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私の読む「源氏物語」ー33-玉鬘後半

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「自分や他人の男女の関係を多く見て来たが、愛情のない間柄でも、女性というものの愛する執念の深さを多く見たり聞いたりしてきたので、もう浮気はしないと思っていたが、関係を結んではならないという女にいつの間にか体を許しあう仲になってしまった。そのような女の中で、しみじみとひたすらかわいらしく思えたのが夕顔であった。もしも彼女が生きていたならば、明石の君と同じくらいに、世話をしたことでしょう。女の人の性格は、いろいろですね。夕顔は才気や趣味の深さでは他の人よりも劣っていたが、上品でかわいらしい女だったなあ」
 などと紫に恥もなく言う。聞いてる紫は、
「そうは言っても、明石の方と同じように、お扱いなさらないでしょう」
 と源氏に少しとげのある言い方をする。紫の心の中では、北の区画に住む明石を、ねたむ気持ちがあるのである。横で明石の子供の姫君が七歳になり、とてもかわいらしげに何心もなく二人の会話を聞いているのが、いじらしいので、紫はこの子の母であると、明石の君を、
「殿が明石を寵愛されるのももっともなことだ、」
 と源氏が明石を大事にするのを妬む気持ちを、押さえなければと自然に思い返すのであった。

 源氏と紫が、亡き夕顔との関係を話したのは、九月のことであった。それから後、玉鬘が六条の源氏の屋敷に移ることが、どうもすらすらとは行かなかった。玉鬘に仕える童女や、若い女房たちを源氏は家来達に人選させる。玉鬘は筑紫で、乳母の人選で都から流れてきた人などを、性格などを見極めて仕えさせていたのであるが、今回の急な上京での騒ぎに、全員をして来たので、今はこれと言った女房もいない状況であった。京は広い所なので、女の行商人である市女などに頼んでおくと、上手に女を捜して連れてきてくれる。それでも新しく雇った女房に乳母達は姫君の素性などは知らせずに働かせた。
 玉鬘は、右近の実家の五条の家に、最初こっそりと移り、そこで女房を人選して、姫やお付きの者たちの装束を調えたりして、十月に六条院に移った。
 源氏は、東の区画に住む花散る里に玉鬘を預け、彼女に源氏は、
「前々から可愛い女と思っていた娘を、私が暫く音沙汰なしにしていたもので、気落ちして、遠い山国へ隠れ住んでいたのであるが、その女に幼い娘がいたので、長年誰にも分からないようにこっそりと捜していたのだが、なかなか見つけることが出来ず、その幼子が年頃の女性になるまでになってしまったのであるが、思いがけないところでその幼子を見つけることが出来て、せめて私の想いを寄せていた娘の代わりにと、この屋敷に引き取ることにいたしたのです。
 私が想いを寄せていたその子の母親も亡くなってしまったそうです。夕霧を貴女にお預けした上にさらにこの娘をお願いするのは、ご面倒ではありませんね。夕霧と同じようにこの娘も世話してください娘は山家育ちで大きくなったので、田舎者でありますが、貴女の好いように、その折々に教えてやってください」
 と、少し丁寧に源氏は花散る里に頼み込んだ。聞いて花散る里はげんじに、
「まあ、そのようなお方がいたしたとは、少しも存じませんでしたわ。明石の君の姫君がお一人だけでは淋しゅう御座いますものね、それはよいことで御座いました」
 と、花散る里は持ち前のおおようさで源氏に答えた。源氏は、
「娘の母親だった女は、珍しいほど気立てのいい女でそこらには居ないほど優しい人でした。私は貴女の気立てに惚れ込んでいます故安心してお預けすることが出来ます」
 花散る里は、
「あなた様からお預かりいたしています夕霧様は、ほとんどお世話をすることがなく良くできたお方で面倒がかかりません、そんなことで体が暇ですから姫君のお世話は嬉しいことですわ」
 と源氏に言う。
 源氏に仕える女房たちは、源氏の姫とも知らないで、
「どんな女の人を探してこられたのでしょう」
「いろいろと手がかかる昔関係のあった女を殿は集めてこられますこと」
 とやかましく噂をしていた。
 玉鬘は車を三台ほど連ねて、六条の屋敷に移ってきた。供をする女房達も、右近がいろいろと世話をして、田舎者と言われないように美しく着飾っていた。引越祝いにと源氏から玉鬘に、模様を打ち出した美しい絹や、そのほかいろいろな織物を贈られてきた。

 引っ越しをした夜に、源氏はさっそく玉鬘の居る部屋に訪問してきた。玉鬘は筑紫にいるときに、都での光る源氏の評判は、絶えず耳にしていたのであるが、長年都の生活に縁がなかったので、都の人ほど源氏に対する認識はなかった。しかし、彼女はかすかな大殿油の光に写る源氏を、几帳の隙間からわずかにその姿を見ると、びっくりするほど恐ろしいまでの美しさであった。
 源氏が渡ってくる方の戸を、右近が掛け金を外して開けると、源氏はにっこりと、
「この戸口から入ろうとする人は、気が引き締まる思いがする者ですね」
 と言って、廂の間に設えた座所に膝をつき、
「この燈火は、逢い引きのような気持ちがするな。親とは会いたいもので、父親の顔はたいそう見たいものと言うことです。姫はそうお思いなさらないかね」
 と言って、几帳を少し横に押しやる。玉鬘はとても恥ずかしいので、源氏と正面から見ないように横を向いている、その姿が、源氏には美しく見えて嬉しくて、右近に、
「もう少し灯を明るくしてくれないか。これでは何となく艶っぽいではないか」
 と源氏が言うので、右近が、灯火を持って少し玉鬘に近付ける。恥ずかしがる姫に源氏は、
「恥ずかしがりだね」
 と少し笑って、なるほど夕顔に似ていると思う。目もとの美しさは夕顔にそっくりである。源氏は固い言葉を少しも使わずに、本当の親のように、
「私は、あなた方が長年行方も知れず、心の中から抜けることなく心配をしていたのだが、こうして逢うことが出来て、夢を見ているような気持ちです、過ぎ去った昔、貴女のお母様とのことがいろいろと思い出されて、胸がいっぱいになって、すらすらと話もできないほどです」
 と言って、涙を拭うのである。夕顔のことをほんとうに悲しく思い出さずにはいられない。玉鬘の歳を指を折って数えて、
「親子なのにこのように長年離ればなれになって会わずに過ぎた例はないと思う。運命というものは辛いものだね。もう今は恥ずかしがって、幼子のような仕草をする歳でもあるまいから、逢われなかった長年のいろいろな話をしたいのであるが、どうして黙っているのかな」
 と恨み言を言うので、聞いている玉鬘は何を言って好いのか、とにかく今は恥ずかしいので、
「三歳の幼いころに筑紫に流れましてから後、何ごとも頼りなく夢のような毎日を過ごして来ました」
 と、かすかに源氏に答えた。その声が亡くなった母の夕顔にたいそうよく似て若々しい感じであった。聞いて源氏は微笑して、
「筑紫の地で苦労してきたというのを、気の毒なことである、今は、わたしの他に誰が思いましょう」
 と言って、玉鬘は自分の問いに対する返事が悪くはないと思う。右近に、玉鬘のためにすることを命じて、玉鬘の前から去っていった。

 源氏は初対面の玉鬘が見た目も無難な娘であることに満足して、紫の上にも玉鬘のことを話しこれから先のことを相談するのである、