小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私の読む「源氏物語」 ー7-

INDEX|7ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 さて話が変わって あの、伊予介の妻の弟小君は、源氏の許に時々は参上するのであるが、源氏から特に何の用も言いつけられない、特に以前のような姉の空蝉への伝言もないので、源氏は自分のことを嫌に成られて見限られたのかと、つらいと思っていたころ、源氏は先のように病気で臥せっておられると聞いて、最近の疎遠を忘れて小君は心配するのであった。姉婿の伊予介は空蝉を伴って任国に下る事を源氏も聞いているのにどうして何の伝言もお言いつけにならないのか、空蝉は何といっても心細い気がするので、源氏はもう自分のことをお忘れになってしまったかと、試しに、小君に文を託して源氏の許に届けさした。
「小君からご病気のことを承りまして、案じておりますが、口に出しては、とても、お見舞いできません。そのことをなぜかとお尋ね下さらずに連絡がない月日すぎましたが、わたしもどんなにか思い悩んでいます

 問はぬをもなどかと問はで
         ほどふるに
   いかばかりかは思ひ乱るる
(私が貴方様に消息を伝えないのを、どうして連絡を呉れないのかと、私にお聞きになることもなく時間が経ってしまいました。そのことを考えると、私の心の中はもの凄く乱れています)

『ねぬなはの苦しかるらむ人よりもわれも益田の生けるかひなき』と拾遺集にある歌を思い出しては本当のことでとおもうのです。」
 と書き送った。源氏は久しぶりの空蝉の手紙がうれしいので、この人を思う熱情も決して醒めていたのではないのであるから早速、
「生きがいがないとはだれが言いたい言葉でしょう。

 空蝉の世は憂きものと知りにしを
 また言の葉にかかる命よ
(あなたとのはかない仲はどうしようもない嫌なものと知ってしまったのに、またもあなたの言の葉に裏切られるのを承知で期待を掛けて生きていこうと思います)

 頼りないことよ」
 と、源氏は病み上がりで手も震え乱れ書きになっているが、それがますます美しく見えるのである。今だに、あの空蝉が源氏から逃げる時に脱いだ衣を忘れないのを、空蝉は源氏を気の毒にもおもしろくも思うのであった。
 このように空蝉と源氏はお互い興味が亡くなったわけでもなく、文のやりとりはするが、これより深い交渉に進もうという意思は空蝉になかった。理解のある優しい女であったという思い出だけは源氏の心に留めておきたいと願っているのである。
 紀伊の守の家に方違えという口実で、源氏は小君に手引きされて恋しい空蝉によばいするのであるが、寸前に空蝉に見破られて、代わりに空蝉と共に寝ていた紀伊の守の妹であの軒端荻を空蝉と間違えて源氏は身体を奪ったのであるが、彼女はその後、蔵人少将を夫として通わせていると、小君から彼は聞いていた。
「そんなことになっているのか。自分と関係を持った女を妻として通っているのは、どう思っているだろう」
 と、源氏は少将の気持ちに同情し、また、軒端荻のその後の様子にも興味があるので、小君を使いにして、軒端荻に
「死ぬほど貴女のことを思っている私の気持ちを、お察しできますか」
 と文を書き、それに

 ほのかにも軒端の荻を結ばずは
 露のかことを何にかけまし
(一夜の逢瀬なりとも軒端の荻を結ぶ契りをしなかったら、わずかばかりの恨み言も何を理由に言えましょうか)

 丈高い荻に文を結び付けて、小君に「こっそりと渡すのだよ」と言って渡したが、「間違って、夫の少将が見つけて、わたしの文だと分かってしまっても、それでも、許してくれよう」と思う。この源氏の高慢な気持ちは、困ったものである。

 受け取った軒端荻は、小君が少将のいない隙に自分に手渡したことを、嫌なことをすると思うが、しかしあの夜の一夜だけの契りを源氏がこのように思い出してくださったことが、内心は嬉しくて、お返事を、まずい返歌だが、「早い」ということを言い訳にして小君に与え、源氏の許に届ける。

 ほのめかす風につけても下荻の
半ばは霜にむすぼほれつつ
(あの夜の二人の契りをそれとなく言われるお手紙を拝見いたしますと下荻のような身分の賤しいわたしは、とても嬉しいのですが、反面もうあれきりだと思い、嬉しい気持ちは萎れています)

 筆跡は下手なのを、分からないようにしゃれて書いているのは品がない。源氏はあの夜薄暗い灯火の許で見た彼女の顔を、自然と思い出す。「隙を見せず気を張って対座していた空蝉は、今でも捨てることのできない魅力のある女であったなあ。一方の私と寝た荻は、何の嗜みもありそうでなく、はしゃいで得意そうにしていたことよ」と思い出すと、軒端荻を憎めなくなり今一度と相変わらず、「性懲りも無く、また浮き名が立ってしまいそうな」浮気男のままである。
 
 あの急に亡くなった夕顔の四十九日忌の日に源氏は、人目を忍んでこっそりと比叡山の法華堂において、略さず正式な仏事をするため、勤めをする僧侶の装束をはじめとして、お布施に必要な物なども、心をこめて準備し、読経をさせなさった。経巻や、仏像の装飾まで簡略にせず、惟光の兄の阿闍梨が、高徳の僧なので、見事に仏事を催したのであった。
 源氏の学問の師で、親しくしている文章博士を呼んで、願文を作らせる。源氏は下書きに、亡き人の名を誰それと言わないで、愛しいと思っていた女性が亡くなってしまったのを、阿弥陀様にお譲り申す旨を、しみじみと文面に書き表したので、文章博士は
「ご立派な文章です、まったくこのまま、何も書き加えることはございません」
 と申し上げる。
 源氏が文章を書く時は堪えていたが、涙がこぼれてきてひどく悲しみだしたので、見ていた文章博士は、
「お亡くなりになった女の方は、どのようなお身分の方なのでしょう。源氏様との噂にもならずに、これほどにあの方をお嘆かせになるほどだった、前世から定まっている運命の方だったのでしょう」
 と言うのであった。源氏は内々に作らせていた亡き夕顔に贈る装束の袴を取り寄せて、

 泣く泣くも今日は我が結ふ下紐を
 いづれの世にかとけて見るべき
(泣きながら今日はわたしが結ぶ袴の下紐を、
いつの世にかまたお前に再会して心打ち解けていま締めるこの下紐を解いて逢うことができたらいいのだが)
 四十九日までは霊魂がこの世に彷徨っているというが、この後、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、この六道いずれに定まって彼女の霊魂は行くことのだろうか」
 と心配しながら、念誦を心こめて唱えてる。頭中将と逢うような時に、夕顔のことがありなんとなく胸がどきどきして、あの夕顔の子供の撫子が成長している有様を、聞かせてやりたいが、頭の中将に非難されるのを恐れて、口に出さなかった。