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私の読む「源氏物語」ー48-若菜 上ー3

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 あの当時源氏は、関係のあった女達の中でこの上なく深く熱心に朧月夜を愛していた気持ではあったが、僅かな逢瀬で終わってしまったことは自分に責任があると、源氏は朧月夜には済まないことをしたと悔やんでも悔やみきれない気持ちでいた。

 源氏は居間の紫上の側にこっそりとはいり、寝乱れ髪の紫の寝姿を見ているのを紫は気がつきながら
「多分、 朧月夜に逢って来たのであろう」
 と感づいてはいたが、気づかない風をしていた。そのような紫の態度は源氏にとって嫉妬をむき出しにして言葉を掛けたりすねた態度を取られるよりも辛かった。源氏はこのように私を見放してしまい諦めてものの一つも言わなくなったのであろうと、紫の態度を見て自然に思ってしまい、嘘寝をしている紫に向かってありとあらゆる考えられる情愛の言葉でもって、この先の長い二人の世を約束する。朧月夜と昨夜の関係は紫に言うべき事ではないが、紫は往事の源氏と朧月夜の関係はよく知っていることであるので、全部とは言わないが少しだけでもと、
「障子越しに、昨夜は朧月夜と僅かの時間であったが対面してきましたよ。けれども話にまだ残りのある気がする。なんとかして、人目につかないようにして内々にもう一度逢いたいものと思うのだが」
 紫は源氏を見て笑って、
「陽気で花やかに貴方は若返ったようでありますね。昔の朧月夜への恋を、今の女三宮への恋の上に改めて加えなさるとはお元気なこと、私はどっちつかずに漂う身となってしまい辛うございます」
 と言ううちに涙ぐんでしまう紫は可愛らしく艶なる姿に源氏は胸を打ち、
「このように機嫌が悪いことを言われると本当に私は困ってしまう。気に入らないのであれば私をつねるなり引っ掻くなり叩くなどをして、恨み言を言ってくださいよ、二人の仲が裂けてしまうように貴女と長い間添って来たのではないのですが」
 紫の機嫌取りをしている間に源氏は朧月夜との昨夜のことをすっかり隠すことが出来なくなって白状してしまった。それでも紫上の機嫌が直らないから、源氏は衣装を脱ぎ捨ててそろりと紫の横に添い寝をする。三宮の方にはとても渡ることは出来ない、静かに紫の懐に手を入れて乳房を愛撫する、耳元で紫の好きな愛の言葉を静かに繰り返し繰り返しささやき続けた。紫の薫りと源氏の薫りが混じり合って二人の気持ちを落ち着かせていく、紫の怒りが源氏の愛撫で女の血のたぎりに静かに変化していった。昨夜の朧月夜とは少し違う女の応対であったが、源氏はしばらくぶりの紫の女体に気持ちが没入していくのである、几帳の中での二人の愛撫は女房達が伺っているということは、すでに愛欲の世界に入り込んだ二人の頭の中にはなくなってしまっていた。紫は熱くなった源氏を体の中に感じてすべての邪念が消えていて歓喜の世界へと突入していた、こんなのはずいぶん久しぶりだ、紫は思いながら頂点に達したまま源氏の胸に抱かれていた。
 三宮は夜の独り寝を何とも思っていないのを、お付きの乳母や女房達が、何という源氏の態度であると不平不満を互いに話し合っている。三宮が嫉妬して面倒なことになっているのであれば、源氏は三宮は親王の身分であるから紫以上に気を遣わなくてはならないのであるが、そのようなこともなく穏やかであるので、可愛い人形のように源氏は考えていた。

 朱雀院と承香典殿女御との間に生まれた男の子が冷泉帝の春宮となっていた。その女御に源氏と明石の上との間に生まれた明石姫が女御として入内して、桐壺女御と呼ばれていた。彼女は入内してからそのまま内裏に残り、春宮が彼女を好むので六条院の源氏邸に里帰りが出来なかった。里帰りを願っても春宮がなかなか聞き入れてくれない、彼女は六条院の姫であった頃の自由なに暮らしていたのを思うと、この内裏の生活が固苦しくてたまらなかった。明石姫は夏頃から体調が思わしくなく女御としての勤めが苦しく感じられたので、春宮に里帰りの願いをするのであるが、春宮は許さなかった。

 明石姫は大層困っていた。明石姫の体調が優れないのは妊娠したようであった。明石姫はまだ若くなよなよと可愛らしい十三歳なので出産は本当に大変であると関係者の誰もが思っていた。明石姫はやっと里帰りの許可が出て内裏を退出して六条院に帰ってきた。六条院では三宮が生活している寝殿の東側を明石姫の部屋と決めて設備を整えた。姫の母親の明石の上は源氏の許を離れて明石姫とともに内裏で暮らしていたのであるが、この女は幸運の持ち主であると誰もが思っていた。紫の上は明石姫の許を尋ねると同時に、
「中の仕切りを開いてもらって三宮にお会いしたい。私はかねてから三宮にお会いしたいと思っていたのであるが、ついでがなく気恥ずかしいからお会いすることが出来ずにいるのであった。明石姫を訪ねるという機会にお会いして親しい間柄になれば、いかにも三宮とも今後は気安く接することが出来るようになるであろうと思います」
 と源氏に尋ねた。源氏は微笑んで、
「私の思うとおりに貴女と三宮は親しくおつきあいが出来るものと思っていますよ。三宮は歳から見ると大変幼く、そうだからこの先のことをしっかりと教えてやってくださいね」
 と紫が三宮の許を訪れるのを許した。源氏は三宮よりも明石上が明石姫と紫上の席に同席するかも知れない事を考えると、明石の上が二人の気品に押されて恥ずかしい思いをするのではないかと思うと、紫が訪問のために髪を洗いすまし、女房に手伝わせて身なりを整えているのを見ながら、問題はあるまいと、
おもった。
 源氏は三宮の許に行って、
「夕方に向こうにいる紫が淑景舎(明石姫君)にお会いしたいというのでこちらに参るついでに貴女に御目にかかり御近づき申上げたいと申しましたので許しました。貴女は紫と御逢いの上ゆっくりとお話をしてください。紫は性格のよいまだ若々しい女ですから色々と話が尽きないことであろうと思います」
「そんな紫様との対面は大変恥ずかしいことですは。どんな話をすればいいの」
「人との話はその都度頭の中に思うことを答えればいい。紫を敬遠しなさるな」
 そして人との接し方を細々と三宮に教えた。
源氏は紫と三宮が仲良くつきあってくれることを望むが、何の思慮分別もまだ出来上がっていない、あどけない三宮の今の姿を、紫上に見られて、こんな女を北の方として娶ったのかと思われるのが恥ずかしいが、折角紫が三宮と会い今後親しくしたい、と言いだした以上むげに断るのも今後のことを考えると仕方がないことと、気持ちを改めた。