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私の読む「源氏物語」 ー8-

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 と言いながらも源氏は軽く合奏した。
 
 やがて全員が立ち上がって山を下りていった。
 源氏と接した法師、子童達までが名残惜しんで涙を流していた。家の中では尼君と側の女房達が、源氏のような貴公子に会ったことが無く、更に源氏が弾いた琴の音が印象に残って、
「あのような方がこの世に居られるとは」
 と、話し合っていた。僧都もその話に加わって。
「何のきっかけでこんな汚れた未世にお生まれになり、普通の人として、うるさい束縛や干渉を受けなければならない、そう思ってみるとあの方が可哀想で悲しくてならない」
 と、これも涙が止まらないのである。
 源氏が預かりたいと希望した孫娘も、幼いながらも、
「とても素敵なお方ですね」
 と源氏のことを言う。更に付け加えて、
「父宮より優れていらっさyるかな」
 と、ありのままの印象を口に出した。
「それならば、姫さま、あのお方の子供になりなさっては如何」
 と女房が言うと、姫はうなずいて
「それはいいことだわ」
 と思っていた。
 それから姫の遊びである、雛遊び、お絵かき、いずれもことある毎にこれは「源氏の君」と言っては綺麗な着物を着せたり、美しい色で塗ったりして遊んでいた。


 都に戻った源氏は真っ先に内裏に昇り帝に会い、今までの自分ことを主に、四方山のことを話す。帝は源氏を見て、
「なんと窶れてしまって」
 と、大変心配された。そうして山で源氏のために修法を行ってくれた大徳の聖のことを興味深くお尋ねになった。源氏は自分が受けた聖の修法や、その人となりを詳しく帝に申し上げると、
「阿闍梨の位を与えてもいいような大僧正ではないか、修行の積み重ねは大変なものであったであろうに、どうして朝廷に知れなかったのだろう」
 帝は、世の中には埋もれた大徳がいるものだとつくづく感じなされたようであった。
 源氏の義父の左大臣が昇殿なされてきた。
源氏の顔を見て、
「お迎えに上がろうと思いましたが、貴方がお忍びでの行動と思って、遠慮いたしました。ゆっくりと、二、三日休養なさいませ、帝とのご対面お済みでしたらこのままご一緒に帰りましょう」
 と言われたので、源氏は左大臣邸で妻の葵の上に会うのが億劫であったが、渋々義父について帰っていった。
 左大臣は源氏を自分の車に乗せて前方右側の上席に自分は左側の次席でかしこまっていた。源氏は義父の左大臣が、このようにしてまで自分を本当に大切に扱うのを、有り難いことと思うのであった。
 左大臣邸では、源氏が何時来られても間違いがないようにと毎日屋敷中を綺麗になさっていたが、一向に見えぬ内に磨きがかかって玉のように綺麗に光を放つ屋敷になっていて、さらに立派な諸道具が揃えられていた。妻の葵の上は、久しい間源氏が来邸しなかった腹立ちと、前々から源氏の顔を見るのが嫌になっていたので、これまで何回となく隠れて源氏の前に顔を出すことがなかったのであるが、父親の左大臣が強く促すのでやっと源氏の前に現れた。葵の上は、絵に描かれた姫のように美しく、身動きが出来ないほどに衣装をきちんと着込んで、源氏の横の席に座らされているので体を動かすことも出来ない。それを好いことに、卿は自分の前から逃げないと、源氏は自分の思っていることや、北山での修法を受けたことなどを事細かに話すのであるが、葵も興味を持って答えれば、二人の情愛は深まるというものの、相変わらず葵は素っ気ない態度である。葵は源氏を婿として迎えてから、年下の男として可愛く思っていたのが、だんだんと源氏が女の身体にも慣れてきてその上に女好きの性格があると見抜いてから次第によそよそしく気づまりな相手だと思うようになった、そうして年月を重ねるにつれて、益々二人の気持ちの隔たりが広がりもうどうしようもなくなっていた。それが源氏にはとても辛く、心外なので、葵に
「時々でいいですから世間並みの妻として私に接してください。私が瘧で苦しんでいるときでも、少しはどうであるかと見舞ってくれても良いのではありませんか、夫婦ですので決して珍しい行動ではないと思うのですが、」というと、今まで押し黙っていた葵がやっと口を開き、
「尋ねないというのは本当に辛いことなのでしょうか、もしそうなら、訪ねてくださらないわたしの辛い気持ちもお分かりでしょう」
 と葵は「君をいかで思はむ人に忘らせてとはぬはつらきものとしらせむ」という歌を思いながら源氏に答え、源氏をちらっと、見る目元がとても艶めかしく感じ、源氏の男心を騒がせる。源氏は、
「久しぶりに帰って聞く貴女の言葉がそれですか。尋ねに行かぬなどという間柄は、私たちのような夫婦の間柄とは違うのですよ。そんなことといっしょにして言うものじゃありません。時がたてばたつほどあなたは私を露骨に軽蔑するようになるから、どうすれば貴女の気持ちがほぐれて昔のように私に近づいて来るのかと考えているのです、こうすればあなたの心持ちが直るか、そうしたら効果があるだろうかと私はいろんな試みをしているのですよ。しかし、そうすればするほどあなたはよそよそしくなる。まあいい。長い命さえお互いにあれば、そのうちによく分かってもらえるでしょう」
 と言って源氏は夜の床に入りに行った。葵はそれを見てすぐには源氏について夜の床には行かず、誘われてもそれに応ずるようでなかったので源氏は横になって、それ以上誘う気もなく、疲れて眠たいのであるが、色々と二人の間のことを考えていた。

 源氏と紫の上が結婚したのは、源氏が元服の加冠の式の後であった。当時右大臣と権力争いをしていた左大臣が、帝に請うて源氏を我が娘葵の婿として屋敷に招き、まだ十二歳の源氏に娘の葵が四歳年上にもかかわらず添わせてしまった。これで帝の正式の妻の弘徽殿の女御を送り出していた右大臣と対等の位置に立てたのであった。
 葵はそんな宮家に繋がる源氏を我が夫とすることに興味が無くむしろ反対の気持ちであったが、父の薦めに従わざるを得なく渋々源氏の嫁となった。


 初夜の床で源氏は十二歳元服をしたと言ってもまだ子供である、葵は十六歳、女房によって男女の床のことは教えられてはいるがまだ経験のないこと、恥ずかしさが先に立つ。隣に横臥する源氏が震えているのが伝わってくる、年上だけに葵はそんな源氏がおかしくまた可愛くもあった。やはりこの場は年上の私が先に立たなければと、
「源氏さま、何も怖がることはありません、男と女が夫婦になったときには、誰でもすることです」
 そう言って震える源氏を暫く身体をさすって落ち着くのを待った。それでも震えが泊まらないので葵は意を決して着ている物を脱ぎ源氏の前を広げて肌を合わせて抱きしめた。
葵の心には愛しさと可愛さが充実してきた、源氏も葵の温もりを肌で感じて震えが止まり男の変化が生じてきた、源氏は男として初めての女と肌を合わす甘い気分を味わい、葵も年上の女として女の喜びを得て、二人のうぶな同士がそれでも初夜の勤めを何とかして無事に果たすことが出来た。