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私の読む「源氏物語」ー39ー野分

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 と言って鏡に映る自分を内心は「歳を取らず何時も変らず美しい」と思っているようであった。源氏は大層気を張って紫に、
「中宮に御目にかかるのは、まことに私は恥ずかしい。秋好中宮は、表には風情ありげな所も見えないで、実は何となく奥ゆかしく、中宮の前ではなんとなく、私が気遣いする。そんな方であるねえ。どうも、心に何か固く思い詰めて、しっかりしておられる」
 と言いながら出てきたのを、紫に恋いこがれている夕霧は、紫の居る奥を見つめて、ぽんやりと考えこんでいて、源氏が中宮方へ出かけようとするのを見て驚いた様子であるのを、心を見る目の鋭い源氏はその夕霧を見て、紫の許に戻って、
「昨日の嵐の騒ぎの中夕霧はそなたを見たのかもしれん、あの妻戸が開いていたからかな」
 と紫に言うと紫は顔を赤くして、
「そのようなことはありますまい、此方の渡殿には人影はありませんでしたよ」
 と源氏に答えるが、しかし源氏は夕霧を見て、
「どうであろうか、怪しいものだ」
 と独り言のように言って、中宮の屋敷の方に向かった。
 中宮の屋敷に渡ると源氏は御簾の中に入り込ンで言ったので、供をしていた夕霧は中宮方の渡殿のところで中宮の女房達が集まっていたのでその場に止まり、女房達と冗談を言い合っていたが、内心は紫や雲井雁の顔が見られないのが悲しかった。
 秋好中宮方より北の方へ通り抜けて、源氏は明石上の御方を見舞うと、昨夜の風に荒らされた庭には、
しっかりした家司は見えなくて、物馴れた下仕えの女房などが庭の中を歩いていた。女童などは、上着の汗衫も着なくて、袙を着た姿のままにくつろいだ姿、明石上が特別に丹誠して植えた竜胆や朝顔(桔梗)が倒れて、地面に這って交っている笆垣も、全部こわされて散乱しているのを、この女童達が引っ張り出したり、まだ生きのあるものを探し出したりしていた。その姿を見ながら明石は周辺の様子があまりにもの悲しいので箏の琴を奏で縁の近くに座っていたのであったが、源氏訪問の先触れが聞こえたので、くつろいで気を許し、糊の気が失せていた下襲だけ着た姿の上に、小袿を衣架から引き落して着て、源氏に敬意の礼を失わぬ礼儀正しい態度は、本当に殊勝である。
 源氏は腰も降ろさず上がりもしないで縁近くに立ったまま、昨夜の暴風のことだけを見舞って、それだけを言うとあっさりと帰ってしまった。それを明石はねたましく思い、そこで、

 おほかたに荻の葉過ぐる風の音も
      憂き身ひとつにしむ心地して
(野分の大風ならぬ一般的に荻の葉を吹いて過ぎる風の音でも、つらい我が身一つにだけしみこむ気がして、寂しくもあり悲しくもある。まして源氏の君が、風のようにつれなく通り過ぎなさるのは、殊に身にしみて悲しい)

 と独り言のように詠う。

 花散里の御殿の西の区域には玉鬘が暴風の夜は恐ろしくて眠れなかったせいか明け方に眠りについて寝過ごし、源氏が来られた時は鏡などを見て顔を直していた。源氏は供の者に、
「声を出して先触れをしないように」
 と言いつけたのでみんなは静かに玉鬘の屋敷に渡っていった。風を避けるために屏風などを一固めにたたんで片隅に寄せ、調度品などが室内に乱雑に散らかっている所に、日光がきらりとさしこんでいるなかで、玉鬘は際立ってはっきりと何と言う事なしに綺麗な姿で座っていた。源氏は玉鬘に近づいて、 野分の風見舞の言葉も相も変らず同じ懸想じみた事にこだわって、うるさく冗談を言うので、「聞くのも、我慢できなく嫌らしい」と玉鬘は、
「冗談事の過ぎますので、昨夜の風に乗ってでも、私はあてもなく飛んで行ってしまいたく思っていたのでした」
 と腹を立てて答えると、源氏は大声で笑って、
「風と共にあてもなく飛んで行くことは、軽率なことです。たとい、それが望みであっても、心の落着く先は、きっとあるでしょう。こうして長いお付き合いをしていると、段々私から離れ私を嫌って、このようなお気持ちになられてしまうのも、それも道理であることですね」
「(源氏が「長い付き合いで段々私から離れてしまう」と言うのも、なる程尤もである。自分は、思っている通りに、源氏に言ってしまったなあ」 
 と玉鬘は言いすぎたかなと思い、自分も照れ隠しに源氏に向かって笑顔を見せたその姿は、大層趣のある美しい顔の色艶と頬の様子である。ほおずきのように、赤くつやつやと丸味があってその顔にかかる綺麗な髪の間から美しい肌が見えるのであった。 目もとが、あんまりにこやかなのが少しばかり高貴な身分に見えないが、そのほかは何も欠点というものが見つからない。夕霧は、源氏が玉鬘と親密に話をしているのを遠くから見ていて、どうにかして玉鬘の顔を見たいものであると、前々から一度玉鬘を見たいと考えていたので、二人が話している部屋の隅の柱と柱との間の一間の御簾に几帳がただ立てかけられてあるのを御簾を引き上げて、隙間から奥を見通すと普通ならば障害になる几帳や屏風などがあるのが今日は昨日の嵐で取り払われて部屋の中がが見通しになっていた。人が見ていないと思い、玉鬘にふさける源氏の様子が、はっきりわかるのを見て、夕霧は。
「変な事であるよ。いかに親子であるとは申しながら、父源氏は、このように玉鬘を自分の懐から離れない程抱きかかえる、何となしにこのように玉鬘に接近して愛撫する年頃であるかなあ。玉鬘は、も早、そういう年頃ではない」
 と父源氏と玉鬘の行動を不審をもって見ている、源氏が自分がのぞき見をしているのを見つけられるかなと、夕霧は恐れたが、源氏の態度が不思議であるので、目のみならず心も驚いて、やっぱり見ていると、玉鬘は柱にかくれるようにして、少し許り横の方に向いているのを、源氏が抱くようにして引き寄せると、玉鬘の髪が一方に並び寄って、ばらばらと溢れ出るようになって顔にかかった時、彼女は顔にかかった髪がうるさく、つらいと思っている様子であったが、それでも源氏に逆らわずに、頬を寄せ合ったり、袖口から男の手が胸にはいるのを嫌がりもせずに喜んだり、軽く唇を合わせたり、源氏のなすまま、大層おだやかな様子で源氏に寄りかかっているのは、よくよく、いかにも馴れ馴れしい二人の仲であるように思われる。「いやもう、嫌な事である。一体これは、どういう事なのであろうか。女の事にかけては、凄腕の父源氏の御気性なので、最初から、側に置いて娘としてあまり躾のことを厳しく言わないのは、こんな恋の御気持あったからであろうと思う、それで、このように男と女の関係にまでなったのである。何という情けないことを」
 と夕霧は父と玉鬘の男女のなれ合いを見て、父の態度を恥ずかしく思うが、そのように考える自分の心も、きまりが悪く思っていた。さらに、
「玉鬘の生立ちは、源氏の子として田舎から尋ね出した者で、なる程兄弟と言っても、一腹の兄弟ではなく少し離れて、どうも別腹の娘であるなあ」
 など思うと、
「過ちを犯してもしょうがない」