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私の読む「源氏物語」ー41一藤袴

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「このように喪服を着ているのを、源氏の娘がなぜこのように長い期間肉親の喪に合わせて着ているのであろうと、禊ぎを大袈裟に行えば人々は見ていて不思議に思うでしょう」
 と夕霧に玉鬘はよくものを考えた返事である。聞いた夕霧も、
「貴女が自分の秘密を世間に漏れないようにと心を配られるのは、私にとっては辛いことです。思いを忘れることが出来ない大宮様のお形見であるその喪服をお脱ぎにならないままであるのは、私にはとても辛いことであります。どうしてお脱ぎにならないのですか、それはそれとして、内大臣様の娘である貴女が、どうして父の源氏から離れようとはなさらないのですか、私にどうも納得がいきません。着ておられる衣の色がなければ、私も内大臣様の娘ではないとおもうでしょうに」
「私自身がどうしてかまだ気持ちを決めかねていることです。貴方よりも私のほうが、どちらにしても事の真相は考えてもどうにもならないことです。でもこの喪服を着ていますと何となしに心が落ち着いてしんみりした心になるのです」
 と言って前よりもまして沈んでしまった玉鬘の様子を見れば、いたいたしくて夕霧は心引かれるかんじであった。
「この機会に乗じて恋を打ち明けよう」
と考えていた夕霧は、蘭である藤袴の薄紫の少し変わった綺麗な花を手にしていたのを御簾の下から差し入れ、
「私も玉鬘様に縁ある身で、この花も薄紫色のゆかりの花です、どうぞ御覧下さい」
 と言って直接渡すことも出来ないので御簾に手を入れて花を持っていた、その花を玉鬘は何も考えずにとっさに手を伸ばして受け取ろうとしたところを夕霧は、玉鬘の衣の袖を捕まえて手許に引き寄せた。玉鬘は驚いて咄嗟に引き戻そうとした、その手を話さず夕霧は

 同じ野の露にやつるる藤袴
    あはれはかけよかことばかりも
(貴女も私も同じ野べの露に、身すぼらしくなっている藤袴であるから、私に同情の言葉を掛けて下さい、かりそめの言葉だけでも)

 同じ大宮の喪に服し喪服を着ている身であるという気持ちが夕霧にはあった。 
「少しでも逢って下さい」
 と言う夕霧の玉鬘に対する恋の言葉を玉鬘は大層不快で、いやになってしまったけれども、夕霧が自分に対して恋を抱いていることを知りながら、知らぬ顔で手を置くに引き込めて、そうして夕霧に、

 尋ぬるにはるけき野辺の露ならば
     薄紫やかことならまし
(私の元の素性を尋ねるに、私がもしも、源氏の娘でなくて内大臣の子であるならば、夕霧様と姉弟の縁はないのに、同じ野の露などと、縁の深いように仰せられるのは、同じように喪服を着たので、それにを口実にして言う事でありましょうかなあ)
 このように、御廉越しにでも対面して、直接親しく御話申上げるより以上に、更に一段と深い関係は、どうしてあるのですか、ないと存じますが」
 と夕霧に答えるのを夕霧は照れ隠しに少し笑い、
「貴女との関係が浅いか深いかは、これから先に思い当たることが、きっとありましょう、と私は思いますよ。本当のところ、帝から尚侍に上がれとのお言葉を、私は承知をしています、それでも私の貴女への恋心を押さえることが出来ないこの気持ちを貴女はお分かりにならないのです。それでも私が貴女に私の気持ちを告白したならば、私を若い男の色欲と思われることが淋しく口に出しては申さずにぐっと胸に籠めて我慢をしておりましたが、今はこの身を捨てても貴女に逢いたい気持ちで、思い詰めています。貴女の弟の柏木中将のことをお知りですか、まだ貴女が内大臣の娘ということを知る前に、私は彼が貴女に恋をしていることをどれだけ心配して彼のために心を配ったことでしょう。今日、貴女に恋をする身になって、私は恋する女を思う自分の身の愚かさを知り、一方ではあの頃の柏木の恋の心情も自然に思い知られるのであります。しかし、柏木は貴女を姉と知って恋心を改めて冷静になり、貴女のお側を離れることがあるまいと、それを頼みにかっての昂ぶった心を静めている、そんな柏木を私は羨ましくまた妬ましい、そんなこの私を可愛そうにと思って下されよ」
 と夕霧は細々と愚痴っぽく玉鬘に言うのを、あまりここで細いことを云々と作者の私が言っても些細なことなので書くのを止める。
 玉鬘は少しずつ御簾から離れながら、面倒なことだと思っているのを察して夕霧は、
「貴女のその態度は私にはとても辛う御座います。私が貴女に何か間違ったことでもしようと思いですか、私の気持ちは今までの貴女への態度でよくお分かりのことと存じますが、それがそのように冷たい態度ではとても辛う御座います」
 夕霧はこの機会にもっと心の底を玉鬘に訴えたいと思うのであるが、彼女は相手にせず、
「何という浅ましいことを」
 と言って奥へ入ってしまった。夕霧はなすすべなくため息をついて御簾から離れ部屋から出て行きながら、
「こんなことを言わなければ良かった、恋心を言ってしまった」
 と夕霧は悔しさと恥ずかしさで嘆きながらも、玉鬘よりも女として魅力のある、あの野分けの時にちらりと見た紫の上と、玉鬘と近づいた御簾近くで話したように直接声を聞くことが出来たならば、と、とんでもないことを考えながら源氏の前に出て、玉鬘の返事の言葉を告げるのであった。源氏は、
「玉鬘は尚侍の勤めが気乗りしないようである。彼女は蛍宮や鬚黒などが恋い慕っている人なので、蛍宮が美しい言葉で玉鬘に文を送られるので、彼女の心は蛍宮に傾いているのではないだろうか、可愛そうに。かって帝が大野原に鷹狩りにお出かけの際に玉鬘は帝のお姿を見て、帝はとても美しく立派な方であると彼女は言っていたのであるが。誰しも若い女は、帝をかすかに見て、もしその女が帝のおそば近くに勤めるという話があれば断る者はない。私はそう思って玉鬘に尚侍になることを奨めたのである」
 と夕霧に言うのであるが、彼は玉鬘のことを深く知らないので、父の源氏に、
「そうしますと、玉鬘の気立てから言うと冷泉帝に仕えるか、我々ごとき臣下に嫁となるかどちらが似合っていると思いですか。尚侍として内裏に上がれば、秋好中宮様が最高の位でおられますし、弘徽殿女御は帝のお気に入りの深い方で御座いますし、もし玉鬘が宮中に上がり、冷泉帝の思いが彼女に移り愛しなさるようなことにでもなれば、中宮や弘徽殿と同列に並ぶことは難しゅう御座いますでしょう。蛍宮様が熱烈に玉鬘を愛しておいでになるのに、尚侍という女官から無理に夫人として迎えることになれば帝も、父上と蛍宮との仲の良いことをご存じであるので、お気の毒であるということを世の人は言っています」
 と夕霧は大人びて源氏に言う。
 源氏は、しみじみと夕霧の話を聞きながら、