小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私の読む「源氏物語」ー33-玉鬘後半

INDEX|3ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

 このように右近から玉鬘のことを聞いてから、源氏はことあるごとに右近一人だけを呼んで、他の女房達がいないところで、さらに玉鬘のことを詳しく聞いてついに、
「それでは、その姫を、この屋敷に迎えよう。長い間ふとしたおりに姫が何処へ消えてしまったのかが分からずに、残念に思っていたのであったが、右近が見つけ出してくれてとても嬉しく思っていながら、今まで会わないでいるのも、情けないことだ。
 姫の父大臣には、知らせることはいらないよ。あの人は大勢の子どもの世話で忙しいようであるが、今までは子供の中に入っていなかった姫を、今親子の名乗りをして逢わせたところで、かえって大臣はいろいろと困ることがあるのではないか。わたしは、右近も知ってのとおり子どもが少ないので、紫や他の者に思いがけない所から娘を捜し出した、とでも言っておこう。女を捜し回っている男達に気をもませる種として、姫を大切にお世話しよう」
 などと言葉巧みに右近に言うので、右近は一方では嬉しく思うものの、
「どうぞ殿のお心のままに。内大臣のお父上にお知らせ申すとしても、誰がお伝えするのですか。心をこの世に残してむなしくお亡くなりになった夕顔の方の代わりに、何としてでもお助けあそばすことが、あのことの罪滅ぼしになりましょう」
 と申し上げる。右近の言葉に源氏は、
「えらく苛まれるようであるが」
 と、苦笑いしながら、涙ぐんでいた。やがて源氏は右近に、
「ほんの短い時間であったが夕顔とはしみじみと、心に深く刻み込まれた深い関係であったと、私は長年思居続けて忘れることが出来なかった。右近が見るようにこの六条院に集っている女達の中に、夕顔のように気持ちを惹かれる人はないのであるが、長生きをして、私の愛情が変わらないと安心しきっている女達が多くいる中に、当然夕顔も入っていなければならないのに、言っても詮ないことであるが、右近だけを夕顔をしのぶ形見として見ているのは、残念なことだ。夕顔を忘れる時ということはないが、そのように忘れ形見の姫がここに居れば、長年の私の願いが叶う気持ちがするに違いない」
 と言って、源氏は右近を通じて玉鬘に手紙を送る。あの末摘花との再会が、彼女が落ちぶれ言葉に出来ないほどの廃墟に住んでいるという、何とも言いようもなかったのをお思い出し、玉鬘も末摘花のように落ちぶれた境遇の中で育ったような様子が不安になって、源氏は玉鬘がどんな返り文を書いてくるのかと、心配でならなかった。源氏の玉鬘に宛てた文は、きまじめに、初めての文にふさわしい文面を認め、文の端の方に、
「このようにお便り申し上げますのを、

知らずとも尋ねて知らむ三島江に
       生ふる三稜の筋は絶えじを  
(今はご存知なくともやがて聞けばおわかりになりましょう、摂津の三島江に生えている三稜のようにわたしとあなたは縁のある関係なのですから)

 とあったのであった。ミクリ
 源氏の手紙は、右近が玉鬘にあって直接手渡した。源氏のおっしゃる様子などを詳しく彼女に説明して安心させた。源氏から預かってきた玉鬘の装束、お付きの女房たちの物などいろいろと玉鬘に見せた。源氏は紫の上にも玉鬘のことを相談したのであろう、邸内の裁縫所である御匣殿に、用意してある品物を取り集めて、色あいや、出来具合などのよい物をと、選ばしたので、田舎暮らしに慣れた玉鬘や女房達には、びっくりするほどきらびやかな源氏からの贈り物の品々に目を見張った。

 源氏からの文や装束などを受け取った玉鬘本人はご本人は、
「このように立派な物を沢山戴くよりも、ほんの一寸だけでもいい、実の親内大臣からの文や贈り物であれば、どんなに嬉しいであろう。右近が言うように、知らない源氏様の許にお世話になり、あちらの方々とどうお付きあいすればいいのだろう、私にはとても出来ない」
 と、思うことを右近や乳母達にほのめかし、玉鬘が悩んでいるのを、乳母や右近達は玉鬘のとるべき態度を玉鬘にこんこんと言い聞かせ、他の女房達もくちぐちに女房たちも、
「何も難しくお考えならずとも、自然にお過ごしになり、あちらで一人前の姫君となられたら、お父上の大臣もお知りになられるでしょう。親子のご縁は、けっして切れるものではありません」
 右近は、
「この右近でもたいした者ではありませんのに、姫君になんとしてでもお会いしたいと祈っておりましたことでさえ、これこのように仏や神のお導きによって私の願い事が叶いまして姫や乳母殿と再会することが出来たではありませんか。だから、姫君もお父上も、そしてどなたも無事でさえいらしたら、きっとお父上が姫を訪ねてこられます」
 右近や乳母女房達が、姫を慰める。乳母は、
「とにかくまず、お返事をお書きなさいませ」
 と、玉鬘に無理に文を書かせる。
「文章も筆使いも田舎者らしく見られることであろうよ」
 と玉鬘は恥ずかしかった。それでも乳母は文庫から唐の紙でとてもよい香りのを取り出して、玉鬘に差し出して無理に書かせるのであった。。玉鬘は渋々筆を執って、

 数ならぬ三稜や何の筋なれば
      憂きにしもかく根をとどめけむ
(物の数でもないこの身はどうして三稜のようにこの世に生まれて来たのでしょう)
 とだけ書いて源氏に送った。
 墨は薄く、筆跡は頼りなくたどたどしいところがあるが、全体に上品で見苦しくないので、源氏はこの姫ならばと安心して玉鬘の歌を見ていた。
 玉鬘の住む部屋を何処にしようかと源氏は考えると、
「南の区画は、空いている部屋はない。紫が威勢良く広々といっぱいに使っているので、そこに姫が入ると目立つし紫の女房も多いことだし。中宮のいらっしゃる南西の区画は、姫のような人が住むのに適してのんびりしているが、そうすると姫が中宮にそこで働く女房と同じように思われるだろう」
 といろいろと考えて、
「少し陰気であるが、花散る里の住む丑寅の西側が文殿になっているのを、他の場所に移して」
 と源氏は考えた。
「花散る里は姫と一緒に住むことになっても、慎ましく気立てのよい女だから、姫と話相手になってよいだろう」
 と玉鬘の住むところを花散る里の住む丑寅の区画に決定して準備にかからせた。

 玉鬘の住む場所を決めて源氏は紫の上に、初めて夕顔との関係を話した。聞いた紫はこのような大事なことを夫である源氏が長年心に秘めていたことを、大変に恨みに思い、いろいろと恨み言を源氏に言うのであった。源氏は、
「考えても見なさい、現在生きている人の噂話でも、簡単に口に出して言えるものではありません。今私が貴女に隠さずに語りますのは亡くなった方でありますし、他の誰よりも私があなたを愛しているからです」
 と言って、夕顔のことをしみじみと思い出し、さらに、