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私の読む「源氏物語」ー51-若菜 下ー2

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 聞いて女御は悲しくて涙を流す。側にいる源氏は、
「縁起でもないことを言うものではないよ。そんな事を考えないように。たとい病気が重くあっても死ぬ事はないと私は見ている。どのようなことでも心の持ち方一つで人は生きる事も死ぬ事もある。心の広い器量人には幸運もそれについて来るし、気持の小さな人は当然そうなるぺき因縁で、たとい高い身分になっても寛容で、ゆったりと余裕のある点は劣り、心が性急な人は、とかく落着かないので、何時までも長くその地位を保って行くことが出来ず、心持がのんびりとし穏やかな人は、寿命が長いという例がどうも多いようであるなあ」
 と紫を慰め、神仏に紫が珍しい程に立派で、罪障の軽い事柄を願文中にしっかりと書き置くのであった。
 加持祈祷を行なう阿闍梨達や夜病人の傍に詰めている夜居の僧などでも、紫上に近く伺候する全部の立派な崇められている僧などは、源氏が紫の病状に全くこのように途方に暮れている様子を見たり聞いたりして自分たちも苦しくなって気持ちを改めて一心に病苦平癒の祈願の経を唱えるのである。紫は病状がいくらか良くなったかという日が五、六日あってまた重くなりそのような状態で日にちが過ぎていく。源氏はそのような紫を見て、やはり重い病であるのであろうか直る見込みはあるまいと、気分が重い。物怪であるなどと言って現れ出て来るものもない、何が原因なのかが掴めない。日に日に弱っていく様子だけがはっきりと見えて源氏は悲しくて心のゆとりが全くなくなった。
 
話が変わって柏木衛門督のことを話そう、彼はこの間に中納言になっていた。帝が柏木を大変信頼して大事にされ、柏木は時の人になっていた。柏木は帝の覚えが目出度くなるに連れてまだ三宮への恋心のに悩んでいたが、どうしても親王と結びつきたい彼の気持ちから、恋しい三宮の姉の二宮を正妻として朱雀に頼み込んで迎えていたのであった。二宮は身分の低い朱雀の更衣腹の内親王であったから、宮家の女であってもそんなに妻としても気を遣うこともないであろうと思って、朱雀院のお引き受けをしたのである。二宮の人柄はそこらの女に比べれば遙かに優れた女であるが、夫の柏木が最初から心に恋を刻み込んでしまった妹の三宮を思う気持ちを超えることが出来なかった。であるから柏木はこの二宮との毎日の生活を他人からは何事もなく送っているように見せてはいたが、毎夜添い寝をしても心も体も慰めることが出来ず、まるで周囲から疎外されて老後を送る大和物語の
 わが心なぐさめかねつ更級や姨捨山に照る月をみて
(二宮を見ても、三宮恋しさに心は慰めかねる)と言う程度の妻らしく扱っていた。そうして、柏木の内心を未だに忘れないあの小侍従という柏木の味方の女は、三宮の乳母の女房の娘であった。その乳母の姉はこの問題の柏木の乳母であるという縁から、小侍従と柏木は小さい頃から親しい仲で、柏木は早くから、自分の乳母から直接三宮の噂を聞いていて、三宮が幼少である頃から綺麗で、父朱雀院が可愛がる様子などを知っていてその頃から三宮への思いが心の内に芽生えていたのであった。
 このように紫の病気で源氏が二条院へ詰めっきりであるので六条院の方は人数が少なくなっていた。柏木は多分六章院は手薄であろうと思い、自邸に小侍従を呼び寄せ、
「お前はもう何年も、私がこんなに命がけで三宮への思いに堪えているのが分からないのか。お前と俺とは小さいときからの仲ではないか、お前から何回も三宮のことを聞き、俺がどんなに三宮を思慕しているか、お前から姫に何回も言ってくれているとばかり思っていた。それだから今に何とかいい話があろうと頼りにしていたのであるが、一向にその甲斐がないから俺は辛くてたまらない。姫のお父上の朱雀院も、婿殿の源氏様が大勢の婦人達囲っておられ、しかもその婦人方の中で、紫上の寵愛が高く、三宮は圧倒せられて独り寝をする夜が多く、寂しく暮らしているということを申し上げる人もあり、朱雀様もそのことをお聞きになると、源氏様に三宮を嫁にやったことを悔やんでおられる様子である。朱雀様は三宮の婿を選ぶのにどの道同じ事ならば、臣下であれ三宮を大事にしてくれる人を選ぶべきであったと、おっしゃり、二宮は柏木の許に嫁にやりよく世話をしてくれて先々安心であると、言われたことを人から聞いている、三宮が気の毒でもあり、源氏に嫁したのを残念に思っておられるようである。そのことを聞き私はどんなに悩んでいることか、朱雀院の皇女であるから二宮と三宮とは同じ姉妹であるとして私は二宮を妻として迎えたのであるが、二宮は二宮、三宮は三宮全く別のことである」
 と一気に喋ると溜息をつく、小侍従は、
「まあ、身の程を知らないことを言われますね。奥さんの二宮をさしおいてどうされるのですか、本当に欲深い方ですね」
 小侍従は小さいときからの付き合いであるので柏木にずけずけと言う
、聞いて柏木は笑いながら、
「本当にそうだなあ。三宮の婿にと朱雀院に申上げかけたことは、朱雀院も、帝も、御承知なのであったことよ。だから、三宮の婿として柏木はどうかなと、何かの機会に朱雀院が言われたことがあった。だからお前がもう一踏ん張りしてくれるならば、私の望みが叶うのだがなあ」
「それは大変難しいことですわ。人にはその人の運というものがあります、源氏様が、三宮をわが妻にと鄭重に朱雀院に申上げなさる場合に、源氏様に肩を並べて、源氏様の求めを邪魔をすることが出来るだけの柏木様のお力が御座いましたでしょうか、貴女は思いなされたか。近頃こそ、衛門督・中納言と地位が少しは重々しく貫禄もつき、ご衣装の袍の色も濃く中納言三位で、袍は深紫となられましたがね」
 とばんばんと口達者にまくしたてる小侍従に柏木は答えることも出来ずたじたじとして、
「もういいよ、昔のことは言うまい。お前はこのように紫上の病気で六条院に人のいない珍しい滅多にない機会に、何か几帳などの隙間で、三宮に近いところから私の心の思いを告げることが出来るように考えてくれないか。大それたこの頼みは私がどうなろうとも構わないと見てくれ。恐しい事であるから私は諦めてはいるのだがね」
「そのような貴方の心を三宮姫に告げるというような大それたことはこれ以上はあるまい。全く貴方は気味の悪い事をまあ思いつきなさる。こんな相談事であるならば私は、何のためにこちらに参上したのだろうか」 子供の頃からの親しさで小侍従は柏木に口をとがらせて遠慮無く言う。
「なんと遠慮無く物を言う。ちょっと大袈裟にお考えではないですか。男と女の仲というものは規則通りには行かないものですよ。女御や后も
何らかの事情があって、帝以外の人に逢うということも例がないとは言わさないよ、かならずある。三宮も皇女であり、源氏様の妻として類がなく幸運であるけれども、心の中では紫上に抑えつけられて色々と心の中に思うことがあるであろう。朱雀院の何人かの姫のなかで三宮のみは