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私の読む「源氏物語」 ー6-

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白露の光を加えて美しい夕顔の花は)

 散らし書きの字が上品に見えた。誰とも分からないように書き紛らしているのも、この女主人が上品な教養ある女に見える。こんなむさ苦しいあたりにいる女がと、少し意外だった源氏は、風流遊戯をしかけた女性に好感を覚えた。惟光に、
「お前の家の西隣にある家にはどんな者が住んでいるのか。知っているのか」
 と尋ねると、惟光はいつもの源氏の厄介な女好みの癖が出たと思うが、そんなことはおくびにも出さず、
「この五、六日この家におりますが、病人のことを心配して看護しております時なので、隣のことは聞けません」
 惟光は源氏が興味を更に深めないように、無愛想に申し上げるので、
「こんな事を聞いてお前は気に入らないと思っているな。けれど、この扇について、尋ねなければならない理由があるんだよ。誰かこの界隈の事情をよく知っている者を呼んで尋ねてみよ」
 と源氏が言うので、惟光はしかたなくその家に入って行って、家の管理人の男を呼んで尋ねる。
「裕福な者がお金を収めてその名をもらった地方官の次官、揚名介である人の家だそうでございました。本人は任地に下向して、妻は若く派手好きで、その姉妹などが宮仕えの女房で時々この家に出入りしている、と申します。詳しいことは、管理の下男にはよく分からないのでございましょう」
 と答えた。聞いて源氏は
 「それでは、その宮仕人のようだな。得意顔で私を源氏と知って、なれなれしく詠みかけてきたものよ」
 源氏は「きっとつまらない身分ではなかろうか」と思うが、自分を名指して詠みかけてきた気持ちが、気にかかり見過ごすわけにはいかないのが、例によって、こういった女の道には、ふらふらっとする性分なので、懐の畳紙を出して歌を書く

 寄りてこそそれかとも見め
         たそかれに
  ほのぼの見つる花の夕顔
(もっと近寄って誰であるかはっきり見たらどうでしょう、黄昏時にぼんやりと見えた花の夕顔を」

 源氏は即席の歌を先程の供の者に持って行かせた。

 源氏の歌を貰った家の女達は、源氏をまだ見たことが無かったが、噂に聞いていた姿から横顔を見過ごさないでやはり源氏であると思うのである。色々と相談しあっていて、さっそく源氏が返事に詠みかけたのに、その返歌もくれない。持参した源氏の供は、何となく待つのが体裁悪く思っていたところに、このように源氏が女遊びをしようとわざわざ来たと、女達が言っているようで、それをいいことに、「何と返事しようか」などと言い合って決めかねているような様子で、これを見ていた供の者は生意気やつらだ、と源氏の許に帰参した。

 前を照らす松明を弱くして、ひっそりと源氏の車は帰り道についた。先ほどの家上げていた半蔀は既に下ろされていた。隙間隙間から見える灯火の明りは、蛍よりもさらに微かでしみじみとした夕闇の光景である。

 今日の源氏のお目当ての女性は、木立や前栽などが、このあたりの家とは違い、とてもゆったりと奥ゆかしく住んでいらっしゃる。この女とはまだ源氏身体の関係はあるものの、打ち解けるにはまだ努力がいるようで、女の心をこちらのものにするのに源氏は必死で、もう彼はさきほどの夕顔の花の女を思い出す余裕はなかった。
 女と関係を結ぶまでの手管に源氏は気力を費やし、深夜にやっと目的を果たしてそれから眠りについたので、さすがに若いといっても気力が疲れて翌朝、少し寝過ごし、日が高くなってから帰途についた。
 今日も昨日通った夕顔の咲く半蔀の家の前を通り過ぎる。昨日の歌の応答があったので、ちょっと気持ちを惹かれて、「どんな女が住んでいる家なのだろうか」と思っては、目が止まるのであった。
 それからは六条の女の所に行くたびに、この家が気に懸かるのである。

 惟光が、数日して源氏の処に参上してきた。
「母の容態が、依然としてあまり良くありませんので、いろいろと看病いたしておりまして参上することが出来ませんでした。申し訳ありません」
 などと、挨拶してから、源氏の近くによってこっそりと人に聞かれないように申し上げる。
「先日のお尋ねのことで御座いますが、その後に、隣のことを知っております者を、呼んで聞きましたが、はっきりとは知らないようでしたが、『こっそりと分からないように、五月のころから同居している人があるようです。誰だとは、家の者にも知らせないようです』と申しておりました。
 私が時々、中垣から覗き見いたしますと、なるほど、簾を通して若い女たちの影が見えます。主人がいなければつけない上裳を言いわけほどにでも女たちがつけておりますから、主人である女が一人いるに違いございません。 昨日、夕日がいっぱいに射し込んでいました時に、手紙を書こうとして座っていました女人の顔が、とてもようございました。憂えに沈んでいるような感じがして、側にいる女房たちも涙を隠して泣いている様子などが、はっきりと見えました」
 と惟光が申し上げる。源氏はこの知らせに満足したが、「もっとその女を知りたいものだ」とおもった。

 源氏は自分の置かれている身分から行動を自重しなければならないのであるが、若い年齢である、女性たちがいい男だ、とろけそうな姿だ、と慕い褒めることなどを考えると、女に興味を感じないのも、面白みのない男であると、きっと女達が物足りない気がするだろう、並みの世間の人でも結構しかるべき身分の人に、興味をそそられるものだから、源氏も結構女に手を出そうとするだろうと、惟光は思って、
「そこで、もしや、何か分からないかと、ちょっとした機会を作って、私が恋文などを出してみました。以外に女から返事が来ました、それも書きなれたきれいな筆跡で、それ相応の若い女房たちがいるようでございます」
 と源氏が更に興味を持つように惟光は申し上げると、
「それではもう一押し推してみよ、はっきりさせないと、きっと物足りなく残念な気がしよう」
 と源氏は答えた。
 あの、下のさらに下の者達だと、人が見下すような者が住まいするところにも、その中から、意外に結構な女が見つかるならば、源氏は惟光の話を聞いてからは心惹かれ気になって仕方がなかった。


 源氏はあの空蝉の自分に対する冷淡さは普通ではなく異常に感じていた。彼女が女として男の自分を素直に受け入れてくれたら、源氏は自分の行為を彼女には気の毒な過ちをしたと思ってそこで止めてしまったと、彼女が自分をにべもなく断ってしまったのがまことに悔しく、自分はこのまま彼女に振られて終わってしまいそうなのが、気になるのであった。この空蝉のような受領階級の後妻というような女性までは、浮気の相手にとは思わなかったのだが、先日の内裏に集まった好き者の話「雨夜の品定め」の後は、源氏は好みの浮気相手の枠を広げて興味を持ち色々な女性の階級があることを知り、その範囲を残る隈なく探ってみようと関心を持ったのである。