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私の読む「源氏物語」ー36ー蛍

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「物語の中の人物だけでなく実際の人も、そういうもののようです。誰でもがそれぞれ自分の考えた方針が違っているので、我が強くて、人間らしく行動をしないのである。相手の男に、適宜に順応する様な態度に出ない女である。相当に立派な親が、気を付けて育てあげた娘で、無邪気で大ようなのを、親がその娘の好いところとして大切に育てたところが劣ったところが多いのは、いったいどんなふうにして育ててきたのかと、世間の目は親の育て方までとやかく言われるのは、娘も気の毒なことです。
 そうですねえ、親の育て方までも他人は想像すると言うことは、さすがに、その身分に恥ずかしくない「あの娘の態度風采であるよ」と、外の人に良く見られているのは名誉なことでありますね。
 また口を極めて、乳母とか女房などが、傍から聞いて居ても恥ずかしいと思う様に、褒めちぎっていた娘が、取った行動が乳母らが褒めていた通りの言葉や行動でないとき、見る者はあまりの評判の良さから想像していた娘とは大変な違いで、普通異常な見劣りがするものである。だから思慮のない者に、娘を褒めさせたくないと思うのである」
 源氏は少し話が通らないが、ひたすら明石姫が非難されないようにと、あれやこれやといろいろ考えてしゃべっていた。
 そんな考えから継母の継子に対する意地悪を書いた昔物語が多いので、最近は、そのようなのを明石に見せると、継母である紫を悪く思うようなことにでもなるであろうと、物語を厳しく自分で選んで、明石に清書させたり、絵に表現させたりさせていた。

 源氏は息子の夕霧中将を、紫の住むこの館には近づけないようにしていた。それはかって亡くなった藤壺女御に懸想して無理に体を奪い今の帝である冷泉帝を儲けたという自分の過去があるので、夕霧と紫が歳は離れているとはいえもしもの事があればという気持ちからであった。
 明石姫方には、そんなふうにはなくて、彼女とは親しくさせていた。それは、
「自分が生きているときは、夕霧が紫上に親しくしても、明石姫君に親しくしても問題はないが、もしも自分が死んた後のことを考えて見る時には、タ霧が、明石姫と親しくして、仲良くしてくれるのが何より好いことである。二人が兄妹として情合の程も深くなっていくであろう」
 と考えて。南面にある明石姫の御簾内に入ることは源氏は夕霧に許していた。しかし、紫上の女房達の詰めて居る所である、台盤所には入ることは許さなかった。源氏は少ない子供しか持たなかったので、子供達の間柄をとても大切にしていた。
 夕霧は性格がどっしりと沈着で、真面目な男で細かいところもよく気がつくので、明石姫の相手として源氏は安心して任せていた。明石姫はまだ幼いお人形遊びなど好みであるので夕霧は共に遊びながら昔雲井雁とこうして雛遊びをしたことがあったと、、真先に思い出し、人形遊びの御殿の宮仕を、二人でとても熱心にしながら、時々涙ぐんでいた。
 夕霧は彼の相手になるような女に、お前が好きだよとか懸想の言葉などを、冗談に言うことは時々あるが、言われた女が本気にして夕霧に迫ってくるようなことはしなかった。そんな中には自分の愛人にしてもよいと思う女もいたのだが、敢えて意に留めない事にして、今でもやっぱり「(早く高位に昇進して(「六位宿世」と乳母に軽蔑せられた)あの緑衣六位の姿を見直してもらい、雲井雁を迎えたいものだ。と思う気持ちだけが、大きな心のしこりとして、夕霧の心中には残っているのであった。ただし、雲井雁の事は、タ霧が無理やりにしつこく彼女の父の内大臣に迫るとしたら、彼女は途方にくれるであろうことは、内大臣は、夕霧と娘のことを重大事として忘れられないのであった。
 夕霧は雲井雁の事を自分が無理やりにしつこく、何回も彼女の父の内大臣に申し込む、それでも内大臣が頭を縦に振らなければ、タ霧は気が狂ったような思い切った行動に出るのではないかと、二人の中を許すかも知れないが、夕霧は、
「つらいと思った折々のことを、何とか内大臣にもお分りになっていただこう」
 と考えていたことを、
「雲井雁を夕霧に許す事の、正しかったか否かを、内大臣にも判断させて後悔させよう」
 と、いざというときにこうと決めていたことを忘れることができない。
 しかも一方、雲井雁本人だけには、いい加減でない本気の情愛を、すっかり示して、外に対しては自分は自然体で冷静に、いらいらしてあせって恋い焦がれているようには見せない。この夕霧に雲井雁の兄である 柏木は、
「小憎らしい奴めどうせそこらに女がいるのであろう」
 などとばかり思うのであった。
 玉鬘のことを、柏木右中将は、のぼせ上がってしまい、手引きをするみる子だけでは頼りないと思いこの際夕霧を此方の味方に付けてと、夕霧に頼み込んできたのである、夕霧は、自分も雲井雁に恋いこがれていてどうにも動きがとれないので、
「他人の恋の世話をする事では、思うにまかせぬものである」
 と素っ気なく答えていたのだが、二人の関係はその昔源氏と頭中将の仲の良さに似ていた。

 源氏と親しかった彼の亡くなった正妻葵の兄である元の頭中将現在の内大臣は、正妻外の夫人が沢山いてそれぞれの夫人たちに男の子供が大勢いたが、それぞれの生みの親の血筋の良さや、子供の性質に応じて、子供達を自分の地位を利用して、皆一人前にしていた。女の子は各夫人方にあまり多くはいなかったが、その一人の弘徽殿女御も、斎宮の女御今は秋好中宮と言っている源氏が推薦した女御に敗れ、今また娘の雲井雁が、夕霧との関係から宮仕えが出来ないでいる、内大臣の考え通りにすべてが行かない状態であった。このことが内大臣は悔しくてたまらないのであった。
 そこで内大臣の心に浮かぶのは、昔愛して娘を生ませそのまま消息が分からなくなった、その当時は撫子と呼んでいた娘のことが忘れられず、まだ源氏が十七才の頃宮中で雨の夜に退屈しのぎに何人かの若い者同士でしゃべったこと、そのことが思い出されて、
「あの娘はどうなったのであろう、何となく頼りない不運であったタ顔の心に引きつけられて、かわいらしかった子を、行く方不明にしてしまったことよ。娘というたら、決して目を離してはいけないものなのである。タ顔はおとなしかったので、つい油断して失敗した。世間に馬鹿にされまいと、私は今ときめく内大臣の娘であると言いながら、見すぼらしい状態に落ちふれているであろうか。どちらにしても、父上と名乗って出て来たなら、引き取ろうと思う」 と、しみじみとずっと思い続けているのである。内大臣の息子達にも、
「もし、そのように名乗り出る娘があったら、注意してその娘の言い分をよく聞いておくのだ。心の慰みにまかせて、若い時には女と関係を持ったものである、その中で、あの夕顔はただ一時の慰み女とは考えなかった相手で、つまらない嫌気を起し愛想づかしをして、少ない娘の一人を見失ってしまった。残念なことよ」