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私の読む「源氏物語」ー50-若菜 下ー1

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 それはそうと柏木は念願の唐猫を得て夜になると自分の寝床の側に置いた。夜が明けて来ると、猫の世話をして、撫でたりさすったりして非常に可愛がって育てる。そうするうちに慣れなかった唐猫も次第に柏木にうち解けて、何かの拍子には袴の裾にじゃれつくほどになり、柏木にすり寄って甘えるのを柏木は心底可愛いと思うようになった。柏木が考え事をしていて簀子の近くに物に寄りかかって横になっていると「にゃう、にゃう」
 と可愛らしい声を上げて近寄ってくると柏木は抱き上げて体を愛撫し、
「こうしていると三宮への思慕の情がますます進むなあ」
 と呟いてにこりと笑う。
「恋ひわぶる人のかたみと手ならせば
      なれよ何とて鳴く音なるらむ
(恋いしくて恋しくてたまらない女三宮の想い出の種と思って手なずけると、唐猫よ、「ねう/\」寝よう寝ようとどうして鳴くのであろう) これもお前と私の昔から定まったことなのかなあ)」
 と唐猫を見つめて独り言を言うと猫はますます可愛く甘えて鳴くので、彼は懐に入れてじっと見つめていた。柏木の側に仕える女房達はその主人の姿を見て、
「突然現れた新参者の猫がこのようにどうして愛玩されるのだろう」
「今まで猫などを見向きもされなかったのにねえ」
 と不審がっていた。柏木は春宮から返して欲しいという催促があっても返さず、猫を話し相手に終日を過ごしていた。

 左大将黒鬚の北の方に納まった玉鬘は実父の太政大臣(昔の頭中将、源氏の亡き妻葵の上の兄)の子供である柏木や弁少将などの異母弟よりも、仮親である源氏の息子の夕霧右大将を昔通り六条院で実の姉弟と思って遇した時のように、信頼を寄せて今も親しく思っているのである。玉鬘は性質が利口で人なつっこい女で。夕霧と会うときは他人行儀な様子はなく、姉弟らしくねんごろにこまやかに扱い話をするので、
夕霧も実の妹である明石女御(桐壺)が、夕霧によそよそしく寄りつきにくいからか玉鬘に夫婦でも姉弟でもない睦しさで互に思い合っていた。玉鬘の夫の鬚黒大将もかっての北の方と離別をして今はこの玉鬘をこよなく大事にして愛していた。玉鬘は鬚黒と結び男の子供ばかりをもうけたので何となく物足りず、前の北の方が連れ去った娘の真木柱姫をこちらに呼び寄せて育てたいと考えるのであるが、真木柱の祖父式部卿宮はきつく許さなかった。祖父の式部卿宮は、
「せめて、この真木柱姫だけでも世間の人から笑われないように育ててみたいと思う」
 と常に周囲の者に言い、式部卿の宮も世人の評判も高く、冷泉帝もこの式部卿宮への信頼はこの上なく高い。式部卿宮は冷泉帝の母である藤壺女御の兄であるから伯父にあたり、娘は宮女御で自分の側に仕えている。帝は式部卿の奏上することは反対することは出来ず、帝には式部卿は煙たい存在であった。式部卿は一般的に言うと現代で、派手な宮で源氏や、太政大臣に次いで人々もこの宮の所に参上し、世間の人もこの宮を重く思っていた。
 鬚黒大将もいづれは国家の重鎮となるはずの候補者であるから、娘の真木柱姫の評判は悪かろうはずがない。求婚をしてくる者も多いが、式部は許すことをしなかった。衛門の督である柏木を、もし彼が真木柱に求婚をしてくれば許すことにしようと思っているのであるが、柏木は三宮から春宮にそして自分の懐にある唐猫に比較して、真木柱を軽く思っているのであろうか、全く意中にないことが鬚黒にとっては残念なことであった。真木柱は母が妙にひねくれている人で、世間の普通の人とは少し違うようで、世間からは見放されているのを悔しく思い、継母になる玉鬘の生活が当世風のいかにも花やかな性質であるのを慕って近づいて行きたく思っていた。
 源氏の弟の蛍兵部卿の宮は未だに独身でで、気に入って希望した玉鬘・三宮いずれにも袖にされたので、これ以上女を求める興味を無くし、世間からも笑いものにされていると自然に思いこみ、そんな風にして独身のままで何時までもふらふらと日にちを送ることは出来ることではないと考えて、今世間が騒いでいる真木柱に木を入れて近づこうとすると、式部卿の宮は、
「これはお断りできない。どちらかへ仕えさせようとする女子ならばまずは内裏へ、さもなくば親王家にということである。臣下で、真面目で、平凡な者をぱかり、婿として当今の人が尊重するのは、品のないことである」
 と言って蛍宮をあまり心配させることもなく真木柱を嫁にとすることにした。蛍宮はそのことを聞いて、
「あまり、話が簡単過ぎて却って物足らない。こちらが心配することもなく許されたのではあっけなかすぎる」
 と思うのであるが、真木柱の父式部卿宮は今権勢が高い人であるので、断ることも出来ずに真木柱の許に通い始めた。式部卿宮は蛍兵部卿宮をこの上もなく大切に扱い申し上げた。
「私には子供が大勢おりますので、その中の女で鬚黒のもとの北方にも宮女御にも色々と心を痛めることが沢山ある故にたしかに婿殿には懲り懲りするに違いないのであるけれども、この真木のことを捨てて置きかねるとどうも思うのであります。この娘の母は、年月がたつにつれて妙なひねくれ者に次第になっていき、この真木の父である鬚黒は見かねて真木を引き取りたいと申し出るのであるが、私が真木柱を渡さないと言って、真木柱を冷たく見放されたようであり、真木の立場は悲しいものでございます」 と言って立ったり座ったり忙しくして自身で世話され、熱心に気に掛けて御やりなされた。蛍宮は亡き北の方を未だに恋しく思っているから、新たな女は亡き北の方に似た女を妻にしようと考えているので、今、目の前の真木柱を見るに姿形や性格は悪くはないが亡北方と比較してはどうも似たところがないように思うのであったのであろう、真木柱の許に通うのも何となく沈んだような姿であった。新婚の喜びを見せない二人の姿に式部卿は、蛍宮が孫娘に気が進まないように思い不満であった。