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私の読む「源氏物語」- 11-

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「追儺をやろうといって、犬君がこれを壊してしまったので、直しておりますの」
 と言って、とても大事件そうに告げる。
 源氏もその言葉に乗って、
「なるほど、とてもそそっかしい人のやったことらしいですね。直ぐに直させましょう。今日はお正月の目出度い日ですから涙を慎んで、お泣きなさるな」
 と言って、内裏に参上しようとした。その辺り狭しと映える立派な源氏の姿を、女房たちは端に出てお見送り申し上げるので、姫君も立って行ってお見送り申し上げなさって、また遊びの許に戻って、お人形の中の源氏の君を着飾らせて、内裏に参内させる真似などをする。
「せめて今年からはもう少し大人らしくなさいませ。十歳を過ぎた人は、お人形遊びはいけないものでございますのに。このようにお婿様をお持ち申されたからには、奥方様らしくおしとやかにお振る舞いになって、お相手申し上げあそばしませ。お髪をお直しする間さえ、お嫌がりあそばして」
 などと少納言は紫をお諌め申し上げる。お人形遊びにばかり夢中になっていらっしゃるので、これではいけないと思わせ申そうと思って言うと、紫は心の中で、「わたしは、それでは、源氏様は私の夫君。この女房たちの夫君というのは、何と醜い人たちなのであろう。わたしは、こんなにも魅力的で若い源氏様を夫に持ったのだわ」と、今になってやっと分かるのであった。何と言っても、年を一つ取った証拠なのであろう。このように幼稚な様子が、何かにつけてはっきり分かるので、二条院の源氏の屋敷の女房たちも変だと思ったが、とてもこのようにお若い姫が源氏の添い寝相手だろうとは思わなかったのである。

 源氏は宮中から葵の居る左大臣殿に帰ってくると、いつものように葵は端然と威儀を正した態度で、源氏に妻としてのやさしいそぶりも見せないので、なんとなく窮屈なので、
「せめて今年からでも、もう少し夫婦らしく態度を改めて柔らかな気持ちが窺えたら、どんなにか嬉しいことでしょう」
 などと源氏は葵に言うが、葵は心中「源氏が二条院に、わざわざ女の人を置いて、かわいがっていらっしゃる」と、源氏の噂話を聞いてからは、「その女を将来正夫人にとお考えになってのことであろう」と、嫉妬心が自然におこり、気の強い葵の自尊心が傷つけられていることはもとよりである。
 源氏は葵の心をつとめて知らないように振る舞って、冗談を言ったりするので、葵は強情を張り通すこともできず、ときおり返事などちょっとだけ調子を合わせている。そんな葵の仕草に源氏は男として言いようのない魅力を感じるのであった。
 葵は源氏より四歳ほど年上であるので、姉様で、年長の妻であると源氏に対して気後れしているが、女盛りで非の打ちどころがなく見えるのである。「どこにこの人の足りないところがあるのだろうか、非の打ち所がないほど完熟した女である。このように少し私に対して無気になるのは、自分のあまり良くない浮気から、このように恨まれるのだ」と、源氏は自分の女好きな行動を反省する。葵の上は、同じ大臣でも特に大きな権力者である現代の左大臣が父で、帝の妹の内親王を母としての一人娘であるから、思い上がった性質に育っていて、少しでも敬意の足りない取り扱いを受けては、許すことができない。また源氏は帝の最愛の子として育った自負は、葵のそんな性質を無視してよいと考えた。こんなことが源氏と葵夫妻の間に溝を作っているものらしい。左大臣も二条の院の新夫人の件などがあって、頼りにならない婿君の心をうらめしがりもしていたが、逢えば恨みも何も忘れて源氏を愛した。今もあらゆる歓待を尽くすのである。
 翌朝、源氏が二条院に帰るところに顔をお見せになって、源氏の着替えの時、高名の帯を左大臣が手ずからお持ちになってお越しになり、源氏の後ろを引き結び直しなどや、沓までも手に取ろうとするほど世話をなさる、大変な気の配りようである。
「これは、内宴などということもございますそうですから、そのような折にでも」
 と源氏が遠慮をすると、舅の左大臣は、
「その時には、もっと良いものがございます。これはちょっと目新しい感じのするだけのものですから」
 と言って、無理にお締め申し上げなさる。左大臣は、なるほど、色々とお世話して見ると、生き甲斐が感じられ、「たまさかであっても、このような方をお出入りさせてお世話するのに、これ以上の喜びはあるまい」と考えているようである。

 源氏十九歳の年が明けて、参賀の挨拶まわりをする。といっても、多くの所には参らず、内裏、春宮、一院だけ、その他では、藤壷の三条の里宮に伺った。
「今日はまた格別にお見えでいらっしゃるわ」
「ご成長されるに従って、恐いまでにお美しくおなりでいらっしゃる」
 と、女房たちが源氏の晴れ姿を褒めているのを、藤壺は、几帳に少し隙間を開けてからわずかに源氏の正月の晴れ着姿を見てみる、源氏との間にあったことを思い出していた。
 出産予定の、十二月も過ぎてしまったのが、彼女は気がかりで、宮家の人々も今月はいくら何でもと、出産の兆しを待ち申し上げ、帝も、心づもりでいるのに、何事もなく過ぎてしまった。理由が分からない時に人々は、
「御物の怪のせいであろうか」
 と、噂するのを、藤壺は源氏との隠し事があるので、とても身にこたえてつらく、
「このお産のために、命を落とすことになってしまいそうだ」
 と、周囲の女房に嘆き、気分もとても苦しく悩んでいる。
 源氏中将は、藤壺の妊娠が自分との不義のせいということを知っているので、御修法などを、はっきりと事情は知らせずに方々の寺々に布施を払って行わせた。「世の無常につけても、このままはかなく藤壷との仲も終わってしまうのだろうか」と、あれやこれやと心配していると、二月十日過ぎのころに、男子が生まれたという知らせがあったので、源氏の心配もすっかり消え、宮中でも藤壺の実家でも人々はお喜び申し上げた。
 藤壺は無事に出産を終えてほっとすると、「源氏との情事の結果の妊娠から、このお産で死にたいと思っていたのだが人々の喜びから反転して、生れ出た若君のためにも長く生きよう」と思うのである、源氏とのことを尾をひいてのことはつらいことだが、「弘徽殿などが、私の男児出産を呪わしそうにおっしゃっている」と聞いたので、「もしもわたしが死んでいたら物笑いの種となったのではなかろうか、死なずに幸いであった」
 と藤壺は気を強く持ち、その気持ちに添うように、産後の疲れもだんだん快方に向かっていった。
 帝が、早く御子を御覧になりたいと、内裏への帰還を促されるのは当然である。源氏も気持ちとして、ひどく気がかりで、人のいない時に藤壺の屋敷に参上して、女房を通して
「帝が御覧になりたくと言われますので、まず私が拝見して詳しく報告に上りましょう」
 と申し上げるが、その返事は
「まだ産まれたばかりで見苦しいですので」