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私の読む「源氏物語」ー48-若菜 上ー3

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 紫は三宮との初対面にこのように化粧や髪、衣装と気を配るのを、自分から訪ねて行くのは身分が三宮よりも下っているようである。しかし自分は、宮家につながる式部卿宮の娘であり、また自分は源氏の北方として世人からは並ぶ者がないと認められている、だから自分の目上の人がいて、その人に従うような立場ではない。この六条院で自分より上に立つ人が存在することはないはずである、と思いながら襲の袖を通したりして、色々と心の中が騒がしかった。彼女はやはり三宮に対して嫉妬していたのる。紫は最近習字をするにも自然に古歌のしかも物を思い詰めた歌ばかりを書くのに気がつき、さては自分も色々と思い詰めることがあるようになり、又そのことに心を痛めていると、自分自身感じていた。
 源氏が紫の着替えをしているところにやってきて、紫の正装姿を見る。最近この六条院に移ってきた三宮や明石姫の若い女性を見慣れた目には、長年見慣れた紫の少し年増の正装の姿などはそう驚くようなことでもないのであるが、今日の紫の出で立ちには、この女はやはり優れて抜きんでた所があると、つくづく思いつめてじっと紫の正装した重厚な姿を見つめていた。いい女を我が物にした事よ、紫はどこまでも気品が高く、紫に面会する女達は自分が恥ずかしくなる思いがするほど容貌も今なお現代風に若気であり、着ている衣装も何となく引き込まれそうな艶のあるなまめかしい香りが漂い紫は今が女の絶頂期であると見えた。実際に去年より今年、昨日より今日と女の艶が増していく新鮮さがどことなくにじみ出ている。その紫をしみじみと眺めながら源氏は、
「女の本当の美しさとはこのような女を言うのである」
 とつくづく思うのであった。そんな源氏を見て紫は手習いをした紙が下に散らばっているのを急いで机の下に隠したが、源氏は見逃さずにその紙を取り上げてじっと観察する。習字の筆跡は別に気取ることもなく伸び伸びとあでやかに書かれていた。

 身に近く秋や来ぬらむ見るままに
      青葉の山も移ろひにけり
(私の身近に秋が来たのであろうか、見るに従って青葉の山の木の葉も色が変ってしまった)

 という歌に源氏は目をとめ、自分のことを言っているなと、

 水鳥の青羽は色も変はらぬを
    萩の下こそけしきことなれ 水鳥(鴨)の青い羽根は色(私の心)も変
らないのに、秋の下葉(御身の下心)こそは、様子が前と違って来ておりまする(水鳥(鴨)の青い羽根は色も変らないのに、秋の下葉こそは、様子が前と違って来ておりまするな)

 と水鳥を自分に例え、紫がk秋やこぬらんと、自分の変心をなじっているのを切り返し紫の筆の横にさらさらと書きしたためた。
 三宮が源氏の正妻としてこの六条院へ嫁してきてから、何かにつれて紫は気難しい様子で源氏に接してくるのを何となく感じていたのであるが、それでも何とかして源氏には知られまいと努力している紫の姿に源氏は感謝をし、また哀れなことをしたと思っていたのである。この夜は三宮の床にも、紫の床にも源氏は添い寝しにくく、そうなればやはり今頭に浮かんでくるのは朧月夜の二条宮のことである、準太上天皇という身分にあってはならない夜這いであるが、と思いながらも源氏はあの朧月夜の肌や匂いが忘れられず、どうしても止まることが出来ない、男は一旦欲望を覚えると止めることが出来ない哀れなものである。
 春宮女御の明石姫は実の母親である明石の上よりもどちらかと言うと紫の方を母親として頼りにしていた。幼児より父親の源氏の意向によって実母の明石の上から離されて紫に引き取られて育ったからであろう。明石姫は美しく立派な大人になっていくのを紫は実の娘のように可愛いと思っていた。久しぶりに姫と向かい合って話が出来て紫はとても懐かしく、二人相談の上中の戸を開いて三宮と揃って対面した。三宮は本当に幼く見えるので話しやすく、紫は自分が三宮の親のような気がして、親や先祖からの昔の血統までも辿って話をする。三宮と紫上とは従姉妹なのである。紫の父親と三宮の母は兄妹である。紫は三宮の許に控えている中納言の乳母を呼び寄せて、
「私たちは同じ先祖を持つ間で、姫に対して畏れ多いけれども姫と私とは他人ではない従姉妹になります,今までは機会がなくて、御目にかからずにおりましたから、今後は親しく、私のおりまするあちらの居間などにも、御出かけなされませ。もし私の方で不行届きなことがあるような場合には、ご注意してくださればどんなにか私は嬉しいことでしょう」 と、中納言に言うと、
「姫は頼みになり、力になって下さる方々に色々な理由から、父朱雀院は出家されて山籠もり、母源氏宮は早くに他界され、三宮は一人この世に残こされて寂しげな境遇でありなさるから、紫様からこのような打解けた御親切な仰せを伺ってこの上もない喜びと安堵な気持ちで私は自然に、嬉しく思われるのであります。朱雀宮の御意向も、紫様がこのように三宮に御心を隔てなさらず、まだ幼稚な姫を教え育てて御世話して下さるであろうと、かつて内々に私にお言葉がありました。姫はいかにもそのように紫上様を、頼りにしておられます」
「それはもったいない朱雀様のお願いであります。それでもご期待に添うことが出来ないたいした思慮もない私が口惜しいです」
 紫は気楽で大人らしい話し方で三宮が落ち着くように、お雛様が古くなっても見捨てにくいものであるとか、子供らしく話しなさるから、源氏が、紫上は「心などよき人なり」と、前に言ったが、その通りなる程三宮と紫はいつの間にかすっかりうち解けて話を弾ませていた。この日の対面の後はお互い文を交換したりして、楽しい遊び事についても遠慮なく連絡しあっていた。さて世の中の関係ない人たちはこのように紫と三宮のような関係について噂をするものである、だから、
「紫は三宮をどう思っているのであろう」
「源氏の紫への思いは、昔のようにはあるまい、最近は少しお通いも減ったことであろう」 と言うような噂が飛び通ってはいたが、実際にはこういう事が特にあっても、源氏と紫の仲は以前より深い事が分かると、噂は、三宮への源氏の情愛が劣っているということが三宮との間の不和のように噂する人々もある。ところが紫と三宮とが睦まじくして世間の人が言うような、嫉妬したりその上憎しみ合うという風な点もなく親密に交際しているのを世間が知ると噂はいつしか消えてしまい二度と立たなくなった。