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私の読む「源氏物語」ー35-胡蝶

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 源氏が玉鬘の前から離れて外の廊下に出ると、庭先に植えられた呉竹が、青々とたいそう若々しく伸びて、風になびいていた、その姿が心を和ましてくれるようで、立ち止まり暫く眺めていた。源氏はふと思いついて

 ませのうちに根深く植ゑし竹の子の
      おのが世々にや生ひわかるべき 
(竹や木などで作った、低く目の荒いませ垣の奥で、大切に育てた呉竹のような娘も、それぞれ結婚して出て行くわけか)
 思えば恨めしいことだ」

 と、玉鬘の座る御簾を引き上げて歌うと、玉鬘は膝行して出て来て、

 今さらにいかならむ世か若竹の
      生ひ始めけむ根をば尋ねむ 
(このような立場になって、私はどんな世の中になろうとも、若竹が植えられて生い始めた根本を尋ねて、実の父に逢いましょうか、逢いに行く気はありません。
こんな気持ちで父に逢えば、却って煩わしさが如何にもござりましょう。
 と返歌する玉鬘を、源氏は思いっきり抱きしめたいようにいじらしいとおもった。
 実のところ、「ませのうち」と詠った源氏は、玉鬘の「人妻になって行く」事と自分の彼女に対する恋心を混ぜて詠んだのであるが、ところが返ってきた玉鬘の歌「今さらに」は、源氏の歌の意味を換えて、「実の父の許に尋ねて行く」親子の事に取って、玉鬘は詠んだ。玉鬘は心中では源氏が自分の体を求めていることを感じていて源氏の許から離れたい気持ちであった。そうして、
「源氏はどのような機会に父親に自分のことを告げるのであろうか」
 と、気がかりで胸の痛くなる思いでいたが、世話になっているこの源氏の自分に親切にしてくれるのが並々でないのを、
「実の親と言っても小さい時から側にいなかった私であるから、どうしてもよそ者のように感じることであろう。今のように源氏様が私にしてくださるほどの細かいところまで面倒を見てくれるか」
 と玉鬘は思うのであるが、彼女も物語本をどんどんと読む内に、だんだんとこの都の人の様子や、世間の有様が分かってくると、源氏にたいそう気がねして、自分から進んで実の親の内大臣に会いたいとはとても言い出せないだろうと思っていた。

 源氏は日増しに玉鬘が可愛いという気持ちが大きくなっていく、今では正妻に納まっている紫にも玉鬘のことを話す、
「玉鬘は話をしてみると次第に人の心を惹きつける人柄であるよなあ、不思議な性格だ。彼女の亡くなった母親の夕顔は明るい性格ではなかった。この玉鬘は、いろいろな事柄を何でも、正確に理解が出来、その上に親しみ易い気立ても加わって「妻として全く落ち度がないと思われますね」
 などと言って玉鬘を褒める。紫はそんな源氏の心の内は、こうと決めた女にはきれいごとでは済まされない性格であることを、よく知っているので、また始まったのかと、
「物の道理をよくわきまえておられるようですが、貴方にすっかり気を許して、何の警戒もされずに信頼申し上げていらっしゃるというのは、彼女にとっては大変気の毒なことですわね」
 源氏は紫の言葉に刺があるのを聞きとがめて、
「私がどうして、彼女の頼りにならないことがありましょうか」
 紫は少し首を傾けて、
「さあ、私でも彼女の心の内と同じ様に、我慢が出来かねる程、煮えくりかえるようなことが、かつて何回もございましたは、貴方のなさりようはまた同じ事の繰り返しである」
 と、微笑して紫が源氏に言うと、「なんとまあ、察しの早いことよ」と、紫に、
「嫌なことを邪推しれ。玉鬘はとてもよく気がつく女ですよ」
 と言って、この上話すと益々事が面倒になると、話の腰を折って、源氏は心の中で、
「紫がこのように推量するのを、どう言う風に自分は玉鬘と向かい合えばよいのだろうか」
 と思案に迷い、一方では、自分の恋慕する怪しからぬ心の状態も自然に反省するのであった。
 気にしながらも源氏は頻繁に玉鬘の前に現れては世話をしていた。

 源氏と紫が玉鬘のことについて話し合ってから数日の後、雨が少し降り庭が一面にしっとりとした夕方に、源氏は庭を眺めていて若い楓や、柏木などが、雨水を得て青々と茂っているのが、何となく気持ちよく上を見ると青い澄きった空である、
 「四月天気和 且清」
 と白氏文集巻一九の七言十二句「贈駕部呉郎中七兄」の始めにある一節を口ずさみ、真っ先に玉鬘のことが頭に浮かび、あの若い女の持つ艶やかな雰囲気がたまらなくなり、いつものように紫やその女房に感ずかれないように、こっそりと玉鬘を訪問した。
 源氏が訪ねたときに玉鬘は手習いをした後で、横になってくつろいでいた。源氏が来たのを知ると急いで起きあがって、みだらな姿を見られたと恥ずかしがっている、その顔がぐっと悩ましく源氏の心を引きつけた。そしてあわてる様子もなくゆっくりと居ずまいを直す玉鬘の動きの中に源氏は、ふと夕顔のことを思い出し、その思いが口に出て、
「貴女と初めてあったときには、母君とそんなに似ているとは思いませんでしたが、ところが最近、まるで母上様とお会いしているような気になることがたびたびあるのです。考えてみると本当に不思議な感じがいたします。あの夕霧中将が、私の亡くなった妻である葵に少しも似ていないので、親子とはあまり似る者ではないと思っていたが、貴女を見ていると、このように似る親子ということがこの世間にいるのだ」
 と、涙ぐんでいた。玉鬘の前に置かれた箱の蓋にいろいろと果物がありそのなかに、橘の実があるのを手にとって眺め、古今集のなかに、読人不知の歌「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」
という歌を思い出し、源氏は、 

 橘の薫りし袖によそふれば
     変はれる身とも思ほえぬかな  
(橘の薫りが漂った着物を着た昔の夕顔に、貴女を較べてみると、貴女ががあまり母親のタ顔に似ているので貴女が夕顔と違った人とは思われない)
 過ぎ去る日ごとにいつも心にかかっていたタ顔を忘れることができないから、私は心の中に何かいつも引っかかるものがあって落ち着くことが出来なかった。こうして貴女に会いお世話できるのは夢の様な気がしますが、たとい夢であっても、それでもやっぱり、恋しさはどうしても我慢が出来ないものです。私を嫌わないでくださいよ」
 と言って、側によって玉鬘の手を握りるので、彼女は男の人に手を握られた経験がないので、嫌な気持ちがして振り払おうとしたのであるが、慌て騒ぎもせず、そのままおっとりと何も感じない風にして、

 袖の香をよそふるからに橘の
     身さへはかなくなりもこそすれ
(母の袖の香をおくらべになる故に、母タ顔だけでなく、私までもが母親に似てはかない運命となってしまうような気がいたします)
 源氏に返歌をしたものの、困ったことと思って玉鬘はうつ伏してしまった、その姿が源氏に艶めかしく、前に出した彼女の両手がふっくらと可愛らしくその手の肌から源氏は玉鬘がきめ細かい肌を持っていると想像し、ますます気が高ぶってきて、今日は男の欲を少し出して玉鬘に囁く。
 玉鬘は源氏の耳元で囁く言葉が聞くにつらくて、どうしたらいいのかと、初めて側近くで言い寄る男が恐ろしくぶるぶる震えているのが源氏ははっきり分かるが、それでもさらに玉鬘に、