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私の読む「源氏物語」- 11-

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 その夜、源氏の中将、正三位に昇格する。頭中将は正四位下に昇進。上達部は、関係をした者は相応の昇進があった。当然これも源氏の見事な振る舞いのお陰であると言うことは皆知っていた。この世でこんなに人を喜ばすことができる源氏は前生ですばらしい善業があったのであろうと喜びを得た人たちは思うのであった。

 藤壺は、そのころ里邸に宿下がりをしていたので、源氏はいつものように、藤壺に逢えないかと機会を狙っていた。源氏と藤壺の関係を薄々知っていた葵の上の心は穏やかではない。その上、あの若草と言われている紫の上を源氏が迎えたのを、まだ幼子とは知らず周りの者が
「二条院では、女の人をお迎えになったそうだ」
 と、誰かが葵に告げたので、さらに気を高ぶらせることになった。そのような葵の様子を聞いて源氏は、
「真相を知らないのだから葵が色々と憶測するのは当たり前のことであるが、素直に、普通の女性のように自分の思っていることを言うのならば、自分も腹蔵なく話して、気を静めようと思うが、僻みっぽく取りあげるのが不愉快なので、しなくてもよい浮気をしてしまう。葵はとにかく完全な女で、欠点といっては何もない、いちばん最初に結婚した妻であるから、どんなに尊重しているか、そんな私の気持ちをまだ十分理解しないのであろうが、いつかは分かってくれるだろう」と、源氏は葵を妻として頼りにしていることは格別なのであった。

 源氏が瘧に悩まされて、北山に祈祷を受けに登った時に見初めた若紫は、源氏に無理矢理に二条邸に引き取られた後、ここの住まいにも馴れて、本人の性質のよさ、美しい姿から源氏は紫可愛さにのめり込んでいき、片時も側から離さないで二人仲良く遊んでいた。「暫くはこの子のことを屋敷の者にも説明をしないで内緒にしておこう」と考えて、母屋より離れた自分の東の対の反対、西の対に部屋の設備を立派にして紫を住まわせていた。自分もまた一日中西の対にいては、紫にありとあらゆるお稽古事を教え、お手本を書いて習字などさせ、まるでよそで育った自分の娘を迎えたような気持ちで過ごしていた。
 源氏は紫を内緒にしておくために、二条院の源氏の執務家計を担当する者とは別に、紫の上の執務家計担当の者を別に独立して置いた。なぜにこのようにしたのかは、惟光以外の人には、はっきり分からなかった。紫の父宮であり藤壺の兄の式部卿も娘の行くへを知ないのであった。 紫は今も時々は祖母の亡き尼君を恋しがって泣くのである。源氏のいる間は紛れていたが、源氏は夜などまれに紫と共に西の対で泊まることはあっても、囲ってある多くの女の一人に会いたいと思うと身体がうずいてしまってそちらに通うために日が暮れると出かけることが多かった。そんな時に紫が悲しがって泣いたりするのが源氏はかわいく思っていたが、まだ紫は彼の相手をする歳にはなっていなかったのでどうしても女体が恋しくなって出かけてしまうのであった。二、三日御所に勤め、そのまま左大臣家の葵の許に行っていたりする時は若紫がまったくめいり込んでしまっているので、源氏は母親のない子を持っている気がして、葵としとねを共にしたり、恋人を抱いていたりしても落ち着かぬ心で頭には紫の影がちらついているのであった。亡き尼君の兄で北山に庵を構える僧都はこうした源氏と紫のことを報告を受けて、二人の関係を不思議に思いながらも紫が大切にされているのでうれしかった。尼君の法事が北山の寺であった時も源氏は厚く布施を贈った。 

 藤壷が出産のために里帰りをしている三条の宮に、様子を知りたくて、源氏が訪れると、命婦、中納言の君、中務などといった女房たちが応対に出た。源氏は「なんと他人行儀な扱いである」とおもしろくないが、気を落ち着けて、世間一般の話をしているところ紫の父であり藤壺の兄でもある兵部卿宮が妹の見舞いに参上してきた。
 源氏は兵部卿がいらっしゃると聞き、面会した。とても風情ある人目をひくような様子をして、色っぽくなよなよとしているのを、「もし兵部卿宮を女性として見たらきっと素晴らしいにちがいない」と、こっそりと初対面の感想を源氏が思っていた。二人はあれこれと睦まじく、懇ろに話をしている。兵部卿も、源氏がいつも誰かと会見して会話をするよりも格別に親しみやすく打ち解けているのを見て、「源氏の君はじつに素晴らしい」と、源氏が兵部卿の娘紫の婿であるということなどは思っても見ないで、源氏が兵部の卿に感じたのと同じように「女としてお会いしたいものだ」と、男好みの色っぽい気持ちになっていた。
 日が暮れたので、御簾の内側の几帳の中に藤壺が入ってしまうのを、兵部卿は兄であるから共に几帳に入られた。御簾の内に入れるのだが几帳の中まではとても、と兵部卿を羨ましく思い、源氏はいままでは帝のお許しで、藤壺とはとても近くで直接に話が出来たのに、二人が犯した過ちに藤壺はすっかり源氏を疎んじているのも、彼には辛く思われた。 源氏は昔ならばこのように女房などを通して語りかけなくとも直接話が出来たのにと思いながら、傍らの女房を通じて、
「たびたび伺うはずですが、参っても御用がないと自然だらだらととりとめのないことになります。御用がありましたら、御遠慮なく言って下さいましたら喜んですぐにでも参上いたしますから」
 などと、源氏は堅苦しい挨拶をして帰っていった。命婦も、以前のように手引きする手段もなく、藤壺の様子も以前よりは、いっそう辛くて固く覚悟を決めていて、打ち解けにならない様子も、可哀想でおいたわしくもあった。その後何もなく、月日が過ぎて行く。「何とはかない御縁か」と、源氏、藤壺共に悩むのであった。

 紫付きの女房である少納言は「思いがけない幸福がが紫君の行く手の運命に現われてきたことを、亡くなられた祖母様の尼君が絶えることなく続けられた仏への祈願に愛孫紫君のことを言っておすがりになった、その効験であろう」と思うのであったが、さらに「源氏には権力者の左大臣家に第一の夫人の葵の上が控えているし、その上そこかしこに愛人を持つ源氏であることを思うと、紫の君が男を迎えることが出来る年齢になった頃、面倒が多くなり、姫君紫様に苦労が始まるのではないか」と恐れていた。しかし、今のように源氏様が特別にご寵愛なさっているうちは、とても心強い限りであると思ってもみた。
 母方の祖母尼君の喪は三か月であったから、師走の三十日に紫は喪服を替えた。母代わりをしていた亡き祖母であったから喪が明けたからといって、紫は派手にはせず、濃くはない紅の色、紫、山吹の落ち着いた色などで、そして質のきわめてよい織物の小袿を着た。そして元日を迎えた紫は、急に現代風な美人になった。

 源氏は宮中の朝拝の式に出かける前に、ちょっと紫の西の対へ寄った。
 「今日から姫は一つ歳を取られて、大人らしくなられましたか」
 と言って微笑んで紫を見る。紫はとても素晴らしく魅力的な姿で源氏の前にいた。しかし行動はまだ幼くて早くも、お人形を並べ立てて、忙しくしていた。三尺の御厨子一具と、お道具を色々と並べて、他に小さい御殿をたくさん作って、源氏が与えた玩具を、辺りいっぱいに広げて遊んでいる。紫は遊びながら源氏に、