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私の読む「源氏物語」ー47-若菜 上ー2

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 三宮は源氏が言うままに答えたりまたは質問したりかわいらしく接していた。答えることは自分の知っていることは全部言ってしまい、源氏に対しては常に笑顔を絶やさないで見つめていた。そんな三宮を見ていて源氏は、昔の自分ならばこのような学のない女なんか馬鹿にして接することもなかったが、今は女関係は、それぞれに諦めて女は色々な類があるけれども、どうあろうとこうあろうと、どちらにした所で特に勝れて、きわ立っている女を見つけることは困難なものである、長所短所のある女は沢山いる事よ。目の前の三宮も他人から見れば素敵な奥方と見えるであろう、と源氏は思うのであるが、これまでは常に側にいて、幼少の頃より常に目の前にいた紫と三宮を比べると、紫の存在がありがたく思えるのである。源氏は紫をあのあどけない幼少の頃より現在まで自分ながらもよくもこのように立派に育てあげたものよと、三宮と結婚をして一番先に思ったのである。結婚をしたのであるから夜三宮と共寝をして何もしないということは、三宮も結婚の前に女房達から色々と男女のことを教えられていると思うので、この夜源氏は三宮の腰ひもを解き三宮の肌を愛撫した、紫の体や明石、花散里そのほか何人かの女の肌を知っている源氏は三宮の痩せ細った感触に驚きただわずかに肉付きのある乳房をいつまでも愛撫し頭の中では独り寝の紫の体を思い浮かべていた。明け方近くなると益々紫上への情愛が胸一杯になってきて、紫は早死でもするのではないかとまで不吉なことを考えていた。
 朱雀院は二月にはいるとかねてより考えていた西山の仁和寺に新しく造った庵へ移って行った。その頃朱雀は三宮が気にかかり親心あふれる手紙を六条院の源氏の許に送ってきた。とくに三宮のことになると文面がしつこいことこの上なく、何回も同じ事を繰り返してくどいことが多く、出家した身であるのにただ源氏に心から三宮を優しく愛してくれるようこの後送って文のたびに源氏に頼み込んでくるのであった。
 そうは言われてもなんといっても三宮が幼くて源氏がどうしてよいものやらと思案しているということは朱雀は想像はしていた、だから念を押すために源氏が今一番愛している紫へも文を注意ぶかく言葉を選んで送っていた。
「三宮は幼くて気がつかないところがあります、そのような気分のまま源氏の側にいるであろうから、どうか悪く思わないで色々と教えてやって下さいませ。貴女は三宮にとって従姉妹となる方です。

 そむきにしこの世に残る心こそ
      入る山道のほだしなりけり
(現世を離れて仏道に入りながら、子を思う心だけが現世にのこってしまい出家の邪魔をしています)

 出家をした身でありながら三宮を忘れることが出来ないでこのようなお願いをするのは本当におこがまく恥ずかしいことであります」 源氏も文を読んで、
「愛情のこもった文であることよ、承知したとていねいに返事をしておくように」
と紫に言うとともに、紫の女房に命じて朱雀からの使者に酒肴の用意をさせた。紫は気分があまり良い時ではなかったので返事の言葉に困ったが、ただ朱雀の気持を汲んで、

 背く世のうしろめたくはさり難き
     ほだしを強ひてかけな離れそ
(出家して捨てなさるこの世が、三宮の故に気掛りでござりまするならば、逃れ難い三宮より、無理に離れなされまするな)

 というようなことをしたためた。使者には褒美として裳、唐衣に細長をつけて肩にかずけて朱雀の許に帰した。紫の文の筆跡が見事なのを朱雀は暫く眺めていたが、源氏の生活を考えてみると自分とあまりにも差があるのが恥ずかしい、そんななかで三宮がどんなに六条院の人達から幼稚に見られているかと心配であった。
 朱雀院に朱雀の女御や更衣として彼の夜を慰めてきた女達、そして朱雀や周りの女御、更衣達の日常の生活を支えてきた女房や下働きの者すべてが主のいなくなった朱雀院を去ってそれぞれ散り散りになって無人となってしまったのは淋しくもあり悲しい出来事であった。とくに源氏との浮気が露見したにもかかわらず朱雀が寵愛した朧月夜は、彼女の姉で亡き桐壺帝の后であり先年亡くなった弘徽殿大后が住んでいた二条宮に移った。朱雀は娘三宮の次に朧月夜との別れが辛く後ろ髪を引かれる思いであった、彼にとって出家を決意したときからこの二人との別れが一番辛かったのであった。

 朧月夜は朱雀のあとを追って自分も出家して尼になると決心していたのであったが、朱雀から、
「お前が出家するとはなんとなく自分と出家することを競争しているようで落ち着かず気ぜわしいから止めてくれ」
 と言われて彼女は朱雀のあとをすぐには追わず二条宮でゆっくり出家の準備をしていた。
 源氏はいまだに朧月夜のことが忘れられないでいた、どんなきっかけで会えるであろうか、なんとしてでももう一度会って、あの二人の不倫の現場を右大臣に発見され、須磨への逃避となったあのことを話したい、と願うのであるがお互い世間に噂がたっては困る身であるので源氏には気の毒なことであったが、それでも何とかして朱雀と別れて自由な身になり現世に別れを告げようとしている朧月夜の様子が知りたくて、文などはとんでもないこととは充分承知しているのであるが、朱雀との別離の淋しさを慰めるという口実で朧月夜にしみじみと綴った文を送りだした。いまはもう若い二人ではないから彼女からの返事は源氏が送るほど回数が多くなく時々源氏のもとに届いた。昔よりはるかに円熟した朧月夜の筆跡を見ると源氏は朧月夜にますます会いたくなった。そこで自分と朧月夜とが密会していた頃に彼女の女房であった中納言の君に連絡をとって自分の朧月夜に会いたい気持ちを何回も訴えた。その上彼女の兄で前の和泉守を呼び寄せて、昔に返って若者のように朧月夜に会いたい気持ちを話すのであった。
「人を介さずに朧月夜に話したいことがある。彼女と人に見られずにこっそりあえるようになんとか計らってくれ、その場所に私が出向かう。今の私はこの身分であるから全く隠密行動をしなければならない、お前も絶対に他言無用と心得てくれ。そうしてもらへば私も朧月夜も安心である」
と言って前の和泉守を朧月夜の許に行かせた。朧月夜は源氏の口上を聞くと、「そうですか、源氏様がそのようなことを。私は色々と世の中の動きを分かるようになりますと、昔から冷淡なお方でしたあのお方を恨めしいとずっと思い詰めてきたのです。それがここに至って、朱雀様の御出家という悲しい出来事で気持ちが萎えてしまった私にどんな昔語りしようとお考えなのでしよう。本当に源氏様との関係は人に聞かれても恥ずかしいことであるし私自身も思い出すと一層恥ずかしい過去の過ちと思うとなんで源氏様に会うことが出来ようか」
とため息混じりに嘆いて、使者にたった和泉守を通して源氏に、そのようなことは今後も一切ありえないと告げた。
 源氏は朧月夜の回答を聞いて、