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私の読む「源氏物語」ー45-藤裏葉

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 明石上の母で、姫君の祖母に当る明石尼君は、自分の歳を考えて、孫娘の明石姫の出世を見たいものであると望んでいるのであった。そこで姫を見たいと念願してその上、自分の命までも長く生きるようにと、一心に神仏に祈っているけれども、孫の明石姫が内裏に上がった後は、自分はとても内裏に上がれる身分ではないから、孫の顔を生涯見ることが出来ないと思い、明石の尼は嘆き悲しんでいるのであった。
 入内は夜に行われた。紫の上が付き添って内裏に入った。明石上は、今夜は参内しないが、仮にもし参内するとしても、紫が付添うから姫が乗る手押車の輦車には、身分が低いので乗ることが出来ないので、内裏の門内を歩いて行かなければならない、不体裁であろうと思うけれども、その不体裁は、明石上のためには、遠慮はいらなくて、只源氏がこのように美しく育てあげた姫のきずとして、身分の低い明石上が、何時までも生き長らえている事を、彼女は嬉しいと思う一方で、大層つらく思っている。明石姫の入内の儀式は、人目を引く大袈裟なことはしないようにと源氏は考えているのであるが、やはり世に栄える源氏の行事であるから、派手な儀式となった。この上なく明石姫を大切に世話をし、このように春宮の女御として参内することになり、紫上は姫を、継子とは申せ「真実に可愛い」と、しみじみ思うのであるが、この姫を、この後明石の上に譲り渡したくなく、「この娘が、もしも実子で、このような入内する事があるならば、どんなに嬉しいことであろう」と考えるのであった。源氏も明石姫の兄になる夕霧も専ら、この明石姫が紫上の実子でない事だけを、本当に残念でならないと思うのである。
 紫は内裏に三日滞在して明石姫の許を去った。交代して明石の上が参内して内裏を去る紫と二人が生活している六条院ではなく内裏で初めて対面した。先ず紫が、
「このように、姫君が、入内なさる程大人らしう見違える程の成長で、私の愛育した年月の長さと努力は自然にお分かりのことと思います、私へのお恨みは今は残るはずはないでありましょう」
 と柔らかくまた懐かしそうに明石の上に語りかけるむらさきは、更に色々と話をするのであった。このようにして二人は打ち解けていったのであった。明石の上が色々と紫と語り合うのを聞きながら紫は、この女が源氏の寵愛を受けるのも分かる、と彼女の性格の良さに目を見張るのであった。一方明石の上は紫を、今や女の盛りの美しさに驚くと共に気押される気持ちであった。二人はお互いに相手を、立派な人である、と感じ入っていた、明石の上は、源氏の寵愛する女達の中で、さすがに紫が本妻として源氏が大切に扱っていることが、誠のことであると思い知り、このように紫と親しくできる光栄に喜び、果たして自分にその資格があるであろうかと反省もしていた。やがて紫が内裏を退出する儀式が始まった。それはまた盛大なもので、帝から大臣、女御、大僧正などが特に許される輦車の使用を許されて、紫は女御と同列の扱いを受けているのを見て、同じように見送りに立ち並ぶ明石は格が違うように見えたのであった。
 入内してひな人形のように美しい明石姫を母の明石は見てうれし涙が溢れてきた。明石の上は長年娘を紫の養女にしたことをどうして娘を手放したのだろうと、悲しんで過ごして、ある時は悲しみのあまり命を絶ってしまおうかとも思ったこともあったのが、今は長生きをしなければと気も晴れ晴れとしているのであった。これも父の入道が信心した住吉の神の霊験であると、しみじみと神の功徳を有り難く思うのであった。
 明石上の思い通り紫が養女にした姫を大事に育て上げ、その上に姫自身が気のつかない事は殆どない利発さであるから、女房達からの信頼と愛され方は一通りでない、元々姫は母親譲りの美貌が世にもない美しさであるので、夫となった春宮は入内した姫を一目見るなり若い男性の血が騒いだで心を奪われてしまった。明石姫と競い合う他の女御達に仕える女房などは、身分の低い姫の母親が、姫に付きそうのが面白く無くあちこちで非難する声を上げているのであるが、明石姫の評判はそのような非難の声ではびくともしないものであった。寧ろ却って花やかな当世風で、類のない事は勿諭、奥ゆかしく風情のある、明石姫君の起居動作を、一寸したつまらない事に関しても誰もがそうありたいと思うように、母親は目立つように引立てて扱い、真剣に春宮女御となった娘の世話をしたから、その場は殿上人達まで風流の場所として噂が流れて若い男達が姫の女房達を張合い懸想する場所として集まってきたのであるが、その殿上人達に引けをとることがないよう、明石の上は姫の女房達を心構えや態度まで立派に教え込み仕付けしていたのであった。
 紫の上も何かの機会には明石姫を訪れる。そこでは明石上と紫は当然語り合いその仲は日増しに親しくなっていくが、そのような仲でも明石の上は打解けたといっても出過ぎず、馴れ馴れしくせず、紫を軽んじ侮るような態度は少しも見せるようなことはなく、まれに見る理想的な申し分のない態度と性格の女であった。源氏もこのような二人の間柄を見て
「長くないとぱかり、自然に御思いなさる御寿命のある間に」
 と願っていた娘の明石姫の入内が望み通りに適い、自分の願いであったのであるが喜びで落着かない状態で、更に独り身でいた夕霧までもが雲井雁を娶り身を固めてしまったのでここに来てやっと心が落ち着き、
「出家をしよう」
 と長年の念願であったことを実行しようと考えることにした。紫を見捨てることは心苦しいことではあるが、彼女には秋好中宮がいる、二人は仲がいいのであるから紫の良い相談相手になってくれるであろう。春宮の女御に納まった明石姫には公式の後見人として紫の上が母親として知られている、だから姫のことは心配ない、我が身が出家をすれば花散里が淋しく思うであろうが、それも夕霧が相手になってくれるので、総てのことは心配あるまい、といよいよ実行しようと考えていった。

 年が明けて源氏は四十歳になった。彼の周りの者は帝を始め総てが祝賀のことを考えてそれぞれ準備を始めていた。この年の秋に源氏は、天子の位を下りた先の帝を太上天皇という尊号を奉るのであるが、源氏は帝ではないが皇室の出であるから準太上天皇ということになった。太上天皇の封戸(ふご)の二千戸が、現在の位太政大臣の三千戸に上乗せされた。さらにその封に相当する爵位が与えられた。このようなことがなくとも源氏の勢いでは、思い通りに世の中は行くのであるが、、それでもこの帝の源氏に対する厚遇は例のないことであった。嵯峨帝頃からの先例を改めなくて、六条院の役人なども任命があり、源氏は準太上天皇となって以前よりも、身分が一段と厳めしくなったから、身分が高くなったのはよいがその一方では、今までのように内裏に簡単に参内することが出来にくくなり、帝にも会うのが難しくなったことが残念であった。冷泉帝はこれだけでも源氏に対する措置が不十分と感じていて、日頃源氏に帝の位を譲ろうと考えていた。
 夕霧の舅である内大臣は源氏の跡を継いで、太政大臣に昇進し、夕霧は中納言に昇進した。二人は揃ってお礼のために参内する。ますます耀いて見える夕霧を見て、内大臣は、