私の読む「源氏物語」ー48-若菜 上ー3
朧月夜は源氏の歌に応えたのであるが逢う事を、思いもかけなかったことと応えているが、自分との肉体関係のせいで源氏が須磨退去をした昔を追憶するにつけても、自分以外に誰が主な原因で源氏にあのような須磨退去の大事をさせたのかと、考えると源氏が襖を隔ててとはあまりにもひどい仕打ちと嘆くのは、朧月夜が元来、重々しくどっしりとした性格でない所があるので、源氏がお互いに近くで会うことが出来ると考えるのは当然で、彼女がこの数年来色々と男女の仲その他を理解し、過去の源氏との関係などを、公的には朱雀帝、私的には父右大臣や姉の弘徽殿太后などの注意を聞くこともしないで、源氏との数限りもなく逢瀬を重ねたことを後悔して思い出し、本当に源氏とはもう二度と関係を持つようなことはすまいと関係を断念して、過していたのであるが、昔二人の熱い結び合いを思い出すようなこの夜の対面で、彼女はあの源氏と抱き合った陶酔した夢のような喜びの時間の事も、遠くない昨日今日のような気がするので、気強く源氏を突き放すように応対することが出来ない状態になっていた。朧月夜は今でもなお、上品で美しく若々しく無魅惑的で男を引きつけるようなところがあり、しかも並々でない、世間の評判を気にしたりして朱雀の耳にはいることや、源氏への愛情の深さも深く、心が乱れてついに襖の掛け金をはずして源氏の前に姿を現した。その姿を源氏は見て昔幾度となく逢瀬を重ねたよりも若く感じ体中の血潮が吹き出す感じがして頭の中が空白になり朧を抱き寄せていた。朧月夜も同じように体の中は昔に戻り男を受け入れようと疼いていた、女房の中納言が気を利かせて若い女房を追い出して自分は遙かに離れて主人に背を向けて位置を変えた。源氏は朧月夜を几帳の中に誘い若い頃の戻って衣装を脱いで二人だけの陶酔の時間に入り込んでいった。
源氏が朧月夜を忘れがたいのは彼女の持って生まれた女の欲の表し方である、急ぐでもなく遅くでもなく源氏をゆっくりと高ぶらせていく。彼女も又その男の高ぶりに合わせて自分の心を高揚させていく、その一つの流れがごく自然で決して誰から教えてもらったとか、男と接して覚えたとかという物でなく彼女自身が持っている特別なものであって他の女にはない彼女の欲望の表現であったし行動であった。二人はやがて二人だけの世界にとはまり込んでいった。時間を掛けた二人の男女の交わりは頂点に達し、男は急激に収まる高波を女はごく自然に受け止め穏やかに優しく男のかだだを愛撫しながら耳元で囁く。源氏はこのときになって初めて朧月夜の薫りを感じた。朧月夜は源氏と接した瞬間に昔懐かしい源氏の薫りを感じていたのである。ほとんど相手を見ることが出来ない明かりの中で薫りとささやきが興奮を引き出す手だてで、それに体のふれあいが男と女の欲をかき立てていく。
「源氏様は昔と変わらないお元気、ここが」
「お前も若いよ柔らかいはだが」
紫にない二人だけのなめらかな陶酔に入る一筋の共通な道がある。紫は自分が教え込んだ男の考えた色欲の道で彼女自身のものではない作られたものだ。陶酔に入る平行した道がお互いに交わらなくて体だけが一つになる、紫自身も何一つ源氏が教えた道以外を考えようともしないそこが源氏にはもう一つ満足がいかないところである。
「源氏様昔の薫物を使っていらっしゃる」
「お前もな」
二人はそっと唇を合わせた。源氏の手に朧の泉を感じた、
「源氏様また」
源氏も朧月夜も時間が止まればと思っていた、そろそろ夜明けが近づいてくる、明ければ別れが待っている最後の別れになるだろうと二人は感じていた、その気持ちが二人の欲をかき立てた。朧は湧き出る泉の中に源氏を静かに導いた、抱きしめられて朧の胸の高みが気持ちよく押さえられ陶酔の世界に入り込んだ、熱い自分に向かう男の気持ちが朧を絶頂に導いていった。動かない二人の上で空は気持ちよく晴れて百千鳥が伸びやかに囀り始めた。血が騒いだ後の余韻が残る朧月夜から源氏は離れて自分の装束を手にした、中納言の君がそっと寄ってきて源氏の手伝いをする。桜が散ってしまって葉桜になったのを見て源氏は、
「昔のことであるが、藤の宴が開催されたのは今頃であったかな」
と思いだして、あの時初めて朧月夜と歌を交わしたことを思い出し、懐かしく懐古する。中納言の君は古くから朧月夜の女房であった。、お見送りいたしますと妻戸を開くと、源氏はまた元に戻って、
「この藤を御覧なさいよ、昔の色と変わりがありませんよ決して染めた色ではありません、やっぱり立派な趣の色つやでありますね。このままこの美しい藤を置いて立ち去ることが出来ませんね」
と、言いなかなか去ることが出来なかった。まもなく山が明るくなって日が差してきた。
その眩しい光と重なり合って源氏の姿が歳を重ねた年月に深みを増して見えるのを中納言は、久しぶりの源氏との見参であるので年を重ねてもまた世にない姿であると思い、この源氏の美しい人が心を掛けた人で源氏と昔の契もあるから、どうして源氏と夫婦となって暮さないのであろうか、きっと二人はお似合の夫婦として暮しなさるであろう。源氏から引離して、弘徽殿大后が強いて宮仕させたけれども、宮仕は悪くないが、宮仕にも限度があって女御にならなければ、別に源氏と離れる事もあの当時はなかったのに、姉の弘徽殿大后が世話を焼き過ぎたので、源氏の須磨への退去ということが起こったのだ、と昔の出来事を思い浮かべていた。
この二人の長い恋の結末はこのまま続けていきたいのであるが、源氏は準太上天皇という身分であるから源氏の自由な行動は許されることではなく、このような色恋に向けて世間の目は厳しいので警戒しなくてはならない、朝日も射してきて明るくなった、急いで帰ろうと廊下の前まで車を入れると供の者達も声を低くして早くお帰りをと源氏を急かす。源氏は供の一人を呼んで咲き始めた藤の花を一枝折らす、それに、
沈みしも忘れぬものをこりずまに
身も投げつべき宿の藤波
(貴女のせいで私がかつて須磨に落ちぶれの身となつた苦しみを忘れないのに、今もそれに懲りもせず、貴女が恋しいために、きっと命までも投げ捨ててしまうに違いない、恋の淵に)
ひどく悩んで物に寄りかかっている。中納言はそんな源氏が気の毒でならない。着替えをすませた朧月夜もそんな源氏を見て、昨夜の自分の乱れた姿が恥ずかしくそれでもあの源氏と過ごした床の中の乱れが思い出され源氏が懐かしく、
身を投げむ淵もまことの淵ならで
かけじやさらにこりずまの波
(貴方が私を思う気持ちで身を投げようとする淵は本当の淵ではなくて、口先だけの偽りの淵であると私は思うから、かっての須磨の騒ぎに懲りているから、性懲りもなく貴方に私は恋野の思いは掛けますまい。もし、真実の淵ならば、今も心引かれるであろうが)
よく考えてみると源氏はこのたびの行動は、全く若者のような無茶なことであったと反省しているが、この二条宮の番人は手薄であることを理由に又の逢瀬を朧月夜と約束をして帰りの道についた。
源氏が朧月夜を忘れがたいのは彼女の持って生まれた女の欲の表し方である、急ぐでもなく遅くでもなく源氏をゆっくりと高ぶらせていく。彼女も又その男の高ぶりに合わせて自分の心を高揚させていく、その一つの流れがごく自然で決して誰から教えてもらったとか、男と接して覚えたとかという物でなく彼女自身が持っている特別なものであって他の女にはない彼女の欲望の表現であったし行動であった。二人はやがて二人だけの世界にとはまり込んでいった。時間を掛けた二人の男女の交わりは頂点に達し、男は急激に収まる高波を女はごく自然に受け止め穏やかに優しく男のかだだを愛撫しながら耳元で囁く。源氏はこのときになって初めて朧月夜の薫りを感じた。朧月夜は源氏と接した瞬間に昔懐かしい源氏の薫りを感じていたのである。ほとんど相手を見ることが出来ない明かりの中で薫りとささやきが興奮を引き出す手だてで、それに体のふれあいが男と女の欲をかき立てていく。
「源氏様は昔と変わらないお元気、ここが」
「お前も若いよ柔らかいはだが」
紫にない二人だけのなめらかな陶酔に入る一筋の共通な道がある。紫は自分が教え込んだ男の考えた色欲の道で彼女自身のものではない作られたものだ。陶酔に入る平行した道がお互いに交わらなくて体だけが一つになる、紫自身も何一つ源氏が教えた道以外を考えようともしないそこが源氏にはもう一つ満足がいかないところである。
「源氏様昔の薫物を使っていらっしゃる」
「お前もな」
二人はそっと唇を合わせた。源氏の手に朧の泉を感じた、
「源氏様また」
源氏も朧月夜も時間が止まればと思っていた、そろそろ夜明けが近づいてくる、明ければ別れが待っている最後の別れになるだろうと二人は感じていた、その気持ちが二人の欲をかき立てた。朧は湧き出る泉の中に源氏を静かに導いた、抱きしめられて朧の胸の高みが気持ちよく押さえられ陶酔の世界に入り込んだ、熱い自分に向かう男の気持ちが朧を絶頂に導いていった。動かない二人の上で空は気持ちよく晴れて百千鳥が伸びやかに囀り始めた。血が騒いだ後の余韻が残る朧月夜から源氏は離れて自分の装束を手にした、中納言の君がそっと寄ってきて源氏の手伝いをする。桜が散ってしまって葉桜になったのを見て源氏は、
「昔のことであるが、藤の宴が開催されたのは今頃であったかな」
と思いだして、あの時初めて朧月夜と歌を交わしたことを思い出し、懐かしく懐古する。中納言の君は古くから朧月夜の女房であった。、お見送りいたしますと妻戸を開くと、源氏はまた元に戻って、
「この藤を御覧なさいよ、昔の色と変わりがありませんよ決して染めた色ではありません、やっぱり立派な趣の色つやでありますね。このままこの美しい藤を置いて立ち去ることが出来ませんね」
と、言いなかなか去ることが出来なかった。まもなく山が明るくなって日が差してきた。
その眩しい光と重なり合って源氏の姿が歳を重ねた年月に深みを増して見えるのを中納言は、久しぶりの源氏との見参であるので年を重ねてもまた世にない姿であると思い、この源氏の美しい人が心を掛けた人で源氏と昔の契もあるから、どうして源氏と夫婦となって暮さないのであろうか、きっと二人はお似合の夫婦として暮しなさるであろう。源氏から引離して、弘徽殿大后が強いて宮仕させたけれども、宮仕は悪くないが、宮仕にも限度があって女御にならなければ、別に源氏と離れる事もあの当時はなかったのに、姉の弘徽殿大后が世話を焼き過ぎたので、源氏の須磨への退去ということが起こったのだ、と昔の出来事を思い浮かべていた。
この二人の長い恋の結末はこのまま続けていきたいのであるが、源氏は準太上天皇という身分であるから源氏の自由な行動は許されることではなく、このような色恋に向けて世間の目は厳しいので警戒しなくてはならない、朝日も射してきて明るくなった、急いで帰ろうと廊下の前まで車を入れると供の者達も声を低くして早くお帰りをと源氏を急かす。源氏は供の一人を呼んで咲き始めた藤の花を一枝折らす、それに、
沈みしも忘れぬものをこりずまに
身も投げつべき宿の藤波
(貴女のせいで私がかつて須磨に落ちぶれの身となつた苦しみを忘れないのに、今もそれに懲りもせず、貴女が恋しいために、きっと命までも投げ捨ててしまうに違いない、恋の淵に)
ひどく悩んで物に寄りかかっている。中納言はそんな源氏が気の毒でならない。着替えをすませた朧月夜もそんな源氏を見て、昨夜の自分の乱れた姿が恥ずかしくそれでもあの源氏と過ごした床の中の乱れが思い出され源氏が懐かしく、
身を投げむ淵もまことの淵ならで
かけじやさらにこりずまの波
(貴方が私を思う気持ちで身を投げようとする淵は本当の淵ではなくて、口先だけの偽りの淵であると私は思うから、かっての須磨の騒ぎに懲りているから、性懲りもなく貴方に私は恋野の思いは掛けますまい。もし、真実の淵ならば、今も心引かれるであろうが)
よく考えてみると源氏はこのたびの行動は、全く若者のような無茶なことであったと反省しているが、この二条宮の番人は手薄であることを理由に又の逢瀬を朧月夜と約束をして帰りの道についた。
作品名:私の読む「源氏物語」ー48-若菜 上ー3 作家名:陽高慈雨