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銚子旅行記 銚子からあのひとへ 第四部

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 おみくじ売り場もいくつかあった。せっかく来たのだし、試しに、その一つでおみくじを引いてみることにした。いくつか種類があったけれど、とりあえずスタンダードなおみくじを引いてみた。運勢は〝吉〟だった。アドバイス的な項目には、当たり障りのないことが書いてあった。
 また境内を歩く。境内の奥の方には、銚子電鉄の列車からも見える金色の塔がそびえ立っている。〝さざえ堂様式〟と呼ばれる八角形の塔だ。その周りには、7つの観音像も立っている。それらを囲むようにして廊下があり、そこを歩けば本堂へ行けるようだ。何があるだろうか。試しに行ってみよう。
 緩やかなスロープになっている廊下を歩いて行く。小さな木彫りの観音像がたくさん並んでいる。他に誰もいない静かな空間は、とても神聖な感じがする。祀られているものを見ると、どうやらここは、足腰の神様でもあるようだった。僕は腰痛持ちだし、右足首に古傷がある。その古傷は、痛み出すと立てなくなるほど。よく拝んでおかなければ。
 拝みながら歩いていたら、本堂の中心部までたどり着いた。ご本尊が祀られている後ろには、何やららせん階段があった。先にそちらへ行ってみることに。小さな観音像が横に並ぶらせん階段を下りて行くと、静かな空間に。そこに、カラフルな虚空蔵菩薩が鎮座していた。賽銭箱に十円玉を入れ、手を合わせる。またらせん階段を上り、ご本尊の前の賽銭箱に十円玉を入れて手を合わせた。
 また表に向かって廊下を歩く。さっきまでと同じように、木彫りの観音像が廊下に沿って並んでいる。そこを歩いていると、またおみくじ売り場があった。せっかくなので、もう一つ、おみくじを買ってみることに。今度は〝恋みくじ〟と書かれたやつ。おみくじの入った箱に手を突っ込み、ガサゴソとやって適当におみくじを取る。開けて書いてあることを見てみると、〝大吉〟だった。これは嬉しい。アドバイス的なものを見てみる。星座はどれがいいとか、血液型はどれがいい、あるいは理想的な年齢差など。それでも、あのひとのことはよく知らない。なので、今はあまり参考にならないというのが本音だ。
 表に出ると、すぐ目の前には五百羅漢像のあるお堂があった。面白そうだったので、入ってみた。中には木彫りの羅漢像がたくさん並んでいる。まだ新しいお堂なのか、その羅漢像もどれも綺麗だったし、およそ500個あるとは思えない数だった。
 これで満願寺は一通り見終わった。休日ながら誰もいない静かなお寺だった。またいつかの再来を、それも、あのひとが一緒ということを心の中で願いながら、満願寺を後にする。

 山門を出て、寺の隣にある坂道を上って行く。次は〝地球の丸く見える丘展望館〟へ行く。さっきよりも急な坂だ。今年の六月に伊豆へ行った時、道端で足がつってのた打ち回ったという辛い経験がある。やはり坂道を歩いていた時だった。その時のことが頭をよぎった。しかし、たった今、足腰の神様にお参りしたばかりだ。きっと大丈夫なはず。
 ふと、気がついたことがある。さっき、犬吠埼でガイドさんから聞いた話の中に、この近くに愛宕山という山があるという話があった。どうやら今歩いている坂道は、その愛宕山のようだ。思いがけず、それも散歩気分で山登りをしていたことになる。舗装された道を歩いていたから、ここが山だったなんて全く気がつかなかった。
 キャベツ畑のど真ん中を歩く。遠くには太平洋がよく見える。空は晴れ渡っている。いい景色だ。あのひとと見ることができないのが残念で仕方がない。いつか、必ずあのひとと来たい。
 時々、意味もなくあのひとの名前をつぶやいてしまう。しばらく歩いたら道が平坦になったので、そんな余裕も出て来たのだろう。ところが、外川の方から来た道に突き当たると、目の前には急な坂。それも、もうすぐ着くであろう〝地球の丸く見える丘展望館〟へ行くには、それを上って行く必要がある。展望館は、距離で言うと目と鼻の先。それなのに、急な上り坂。
〈仕方がない……!〉
 心の中でそうつぶやいて、急坂を上って行く。
 さっき足腰の神様にお参りしたくせに、また足がつるのではないかと、あの〝伊豆の悪夢〟におびえてビクビクしながら急な坂道を歩く。そのうちに、〝地球の丸く見える丘展望館〟にたどり着いた。銚子市は、フィリピンのレガスピー市と姉妹都市提携を結んでいる。そのことから、展望館の前には〝日比友愛の碑〟も設置されている。碑というよりモニュメントで、かなり大きなもの。平仮名の〝つ〟の字のような形をしているそれは、先端がフィリピンのマヨン山に向かっているそうだ。
 その碑を眺めながら近くのベンチで一服して、展望館へ向かう。入館料はたったの350円。また、〝弧廻手形〟にはここの入館料の割引券もついている。エレベーターで3階まで行く。展望館の3階は、喫茶コーナーもある展望ラウンジ。思いがけず山を登ったので、のどが渇いている。後からビールでも飲むことにして、展望ラウンジを出る。近くの階段を上れば、展望台だ。
 360度のパノラマ。そのほとんどの方角に海が見える。遠くから、踏切の警報機の音が聞こえた。ここから銚子電鉄の列車が走る様子の見える地点もあるので、そこへ行ってみた。ところが、線路が家の中に紛れ込んでおり、一体どこにあるのか分からない。そのうちに、列車も通り過ぎてしまったようだった。どちらの方面へ向かう列車なのかも分からずじまいだった。
 景色を眺めながら写真を撮る。果たして地球が丸く見えるかどうかは分からない。それでも、いい眺めだ。ここに一人でいていいのだろうか。本来なら、一緒にいるべき人がいるのに……
 また階段を下り、展望ラウンジへ。とにかくのどが渇いたので一休み。ビールでも飲みたかったけれど、残念ながらそれは置いていないようで。仕方なしに、ウーロン茶を注文した。イワシを使った軽食もあるようだったけれど、何となく、今は何も食べたくない気分だった。
 一休みを終え、またエレベーターに乗る。1階に着き、エレベーターを降りたちょうど目の前が土産物売り場だった。そう言えば、肝心なあのひとに土産物らしい土産物を買っていなかったことを思い出した。銚子駅にも土産物売り場はある。しかし、ゆっくり選べるのは今の間だけだろうから、ここで買って行くことにした。とは言うものの、何を買っていいか分からない。女性が喜びそうなかわいらしいキーホルダーや携帯電話のストラップなどはたくさんある。ただ、それらはどれも他の海沿いの観光地でも売っていそうな品物ばかり。僕はあまりそういうものをプレゼント的な土産物として買わない主義だ。相当悩んだ挙句、銚子で獲れたイワシを加工した缶詰を買うことに。それでも、缶詰の一つだけをレジに持って行くのも気が引ける。そこで、銚子の海の写真が載っている絵はがきも一枚買っておいた。犬吠埼に夕陽が沈んでいる写真だった。
 会計のついでに、外川まで歩いてどれぐらいか訊いた。20分ぐらいだと教えてくれたし、地図もくれた。2年前に〝彼〟と歩いた道を思い出せばいいので、大体の道順は分かる。でも、くれるものはもらっておこう。