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私の読む「源氏物語」--14-

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 紫は源氏を恐ろしく感じ下に痛みを感じた、やがて紫は体の中に源氏の熱いものが流れ入ってくるのを体を固くして我慢した。紫は自分がどうなったか、恐ろしいものに犯されてしまった、とふるえが来た。
 こんなことで源氏は紫を女にしてしまったが、常々二人は共に寝ていたので周囲の者が二人が男と女の関係になったということは見分けることが出来ないのである、だが源氏は早くお起き、紫は一向に起きてこない。
 女房たちは、「どうされたのか、ご気分がすぐれないのだろうか」と、と心配する、源氏は東の対へ帰ろうとして、硯箱を、帳台の内に差し入れて出て行った。
 紫は源氏のいない間にやっと頭を上げると、結んだ手紙が枕元にある。何気なく開いて見ると、

 あやなくも隔てけるかな
      夜をかさね
   さすがに馴れし夜の衣を
(どうして長い間何でもない間柄でいたのでしょう、幾夜も幾夜も馴れ親しんで来た仲なのに」
 
 と、さらりと書いてある。紫は源氏がこのような心で自分に接していたとは、まったく思っても見なかったので、
 「どうしてこんなに嫌な心を持った源氏を、疑いもせず頼もしい方と思っていたのだろう」
 と、悔しい思いがしたがもうどうにもならないことであった。

 昼ころ、源氏がやってきた、
 「ご気分がお悪いそうですが、どんな具合ですか。今日は、碁も打たなくて、張り合いがないですね」
 と言って、几帳の中を覗くと、紫は怒ってますます表を引き被って臥せってしまう。女房たちは退いて控えているので、源氏は側に寄って、
 「どうして、こうも私を無視される態度をなさるの。意外にも冷たい方でいらっしゃいますね、私を愛しい人と思っているのではないですか。皆がどうしたのかと変に思うでしょう」
 と言って、表を引き剥ぐと、紫は汗でびっしょりになって、額髪もひどく濡れていた。
 「ああ、これはとても大変なことで、汗びっしょりではないですか」
 と言って、源氏はいろいろと紫を慰めすかすが、紫は本当に昨夜の源氏が紫にとった行動が辛くて、一言も口をきかない。
 「私はもうあなたの所へは来ない。こんなに恥ずかしい目にあわせるのだから」
 などと恨み言をいって、差し込んだ硯箱を開けて見るが、差し入れた自分の歌がないので、紫は見たなと感じ
「なんと子供らしい恥ずかしがりだこと」
 と、かわいらしく思い、一日中、几帳の中で、紫にあれこれと言って慰めるが、紫はすねた様子で打ち解けない、源氏はそんな彼女をますますかわいらしい、と感じた。

 源氏が紫の体を自分のものとした夜は戌の日で、翌日十月最初の亥の日のである。十月の最初の亥の日亥の刻に、無病息災と子孫繁栄を祝って食べる餅を亥の子餅というのであるが、それを東の対にいる源氏の前に持ってきた。葵の喪中の時であるので、大げさにはせずにしてあるが、紫のいる西の対には美しい桧破籠という檜の薄い白木で折箱のように造り、内部に仕切りを設けて、かぶせぶたをかぶせたものに、大豆・小豆・ささげ・胡麻・栗・柿・糖の七種類の粉で、様々な色の趣向を凝らした餅を入れて紫の前に置いてあった。それを見て源氏は、南面に出て、惟光を呼んで、明日の夜は新婚三日目の夜に当たり、「三日夜の餅」を食べる風習であるので、
「餅をね、今晩のようにたいそうにしないで、明日の日暮れごろに持って来てほしい。今日は吉日じゃないのだよ」
 微笑しながら告げた。陰陽道では、亥の日と巳の日を「重日」(じゅうにち)といい、事をなせば百事重なるといって忌んだ。利巧な惟光は、源氏が紫を女にしたなと、すべてを察してしまった。
「なるほど、おめでたいお祝いは、吉日を選んでお召し上がりになるべきでしょう。ところで子の子の餅はいくつお作り申しましょう」
 と、子と子をかけて真面目に源氏に言うので、
「三分の一ぐらいでよいだろう」
 惟光はすっかり呑み込んで、立ち去った。「何でもよく分かる男よ」と、源氏は思った。 惟光は、このことを誰にも言わないで、手作りで実家で作っていた。
 紫は源氏に荒々しく体を思うようにされて口を利こうともしない、源氏はそんな紫の機嫌を直すのに困っていた。今度のことで拉致したようにして紫を二条院に連れてきたことで後の扱いの困難さを感じるのであるが、反対に源氏は紫の気持ちを自分に向けることに興味を覚えずにいられなかった。源氏は
「紫を数年来かわいらしいと思っていたのだが、あの子の体を得てしまった今では、そんなのはもうどうでもいいことなのだ。人の心というものは得手勝手なものだなあ。今では一晩離れるのさえ堪らない気がするよ」と思っていた。
 惟光は源氏から頼まれた餅を、こっそりと、たいそう夜が更けてから持ってきた。紫の乳母の少納言に渡すと、受け取る源氏が少納言は紫の母親みたいな人であるので、その人に何も告げずに紫を女にしてしまったことを恥ずかしく思うだろうと、惟光はそこを配慮して、少納言の娘弁の女房という者を呼び出して、
「これをこっそりと、お二人に差し上げなさい」
 と言って、香壷の箱を一つ渡した。
「確かに、二人の枕元に差し上げなければならない祝いの物でございます。しっかりお渡しくださいね」
 と弁に惟光は言う、弁は「おかしな物を」と思うが、弁は「あだにな」といった惟光の言葉を捕まえそれを「浮気」と感じて、
「浮気と言うことは、まだ知りませんのに」
 と言葉を返して受け取ると、惟光は、
「これこれ、今はそのような言葉はお避けなさい。決して使うことはあるまいが」
 と言う。
 弁は若い女房なので、源氏と紫二人におこったことなどの事情も深く悟らないので、几帳の所に持ってきて、枕元の几帳の下から差し入れた。受け取った源氏がこれから、例によって餅の意味を紫によく説明するのであろう、紫が了解するには苦労がいることである。
 紫付きの女房たちは、三日夜の餅がこっそりと源氏の許に差し入れられたことを知らなかったが、翌朝、源氏が香壺の箱を下げさせたので、側近の女房たちだけは、二人で祝い事をしたことを知ったのだった。お皿類なども、いつの間に準備したのだろうか花足付の立派な物である、餅の様子も、とても素晴らしく出来てあった。 少納言は、「とてもまあ、これほどまでも心配りされて」と思い、源氏の紫に対する思いやりに身にしみて感激した。涙が思わずこぼれた。
「それにしてもまあ、内々にでもおっしゃって下さればよいものを。惟光様に気の利かない女房と見られているのでは」
 と、ひそひそ女房たちと囁き合っていた。