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私の読む「源氏物語」ー37-常夏

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 この若者達は、皆貴女を慕ってお出でですよ。女というと、普通のつまらない身分の女でも、深窓に籠もっている間は、男は身分のことなんかも考えないで、女に一目逢いたい一回でも話がしたいと思うものです。この六条院の評判も内部ではごたごたとしていますが若い男達の評判は実際以上に大きく評判をしているようですよ、貴女の他にも明石、秋好中宮と女性の方々がいらっしゃるのですが、やはり貴女に一番男性が恋をしかけるようですね。
 こうしていらしたのだからこの機会に貴女にすきごと言い寄るようであるかも知れない、あの若者達の気持ちの深さと浅さとを見てみよう、望みの叶う気がしました」
 などと、ひそひそと玉鬘の耳元で囁いた。
 玉鬘の住む部屋の前の庭は、あれこれと草花を植えることなく、撫子の花の色合いを揃えて、唐撫子、大和撫子を低い垣に可愛らしく結んであって、昔玉鬘の母である夕顔が詠んだ
「山がつの垣は荒るともをり/\あはれはかけよ撫子の露」の歌を思い出させるようであり、その咲き乱れている花に夕日が当たりたいそう美しく見える。少将も侍従も、この撫子を思いのままに手折ることができないのを、残念に思いながらどうしてよいか分からずにうろうろと徘徊していた。源氏は玉鬘に言葉を続ける、
「見てみなさいあの子達を、教養のある人たちだな。女の人に対しての思いやりなんかも、それぞれ立派なものだ。右の柏木中将は、この子達の中でさらに落ち着いていて、こちらが恥ずかしくなる感じがすることがある。どうですか、その後柏木から文がありましたか、もしあったならば、ほっとかないで何となく気まずく柏木を突っぱねるようなことはしなさんな」
 などと言う。
 源氏の息子の夕霧右中将は、この優れた人たちの中でも、際立って優美に見えた。源氏は玉鬘に、
「夕霧をお嫌いなさるとは、内大臣は困ったものだ。内大臣一家は藤族一族ばかりで繁栄している中に、夕霧は皇孫の血筋を引くので、源氏という王孫めいた血統が混ざるのを嫌うのであろうかな、見にくいとでもいうのか」
 聞いていた玉鬘は、
「御いでなさるならば、婿にしよう」と言う人も、催馬楽にあるのでござりましたから」
 と源氏に言う。催馬楽の我家に、
 我が家は 帳 帳も垂れたるを
 大君来ませ 婿にせむ
 御肴に 何良けむ 鮑 栄螺か
 石陰子良けむ
 鮑栄螺か 石陰子良けむ
(私の家は 御簾や几帳を垂らして飾ってあります
 大君さまおいでなさい 婿入りなさいませ
 お酒の肴は何にしましょう
 鮑か栄螺か、それとも石陰子がお好みですか
 鮑か栄螺か、それとも石陰子がお好みですか) と歌われているのを玉鬘は言うのである。 

 源氏は、
「いや、婿になったとしてもさあ、婿の御肴、待遇である。それは何がよかろうなどと、好遇せられるような様子は望んでいません。ただ、専ら、祖母大宮の邸の三条院に同居していた時、幼な同士のタ霧と雲井雁が、約束していたかも知れない恋心を解決しないで、長い年月タ霧と雲井雁の間を割けてしまった内大臣の気持ちが、私には非情に思えるのです。夕霧がまだ身分が低いから外聞が悪いとお思いならば、二人に悟られないようにして万事私に一任されたら内大臣はなんの気がかりなことがありましょうぞ」
 と源氏は内大臣の処置にため息をつき不満を言う。そんな源氏の愚痴っぽい言葉を聞いて玉鬘は、
「二人の関係はうまくいってなかったのだわ」
 と分かると、自分が父親に会えるのがいつか分からないのは、玉鬘には悲しく胸の塞がる思いであった。

 夜の暗闇がひどく月もないころなので、竹・木・鉄などでわくを造って紙を張った灯籠に明かりをつけ、軒に懸け回した。源氏はそれを見て、
「やはり、灯籠は近すぎてなんとなく暑苦しいな。篝火の方がいいだろう」
 と、人を呼んで、
「篝火の台を一つ、こちらに」
 と庭にある篝火を一つ取り寄せた。
 玉鬘の部屋にある美しい和琴を引き寄せて、一弦ずつの調子を見ると、律の調子にうまく調律してあった。音色もとてもよく出るので、少し曲を弾いて、玉鬘に、
「和琴のようなのは貴女は弾かないのかと今まで思っていました、よく調子が整えられていますね。和琴というのは秋の夜、月の光がさえる頃に部屋の奥深い所ではなくて、縁側に近く出て虫の声に合わせて弾いたりすると、親しみのあるはなやかな感じのする楽器です。そうかと言って、和琴は、他の楽器と較べては、特にこれという調子もないし、またしまりもない。けれども、この和琴という物はねえ、多くの楽器の音色や拍子を、そのまま調子が合うように揃えて取込んだ点が、非常に勝れたものである。日本の楽器で大和琴などと言われているが、一見つまらない楽器のように見えて、実は際限もなく極めて精巧に作られているものです。これは、高麗や唐土などの音楽を、広く知らない女のため、学ぴ易いように作られたもののようですね。和琴は、六絃であるから、学ぴ易いのです、しかも、多くの音と拍子を併せることが出来ます。
 どの楽器もうまく弾けるようになりたいと思うならば、貴女が一人で練習するよりも、熱心に外の楽器などと合奏して腕を上げることです。難しい演奏法と言っても、特にあるわけではありませんが、しかし弾きこなすことは難しいのでしょう、現在では、あの内大臣に並ぶ人はいません。
 何でもない、誰が弾いても同じ一番簡単な奏法である菅掻の音でも、内大臣のような上手な人が弾けぱ、その中に、あらゆる楽器の音が、自然に含まれていて、何とも言いようもなく響くものです。」
 と玉鬘に源氏が和琴のことを説明すると、少しは練習の甲斐あって、多少会得している彼女は、「どうかして、和琴を上手になろう」と思っているときであるので、内大臣の和琴が、大層聞きたいと気になる、源氏の話をもっと聞きたくて、
「こちらで、立派な方がお集まりになり、相当な管絃の御催しの際などに、私は、内大臣の和琴を聞きたいと存じまする。筑紫におりました頃賤しい田舎者の中でも、和琴を習う者が大勢おりましたから、割合気楽に弾けるものかと思っておりました。貴方のお話によりますと、お上手な方は、まるで違っているのでしょうか」
 と、内大臣の琴を大変聞きたそうに、玉鬘が熱心に気を入れているので、源氏は、
「そうです。勝れた者は格別です。いかにも「あづま」などと、その名称は東国の楽器のように思え、田舎めいて粗末な物のようであるけれども、宮中での帝の御前での管弦の奏楽のときも、まず第一に楽器を管理する女房の書司を呼び出されて楽器を揃えさせる場合、異国はいざ知らず、わが国では和琴を楽器の第一として差し出すのです。
 そうした名人と呼ばれている中でも、貴女のお父上がその第一人者でありますから、貴女が父親から直接習い取ったら、立派な弾き手になるでしょう。こちらにも、何かの機会に内大臣はおいでになるだろうが、和琴の秘曲をそう簡単に演奏することは先ずないでしょう。何事に付け名人と言われるような人は、気安くは手の内を見せないもののようです。
 とは言っても、貴女はいずれは聞くことができるでしょう」
 と言い、曲を少し弾くのである。源氏の演奏する姿はとても素晴らしく、はなやかで趣がある。玉鬘は、