帰ることも出来にくく、二、三日三宮と添い寝をして三宮の気分を安らげていると、紫がどうしているのであろうかと、気になり紫に申し訳なく思うので、休みなく言葉を尽くして文を書き紫に送る。
「いつ文に認めるような出来事が現れるのであろう。あのように紫様にせっせと文を書かれるとは」
 三宮の妊娠がどうした原因かを知らない女房達は、源氏の紫に対する細やかな行動を蔭で非難をする。いずれも朱雀院から三宮に従ってきた者ばかりであるから。
 柏木の夜這いを手引きした女房の侍従は、他の女房達の言葉に胸が詰まった。柏木も源氏が長い紫の看病が一段落付いたので三宮の許に来たことを聞き、身の程をも弁えずに分下相応な考えで夜這いをして、三宮と会うことがもう出来ない恨みごとを細々と書きつづって三宮に送ってきた。源氏が六条院で紫が使っていた対の部屋の模様を見に行ってる隙に、小侍従は三宮に柏木の文を渡す。
「このような読みたくもない文を送ってくるなんて、見たくもない。見れば気分がますます悪くなる」
 と三宮は文を見もしないで横になった。小侍従は、
「すぐご覧なさいませ、この端に書いてある文は大変悲しそうで御座いますよ」
 と広げて文を三宮に見せるところへ他の女房が近づいてきたので、急いで几帳を引き寄せて文を見る三宮を隠して自分は去っていった。三宮があわてているところへ源氏が戻ってきたので三宮は柏木の文を隠すひまがなく自分の寝ている布団の下に押し込んだ。
夕方になって源氏は二条院へ行こうとして三宮に別れの言葉を言いに来た。
「なたの病気はそう悪いとは見えないからね、まだふらついて完全に病を癒えたということでもない紫が、私がここに居れば見捨てられたように思うであろうと、それが可哀想でならない。紫を私が手厚く看病するのを人はとやかく言うのであるが、貴方は私を信用して下さいよ。もしも誤解しているのなら直ちに訂正してくださいな」
 三宮は子供みたいな冗談ごとなどを源氏に甘えるように言うのであるが、今日はひどく沈み込んで、源氏と目を合わすこともないのを、これは紫に嫉妬をしているなと見ていた。三宮の昼の座敷に、二人で横になり抱き合ったまま小声で二人だけの話をしている、源氏は殆ど片手を三宮の手枕とし、空いた手は彼女の乳房を愛撫していた。季節柄割合に薄着をしているので二人ともお互いを愛撫するには支障が少なかったので充分愛撫し尽くし、日が暮れる頃まで二人の語らいは続き源氏はそのまま少しうとうととした頃に、ひぐらしが賑やかに鳴くので目を覚まし周りが暗くなっているのに驚き、
「それでは帰るよ、暗くなっては道が分からなくなるから」
と乱れた服装を直す。
「月の出るのを待って帰れとも、古歌に詠われています、今暫くゆっくりなさってください」
 三宮は若々しい声で源氏に訴える、
その姿はどうしようもないほど可愛らしい。
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聞いて源氏は、月の出るまでの暫くの間でも語り合いたいと、思っているのであろうと、可哀そうに思い源氏はつと立止る。二人の掛け合いの話は古歌の「タ闇は道たどたどし月待ちて帰れわが背子 その間にも見む」を源氏が、「タ闇は道たつたつし月待ちて行かせわが背子その間にも見む」を三宮が引き歌としている。
 立ち止まった源氏に三宮は

夕露に袖濡らせとやひぐらしの
  鳴くを聞きつつ起きて行くらん
(夕露に袖を濡らして蜩の鳴くのを聞きながら、貴方は夕暮に起きて帰られるのですか。普通ならば殿方は、夕暮に御越しなさるものを)

 子供っぽい三宮が詠む歌が可愛らしいので、源氏は止まって、
「これは困ったことだ」