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私の読む「源氏物語」ー41一藤袴

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「むっかしいものであるなあ。私の気持一つでどうなるものでもない、玉鬘の身の上であるのに、螢兵部卿宮だけではなく髪黒大将までが、私が玉鬘を束縛しているように思っている。、私はどのようなことでも総て、玉鬘のように寄るべがない境遇を、だまって見ていられなくて、世話をし、その為につまらない恨みを背負いこむのは、私の行動が軽々しいと思われるからであろう。玉鬘の母の夕顔が死ぬときに私に遺言を忘れずに、わびしい山里に住まいしていると玉鬘の消息を聞き、父親である内大臣が、実の親であるにもかかわらず相談に乗ろうともしないので、玉鬘が気の毒になりこの六条院に連れてきてこのように大切に預かっているのである。こちらで、こんなに玉鬘を大切にしていることを内大臣も認めて玉鬘を、姫君として人並に扱っているようである」
 と夕顔の遺言などと作り事を言って、夕霧に言い訳がましく言うのである。
「玉鬘の性格を思うと蛍宮の北の方にふさわしいと思うのである。玉鬘は現代風の女性でなかなか艶っぽい様子でありながら賢いところもあり、男との色恋沙汰を起こすような女ではないので、蛍宮との夫婦仲も良いと思う。また、宮仕えをしても彼女は女らしく満足したお勤めが出来ることであろう。玉鬘は美しく可愛らしい女であるが、公の事務などもよくこなすことができて処理も適確で、冷泉帝が、平素御希望なさる「尚侍の適任者を」との御意向に的確であると思う」
 などと付け加えて夕霧に言う。玉鬘をどのように思っているのか父の本心が知りたいので夕霧は
「このところずっとまるで親のように玉鬘様を慈しんでおられるのを他人はまるで父上が玉鬘を我が愛人にしたかのように申しております。それに加えて、あの彼女の父である内大臣までもが、世間の噂を信じておられるようです。鬚黒大将が内大臣を通して彼女を所望してきたときにも、父上が玉鬘を自分の女にしたようなことを言っていたということです」
 と源氏に真剣に言うので、源氏は笑いながら夕霧に、
「私が玉鬘に懸想しているという、世間の評判も内大臣の推測もどちらも、私には関係がないことであるよ。玉鬘の事はやはり宮仕えにしても、螢兵部卿宮か髪黒大将に嫁ぐのも、父である内大臣が納得して、このようにしよう、と考えられる方向に誰もが従うことだ。女という者は三従道である、未婚の時は父に、結婚したら夫に、夫が亡くなれば子供に、それぞれ従うということである。その順序を違えて、内大臣の許しもないのに私が彼女を勝手に彼女の将来を決めていいものであろうか」
 と夕霧に言う。夕霧は、
「こちらにも、紫の上様や明石の上様とそのほかにも大事な方々が長年お出ででしょう、もし父上が玉鬘を愛人の一人になさっても、あの方がとは同じように並ばれることは出来ますまい。それで玉鬘を見限られるついでに内大臣に預けて仕舞われ、彼女を宮中の尚侍という帝のお手が付くことが先ず無い女官に付かせて、父上の手許において愛人にしようとお考えでしょう。大変賢いやり方であると、内大臣はお喜びであります。と確実な筋から私は聞きました。」
 夕霧は筋が通った言い方をしたので、源氏は聞いていて、
「お前の申すとおり、内大臣はご不満であろう」
 と言いながら玉鬘が愛しくて、
「なんとまあ内大臣は私の取る行動が忌まわしいものと思っておられることよ。内大臣は女のことにはよく気が回るお方だから。それにしても、いまに自然と宮仕えか結婚するかどちらかに決まることであろう。内大臣はよく気の付く方であるから」
 と言って笑うのであるが、源氏の様子ははっきりしていて居るが、夕霧にはまだ満足できない点があった。源氏も、
「そうだなあ。このように人が推測しているのに、その推測通りになったならば、大変残念で、普通でなくねじけて見えるであろう。あの内大臣に私がいかに清らかであることを教えてやりたいものだ」
 とおもうと、源氏の玉鬘への執心のあり方が、実際に玉鬘を尚侍任官させて人々の推測が片ずくとは思えないようなもので、本当に内大臣は恐ろしいほど気がつく人だと、源氏は恐ろしく思った。
 このようなことがあって玉鬘は喪が明け喪服を脱いだのであるが、源氏は、 
「月がかわると九月であるが、それでもまだ内裏に参内して尚侍に復帰することはまだ汚れが遺っているでしょうから十月にした方がいいでしょう。」
05
 と源氏が玉鬘に言うのを冷泉帝は聞いて、玉鬘の参内を心待ちしているので気が気でない、その反面玉鬘に気がある蛍宮や鬚黒は、玉鬘が宮中に上がるのが気が気でなく、玉鬘が参内する前に何とかして自分の望みを叶えようと、それぞれが手なずけた女房達に何とかして玉鬘と連絡できるように頼むのであるが、凡河内躬恒が詠う「手をさへて吉野の滝はせきつとも人の心をいかが頼まむ」の歌にあるよりも玉鬘の周りは固く守られているので、
「本当にどうしょうもありません」
 と女房達はみんなが口を揃えて言う。源氏の息子も、先に玉鬘に言わんでもいいのに自分の心を打ち明けたものだから、彼女はどう自分のことを思っているだろうか、と気になるのであるが、いろいろな用事にかこつけては玉鬘によかれと駆け回り玉鬘の後見者であるように思われようと上手をしていた。あのことを口に出してから軽々しく恋を口に出して、玉鬘に言いよったりしなくて、見苦しくないように体裁よく恋心を抑えていた。彼女の姉弟である柏木と弁はその後玉鬘の許に来ることもなく、玉鬘が内裏に参内する折には世話をしようと、彼女の出仕の日を待っているのであった。柏木があれほど玉鬘に恋いこがれて付き纏っていたのに、姉弟であると分かると、全く現れなくなったのを女房達は、
「冷たいお方である」
 といっているところに内大臣の使いといって柏木頭中将が参上してきた。以前は忍んで消息分などを取り交わしていた仲であったのであるが、姉弟と分かった今もやはりこっそりと忍んでの対面である。その夜は月がとても綺麗であり柏木は桂の木の陰からこっそりと声をかけた。玉鬘はかっては柏木のことなど見向きもしなかったのであるが、姉弟いうことが分かってからは柏木を避けることもなく南の御簾の側に呼んで柏木の座を設けさせた。しかし直接声をかけることはやはりしないで、女房の宰相の君に伝言役を頼み柏木と言葉を交わした。柏木は、
「父の内大臣が特に私を選んで貴女に使いするように言ったのは、他の人には頼まれない内緒の重要な言づてでありましょう。それをこのように伝言役を立ててこんなに離れて座っていては、どのようにして秘密の言葉を伝えることが出来るのですか。私なんぞは貴女にとって物の数にも入っていない男でしょうが、貴女とは姉弟の間柄です、切っても切れない、というたとえもあるというのにこの疎々しさはどうした事でしょうか。古風な言い方ではありますが、姉と弟であるから、貴女を私は如何に頼りにしていますことか」
 といって、柏木は今置かれている状態を、不快である、と自分の感情をあらわに玉鬘に告げるのである。聞いて玉鬘は、