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私の読む「源氏物語」ー40-行幸

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「タ顔が行方知れずになったその当時から、「娘はどうなってしまったであろうか」と、尋ねもし心配もしていましたことは、何の機会でしたか、悲しみに堪えなくて、貴方にも、漏らした気がどうも致しまする。このように、現在では、私も少しは人並になっておりますと、若い頃遊び心で契り会った女の産み落とした、取柄のないつまらぬ娘どもが、あちらこちらの縁やゆかりに頼ってあらわれ、「愚かしくもあり体裁が悪く、みっともない」と思っておりますにつけても、そのような愚かしくもあり見苦しくもある多勢の我が娘を並べて見た場合には、いつもあの娘は可愛いかったと、自然に真っ先に思い出されるのが夕顔に生ませた娘でありました」
 と源氏に言うのをきっかけに、あの昔若い者が集まって雨夜の物語の時に、さまざまに語った体験談の内大臣の結論を思い出して、泣いたり笑ったり、二人はすっかり打ち解けたのであった。

 話が弾むうちに夜も更けてきて、二人はそれぞれ別れて帰宅することになった。源氏は、
「このように大宮様のお見舞いに上がり、内大臣と久しぶりにご一緒して、まったく遠い昔になってしまった、若い時代の雨夜の品定めや故桐壷院や葵上の事が、貴方と話している内に自然に思い出され、懐しい気持ちが抑えきれずに帰る気がいたしません」
 と言って、決して気弱な人ではない源氏も、泣き上戸なのか、昔の思いで話に涙を流していた。大宮は宮で源氏の久々の来訪で、流麗な源氏の容姿を見て、亡くなった娘で源氏の妻であった葵の上をお思い出し、婿である源氏があの当時よりさらに立派な様子、権勢を目の前にすると娘を思い堪えきれずに涙を止めることが出来なかった。その泣き萎れる大宮の姿は側にいる者の心を打つのであった。
 このようなよい機会であるのにかかわらず、源氏は夕霧と雲井雁の恋慕のことを、一言も言わずにかえることになってしまった。源氏は雲井雁の件につき、内大臣はたとえ夕霧のことを気に食わなくても、こうして自分と会っているのだから、内大臣から一言あってもよいものと、彼の態度がもう一つ納得がいかなかった。だからこの一件に口出しをするような事は格好付かないと思い何事も言わない、内大臣の方では彼なりの考えがあり、源氏が何も言わないのにこちらから口出しするのはと、思っているのであるが、せっかくこのように打ち解けて話が出来たのにと、胸の晴れない気持ちであった。源氏が立ち上がったので内大臣は、
「今夜も御見送り申し上げるべきであるけれども、突然のことで人騒がせでもあろうかと、さし控えさせていただきます。今日の御礼には、改めて別に日を改めて参上致します」
 と断りを言うと、源氏は、
「それでは、大宮の御病気も相当よくなられたと見られますから、当方へお出での時は、きっとさきに申上げた玉鬘の裳着の日を御まちがえなさらず、必ず御いで下さいませ」
 と内大臣と口約束をした。
 お二人の機嫌も良く、それぞれが帰る物音はたいそう賑やかであった。内大臣の子供達や供の人達は、
「今日はお二人に何があったのだろうか。久し振りのご対面で、たいそうご機嫌が良くなられたのは」
「また源氏様から、どのようなご譲与があったのだろうか」
 などと思い違った推測をしながら、話の内容が、誰も知らない玉鬘に関する事であったとは、気がつきもしなかった。

 内大臣は源氏からよもやと思った夕顔に生ませた娘の玉鬘が見つかり源氏の屋敷に生活しているということを聞き、なぜ源氏が私の娘を育てているのか自分では心の中に何かしっくりいかないものがあるが、すぐにでも会いたいと思う気持ちをぐっと抑えて、
「不意に、源氏の言う通りに、玉鬘を引取って、親として玉鬘を養うということは勝手すぎるだろう。源氏がいろいろと手を尽くして娘を捜し出したことを考えると、彼の性格上、娘を生娘のまま放っておくようなことはあるまい。世間が認めるような大っぴらには、紫上や明石上など現在囲っている夫人方の手前もあるので、同様な身分には扱われなくて、女として手をつけながらも、何か世間の評判を相当気にして面倒であると、思いあまった結果、このように源氏が打ち明けられたと思う」
 と考えるのは残念であるけれども、考えようによっては、
「源氏が玉鬘に欲情し愛人としている事を、彼の汚点として良いだろうか、そうではないと思う。源氏の愛人となれば、その事で、どうして世間から彼が非難されることがあろう。もし源氏の威光で娘が内侍の督にあがったとすると、姉に当たる弘徽殿女御と君寵を争う事となると、これも姉妹で争うようなことになり、私の面目をつぶされることになる」
 とあれこれと内大臣は玉鬘の出現で考えるが、
「どちらにせよ、源氏の決定に逆らうのは得策ではない」
 と、考えた末に内大臣の心は落ち着いた。
 三条宮でこのように源氏が内大臣に打ち明けたのは、二月一日頃であった。陰陽師に占わせると十六日が彼岸の入りで、たいそう吉い日ということであった。その近くには吉日はないということで、大宮の体もこの頃良いようであったので、急いで裳着の準備をして、源氏は玉鬘の部屋に出向き彼女の実の父である内大臣に、玉鬘の事を打明けた様子や、裳着に父の内大臣と初めて対面する時の心得などを、大変こまかく玉鬘に教えた。
「親切な源氏の心づかいは、実の親と申しても、これほどのことはあるまい」
 と玉鬘は思い、父親に会えるととても嬉しく思うのであった。
 このように玉鬘の事を内大臣に打ち明けた後は、息子の夕霧にも、こっそりと玉鬘と内大臣の関係を知らせた。夕霧は、
「内大臣の娘であるのに源氏の娘としていたなどというのは不思議な事である。それだから父があのように玉鬘に娘以上の愛撫をするのも、実子でないと聞けば尤もなことであるな」
 と、合点のゆくのであるが、恋する雲井雁よりも、さらに玉鬘を艶めいて思い出されて、
「女として体を求めてもかまわない他人であったのだ、早くに気がつけばもっと積極的に攻められたのに、考えも付かなかった事よ」
 と夕霧は、考えの甘さに愚かしい気がする。しかし、玉鬘に心を奪われた自分を、
「あってはならないこと。筋違いなことだ」
 と、反省することは、夕霧という男は珍しいくらい誠実なようである。

 玉鬘の裳着の日になった。三条宮の大宮から、こっそりと使いが来て、櫛の箱など、何しろこの裳着が急に決まったのであるから大宮は慌てて揃えたのであるが、、いろいろな祝い品を見事にあつらえて、手紙を添えて玉鬘に贈ってきた、
「裳着の祝いということをお聞きしましても、お祝いのお手紙を差し上げることも、縁起の悪い尼の姿でありますから、今日の祝いは、遠慮しますけれども、そのような尼である点でも、尼の長命な例にあやかって戴くということで、お許し下さるだろうかと存じましてお祝い申し上げます。貴女の境遇を聞きまして、私の孫である貴女が私を祖母と思って慕うか否かも知らなくて、私が貴女を孫として心に掛けて愛することは、貴女の気持ちを考えずに勝手に決めてしまうのは如何かと思います。ですから、貴女が私を祖母として思い慕
うかどうかによって私の心も定まりますでしょう。

 ふたかたに言ひもてゆけば玉櫛笥