銚子旅行記 銚子からあのひとへ 第四部
この銚子の地は、〝利根川図志〟という江戸時代末期に発行された日本で初の観光ガイドブックにも載ったのだという。それによって銚子に来た著名人も多く、銚子は賑わっていたそうだ。
「その頃の賑わいは、どこへ行ってしまったのでしょうねぇ……」
ガイドさんはそんなことを漏らした。銚子が物流の要衝として、また、観光地として賑わっていた頃に比べると、見る影もないぐらいに寂れてしまったのかも知れない。
説明が一通り終わったところで、
「では、向こうの方へ行ってみましょう」
と、海沿いの遊歩道の方へ案内してもらった。本当はもっと海へ近づいて岩を見てみる予定だったそうだ。ところが、今日は波が強いので、それは中止だそうで。本当に波が強くて、飲み込まれたら大変なことになりそうだった。話の流れで、3年前の東日本大震災の話も聞いた。大きな揺れの後、一度、潮が全て引いて、海底が見えたのだという。その後、大きな津波が押し寄せたそうだ。銚子市での人的被害はなかったが、すぐ近くの海辺にある観光ホテルは、1階が津波で使用不可能になり、そのまま廃業したという話だ。
いろいろと話を伺い、今度は灯台の近くへ行く。灯台の脇にある遊歩道から、景色を見て説明を受ける。ここの灯台は、〝世界灯台百選〟にも選出されたそうだ。そんな話も聞きながら、海を眺める。ここからそれほど遠くない所には、砂浜も見える。
「あれが君ヶ浜ですか?」
と訊くと、その砂浜が君ヶ浜らしい。本当に目と鼻の先で、歩いて来ることも可能のようだった。それを知っていれば、君ヶ浜駅で降りたのに……
残念な気持ちで、説明を受けながら歩く。君ヶ浜の先には、かつてアシカがたくさんいたという島も見えた。それについての説明を受けた。その辺りが海鹿島らしい。そうなると、海鹿島駅からも歩いて来られるということになる。何だか、それを先に知っていればよかったのに……、ということばかり聞く。
「銚子って、暖かいですね!」
歩きながら、ガイドさんに言う。聞くところによると、正月の頃は、天気がよければポカポカ陽気にまでなるらしい。海が近い場所だけに、意外だった。
他にもいろいろと銚子の歴史などの説明を受けながら灯台の周りを歩き、またさっきのテントの所にたどり着いた。これで一通りのガイドツアーは終わりらしい。いろいろな意味で発見の多いものだった。
ガイドさんに礼を言い、受付のテントを離れる。ちょうどその隣にある、何だかんだで犬吠埼へ来た時に寄っているレストランに入った。何を食べようかな。空いている席に座り、メニューを眺める。四月に来た時は、エビの天ぷらが載ったラーメンを食べた。今日は、その時にどちらにしようか迷ったマグロの〝づけ〟が載っている〝まぐろづけらーめん〟にしよう。ついでに、メニューにあった千葉の地ビールも。〝九十九里オーシャンビール〟の〝バイツェン〟を注文することに。この店は、カウンターで食券を買うシステムだ。ちょっと値の張る昼飯だけれど、久々の旅だからいいだろう。ラーメンは1300、ビールが370円だった。
席に戻って待っていると、まずはビールが運ばれてきた。注文したのは、小麦の麦芽を使用した白ビールだ。飲んでみると、やはりコンビニなどで売られているビールとは違った。苦みがちょうどいい。地ビールはなかなか飲めないもの。それがこんなにうまいのだから、いいものだ。
ビールを飲みながらラーメンができるのを待っていると、表に何台ものバイクがやって来た。ちらりと見えたそれらは、何度か見かけているライダーが乗っているようなものではなかった。ハンドルが大きく曲がっていたり、後部座席には大きな背もたれがついていたり。暴走族とか旧車會とか、その類の集団のようだった。その集団が店に入って来た。さっきまでほとんど人のいなかった店内は、一気に賑やかになった。誰がリーダーか分からないけれど、40代ぐらいという風貌の男性もいれば、僕よりも若いことは見ただけで明かな女性もいた。
賑やかな店内で待っていると、ラーメンが来た。トレーに載って運ばれて来たそれを見てちょっと驚いた。メニューの写真では、マグロの〝づけ〟が載った状態だった。ところが、実物は〝づけ〟が別皿。自分で載せて食べるようだ。早速、そうして食べてみる。マグロの〝づけ〟は、あまり食べたことがないので、こんなものか、という感じ。ラーメンの方は、スープの味も麺も、いかにも昔ながらのラーメンという感じだった。
食事を終え、賑やかな店内を後にして犬吠駅へ戻る。例の水族館では、イルカショーの開催はなかった。しかし、何やら他のイベントが行われているのが坂から丸見えだった。
景色を眺めながらぼんやりとあのひとのことを考えて、元来た道を引き返す。そのうちに、犬吠駅にたどり着いた。ここで土産物を買う。〝ぬれ煎餅〟は欠かせない土産物だ。これには、パッケージの絵が赤い濃い口、青い薄口、緑色の甘口がある。いずれも食べたことがあるけれど、やはりスタンダードな濃い口がうまい。好みは人それぞれだけれど、薄口は味が物足りないし、甘口は砂糖が加えてあるので本当に甘い。
土産物の〝ぬれ煎餅〟は、この駅限定のお買い得な規格外品の詰め合わせを買う。規格外品と言っても、ちょっと形が悪いだけ。おいしい味は変わらない。味は濃い口のものにした。この他、バーテンダーをやっている知人に〝デキ3型〟をかたどった栓抜きも買った。
これらの他にも、窓口で〝縁起物切符〟を買う。君ヶ浜駅から銚子駅までのものと、犬吠駅から銚子駅までのもの。それぞれ、赤い文字で大きく願いごとが書かれている。君ヶ浜駅からのものには〝縁結〟、犬吠駅からのものには〝恋愛成就〟という文字が。君ヶ浜駅からのものを二枚、犬吠駅からのものを一枚買った。使い道に関しては特に考えていない。後のことはご想像にお任せすることにしよう。
第十章 山登り
この先もまだまだ歩く。土産物を買うには早いと思われるかも知れない。しかし、犬吠駅の土産物売り場は銚子電鉄の駅でも品物のバラエティが一番富んでいる。なので、いつも土産物は犬吠駅で買っている。土産物がどっさり入った紙袋を手に、次は満願寺へ向かう。
駅前の踏切を渡り、そこから続く道をずっと歩く。今日は見そびれてしまったけれど、列車の中からも満願寺を見ることができる。犬吠駅に列車が着く直前に、進行方向右手に見える朱色やら金色やらのやたらと目立つ建物がそれだ。前からそれが気になってはいたけれど、なかなか行けずじまいだった。2年前に〝彼〟と銚子を歩いた際、初めて行くことができた。今日は2度目の参拝となる。
大通りを渡って歩いて行くと、だんだんと坂道になる。その先に満願寺が見えてくる。その辺りから、道沿いにはこれでもかというぐらいに〝駐車禁止〟と書かれた立て看板が並んでいる。その道を進んで行くと、満願寺の山門が現れる。それをくぐって境内に入って行く。広い境内には、たくさんの建物が並んでいる。それら一つ一つに、何やら神様が祀ってあるようだった。仏像などもたくさんある。
作品名:銚子旅行記 銚子からあのひとへ 第四部 作家名:ゴメス