私の読む「源氏物語」 ー7-
あの五条の夕顔が仮住まいをしていた家では急に女主人の行くえが知れなくなり残された女房ばかりでは捜す方法もなかった。女房達はどこに行ってしまったのかと心配するが、そのまま日にちが過ぎても尋ね当てることができない。最も側近くに仕えていた右近までもが音信がないので、不思議なことがと嘆き合っていた。だが、はっきりとは言えないが、様子から想像すると、何やらこそこそと囁きあっていたので、惟光が何かを知っていると、女房達は結論付けたが、惟光はまるで問題にもせず、関係ないと言い張って、相変わらず同じようにこの夕顔の家に通って来たので、女達は益々腑に落ちなくなっていた。
「もしや、受領の子息で好色な者が、頭の君に恐れて、夕顔をそのまま、連れて任地に下ってしまったのだろうか」
と、想像するのだった。
夕顔が頭中将を避けて逃げていたこの家の主人は、彼女の乳母の一人、西の京の乳母の娘なのであった。乳母には三人子がいたが、右近は他人だったので、
「分け隔てして、ご様子を知らせないのだわ」 と、娘の三人は夕顔を泣き慕うのであった。右近は右近で、夕顔の急逝のことが三人に知れたら口やかましく非難するだろと思い、源氏も今になって夕顔を連れ出してこのような目に遭わせたことを洩らすまいと、隠しているので、夕顔の遺児である若君の噂さえ聞けず、養子にと言う源氏の気持ちは右近にとっては有り難いことなのだが、夕顔の家と右近との間にまるきり連絡の付けようがなく、消息不明のまま日にちが過ぎて行くのであった。。 (夕顔終わり)
作品名:私の読む「源氏物語」 ー7- 作家名:陽高慈雨