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私の読む「源氏物語」ー34-初音

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 などと、源氏は彼女に会うたびに、まずは、
「わたしの変わらない愛情も、花散る里が妬みや恨みごとも言わないおとなしい性格を、嬉しく、理想的だ」
 と思うのである。いろりと旧年中の話などを、親密に語り合って、玉鬘の居る西の対へ移っていった。

 花散る里に頼んで源氏は玉鬘を花散る里が住む御殿の西の対が文庫になっていたのを改造して、新しく迎える玉鬘の住居にして、玉鬘を迎えた。
 去年十一月に移転してきたので、日も浅いから、十分に住み馴れない割合に、室内もきちんと片づき可愛らしい童女や女房も多めに見受けられた。
室内の設備や飾り付けは、最低限だけは、調えてあるけれども、細々した手回り品はあまり揃えていないことは、そういう点では質素な生活をする女であるようだ。玉鬘本人も容姿はとても美しく、源氏は見た瞬間に思い、源氏が歳暮にと送った山吹襲の細長を着て、一段と引き立った顔などが、大変華やかで、今まで何となく陰気な女であると思っていたことが全くなくなって全体に何とも言えない雰囲気に包まれいつまで見ていても飽きない姫君であった。
 長らく筑紫の田舎で暮らしていた鄙びた姿から抜け出して、髪の裾の方が少し細くなって、さっぱりと、座っている玉鬘の衣の背に、かぶさる様になっているのが特にまあ大層何となく綺麗で、
玉鬘の何処から何処までもが、大層はっきりと、目立った様子をしているから、
「こちらに引き取って、この後他所に移ったり、他の男の者になったりしたならば、悔しいことだ」
 と源氏が心に思うのであろう、玉鬘をこのまま引き取って世話をして、いずれは玉鬘を自分の女にしたい、考であろうか。
 このようにして玉鬘は源氏の屋敷内で生活している内に、源氏に対する遠慮の気持ちはなくなってきたのであるが、いろいろ考えてみると、自分と源氏との間柄には、しっくりと親しみ切れない溝も沢山あると思うし、何とも理解の出来ないおかしな点もあるようで、玉鬘には、現実の親としての気持もせず夢の様な気がするから、源氏との付き合いには心の中に警戒心を持っていた。そのことを源氏も察しているのであろうか、
「貴女がこちらへ移られたのは昨年の十一月であったが、私たちはもう幾年も暮らしているような気がして、気楽で、かねての私の望みがかなってしまった。貴女は今はもう何の遠慮もなく暮らしになって、あちらにいる紫の上の処にも訪問なさってください。紫上方には、初めて琴の手ほどきを受ける幼い明石姫君もいますからる、貴女も一緒に習われてはいかがですか、紫は軽率に貴女のことを外の人に漏らすような女ではありませんよ」
 と玉鬘に言うので、玉鬘は、
「そっしゃる通りにさせていただきます」
 あたりさわりなく答えた。

 日が落ちる夕方に源氏は、明石の許を訪れた。
渡り廊下を渡って明石の屋敷の入り口の扉を押し開けると、御簾の内部に焚いて居る香の薫りを吹き送る風が、優雅に匂わせて、何物よりも格別に、明石は気品が高いと、源氏は御思う。ところが明石の姿はなく、
「何処に行ったのか」
 と、源氏は見回すがその姿はなく、机の上には硯に墨がすられ、そのあたりに習字の後の様子が乱れたままにしてあった。習字の一枚を源氏が取り上げた見る。唐から舶来の白地の唐織の錦に藤の丸の模様を織り出してある、東京錦というものに、大袈裟に、立派な縁を取った座布団に、趣のある美しい琴の琴、七絃琴を置き、わざわざ色々と意匠を工夫した風流な丸火鉢に、侍従という香ををくゆらし、侍従の香を、室内のすべての物に焚きしめてある所に、装束に焚きしめる衣被香の薫りがまじっているのは、本当に花やかな薫りで、何となく心をくすぐる趣がある。
 稽古をした御習字などで、順序も整えず入りまじって、無造作に書いてある文字でも、手筋が、他の人達とは一風変り、特別な柔らかさを持つ書風である。練習用の反故紙のあり方ではない。大袈裟に、平仮名の中に平仮名の変体仮名などを多く交ぜて、本当に気取って書かず、見ても見よい様に、真面目に文字自体に落ち着きを持たせてあった。紫の手許で育てられている我が子の姫から来た「松のねを忘れめや」─小松の返歌を、母として明石上は、母親としてどうなんだろうと感心して見るその感情のまま、親子の情愛などをしみじみと感ずる古歌などを、手習の中に書きまぜて。

 めづらしや花のねぐらに木づたひて
          谷の古巣を訪へる鴬
(珍らしい事よ、美しい花の寝どこ(紫上方)に、木から木へと伝わり翔って(住んで)居て、今日は見すぼらしい谷の古巣(私─母明石上方)を訪ねた鴬)
 
 姫が、何はともあれ、待ちに待っていた鴬(姫君)の声を、、今日聞かれたことは嬉しい」
 なども覚え書きのように認めてある。また、
「あなたの住居に近く、私は住んで居りますから、いろいろと貴女の消息などが聞こえてきますので、寂しくはありません」など、繰り返し、明石が自分を慰めた意味をこめたものがいろいろと書かれてあるのを源氏が読んで、にこやかに満足している姿は傍に控えている女房も、気が引ける状態であった。源氏が筆をとって明石の書いた手習いの端の方に何事か書き込んでいると、明石が膝で歩きよってきて、もともと気位の高い人であるのであるが、源氏の前に出ると、どうしても源氏に対する態度は柔らかくめろめろであった。その姿を源氏は契り会った数ある女のなかでは一風変わった味のある存在であると見ていた。
 明石の姿は、白い小桂に、鮮明な髪のかぶさって、すこしは髪が薄くなり筋目がはっきりとし、ぱらりとしているのが、源氏にはたまらなく女の性が浮いて見えてくる妖艶さである、源氏は久しぶりの明石の色香に、もやもやとした気分になるが、
「新年早々に明石と共寝でもすれば、紫の嫉妬がはじまることであろう」
と、男の血が騒ぐのを押さえるのであるが、いかにせん、目の前に婉然と源氏を誘う明石の色には勝てず、久しく求めなかった明石の体が頭にちらつき、二人は倒れこぼれるように絡まって几帳の中に入った。明石は、大堰の在所にいる頃は源氏の訪問を待って毎日いらいらしながら過ごしていたのであるが、いったん源氏の訪問があれば、誰に気兼ねすることもなく、常には表を裏返しにして掛けて寝ていたのを表に直し几帳台のなかで、心ゆくまで愛撫され自分も源氏を最高に高ぶらせることに大胆な行動を取ることが出来た。
 しかしここ六条に移ってからは、源氏は正妻の紫に気兼ねをし、明石の許を訪ねることも少なく、訪ねてきても落ち着くことなく帰ってしまう。源氏も同じ気兼ねを持っていた。そんな二人が燃え上がった血潮を思い切りに閨の中でほとばしるのであるから元日の夜の二人のことは想像されるであろう。
 一絡み合って少し落ち着き、源氏は隣で満足そうにしている明石を見て、
「自分はやはり明石を一番愛しているのかな」
 と、他の夫人たちを頭に置きながら思うのである。明石の体は一回だけでは満足することがない、源氏の体に触れている内に再び彼女の血が騒ぎ出し男を攻め始めた。
 一つ屋敷の中のことはすぐに広まる、南の御殿で紫付きの女房達は、
「本妻の紫上をさし置いて、元日の夜から明石上方に泊るとはと」