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私の読む「源氏物語」ー3-

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 ただ時々言葉を交わすだけの宮仕えの人などで、遊び心で宮中の女房たちとおもしろおかしく情交を交わしている時は、それだけでいいのですが、時々にもせよ妻として通って行く女がこんな男と出来ていてはおもしろくありませんから、その晩のことを口実にして別れました。どこまでも艶めいて風流なのは、身体のつき合いは興味もありましょう。だが伴侶として妻と致しますには、色気が多くて風流すぎるとかえって頼りなくて嫌気がさし、あの夜の以来口実をつくって、通うのをやめてしまいました。
 この私の体験した二つの女との例を考え合わせますと、若い時、身体が女をしきりに求めている時でさえも、やはり派手な女の例は、とても不安で頼りなく思われました。今から以後は、いっそうその考えは強くなっていくことでしょう。皆様の気持ちの中には、ままにしなだれかかる女の身体が、いたいたしい萩の露のように軟らかくて融けてしまいそうな感じや、落ちそうな笹の上の霰などのように、しなだれかかって男の体の中でもがく女、男をとかしてしまうなまめいた恋人を持つのがいいように今あなたがたはお思っておいでになるでしょうが、私の年齢まで、まああと七年もすればよくおわかりになりますよ、私、申し上げておきますが、風流好みな多情な女には気をおつけなさい。三角関係を発見した時に良人の嫉妬で問題を起こしたりするものです」
 と、長い話で左馬頭は忠告する。頭中将は例によってうなずく。源氏は少し微笑んで、そういうものだろうと納得した。
 頭の中将が
「どちらの話にしても、体裁の悪くみっともない体験談だね」
 と言って、皆でどっと笑い興じた。

 頭の中将は、
「わたしも、馬鹿な体験談をお話しましょう」
 と言って、
「ごくこっそりと通い始めた女で、お互いの会話や夜の床での具合も、関係を長く続けてもよさそうな相性だったので、長続きする仲とは思ってはいませんでしたが、お互い何回か床を共にするうちに馴れ親しんで、愛しいと思うようになりました。時たまにしか逢えないながらも忘れられない女となっておりましたが、それほどの仲になると、わたしを夫として頼りにしている様子にも見えました。夫として頼りにするとなると、毎日逢えないことを恨めしく思っているだろうと、私も思うこともあったが、女は気に掛けぬふうをして、久しく通って行かないのを、たまにしか来ない男と思わないで、ただ朝夕いつも心に掛けているという仕草が、いじらしく思えたので、ずっと私を夫として頼りにしているようにと言ったこともあったのでした。
 この女は親もなく、とても心細い様子で、この人だけをと、何かにつけて私を頼りにしている様子も大変いじらしかったのです。このようにこの女はおっとりして私を頼り切っていることに安心して、あるとき長い間通って行かないでいたころ、わたしの妻の辺がどこから知ったのか、彼女に情けないひどいことを、ある人を使ってそれとなく言わせたことを、後になって聞きました。
 そんな酷い仕打ちがあったのも知らず、心中では忘れていないとはいうものの、便りなども出さずに長い間おりましたところ、すっかり悲観して不安だったのしょう、私との間に小さな子もあったもんですから、煩悶した結果、撫子の花を使いに持たせてよこしました」
 と言って中将は涙ぐんでいる。
「それで、その手紙には」
 と源氏が尋ねると、
「いや、格別なことはありませんでしたよ。

 山がつの垣ほ荒るとも折々に
  あはれはかけよ撫子の露
(山家の垣根は荒れていても時々はかわいがってやってください撫子の花を)

 私は思のままに訪ねて行きましたところ、女はいつものように無心なようでいながら、酷く悲しい顔で、荒れた庭の露がしっとり濡れているのを眺めて、虫の鳴く音と競うかのように泣きだした様子は、陋屋に悲しみに暮れている姫君といった趣向の昔物語のように感じられました。私はすぐに返歌を詠いました、
 咲きまじる色はいづれと
         分かねども
  なほ常夏にしくものぞなき
(庭にいろいろ咲いている花はいずれも皆美しいが、やはり常夏の花が一番美しく思われます)
 そうして、子供のことはさておいて、まず『せめて床に塵が溜まるようにはしませんと、これからは度々訪れますよ』
 などと、親らしいことを言いました。。
 女は更に歌を返してきた、
うち払ふ袖も露けき常夏に
 あらし吹きそふ秋も来にけり
(床に積もる塵を払う袖を涙に濡れている常夏に、さらに激しい風の吹きつける秋までが来ました』
 こんな歌をはかなそうに言って、正面から私を恨むふうもありません。涙をもらし落としても、とても恥ずかしそうに遠慮がちに取り繕い隠して、私の薄情を恨めしく思っているということを知られるのが、とてもたまらないと思っているようなので、こちらは気楽に構えて、再び通わずにいました。そのうちに訪ねてみると、跡形なく姿を晦ましていなくなっていました。
 彼女親子はまだ生きていれば、みじめな生活をしていることでしょう。愛しいと思っていましたころに、うるさいくらいに訪れていれていたならば、こういうふうには行方不明にはさせないし、こんなに途絶えることはなく、通い妻の一人として末永く関係を保つことができたでしょうに。あの撫子のような子供がかわいらしかったので、何とか捜し出したいものだと考えていますが、今でも行方を知ることができません。
 これが左馬頭が言う頼りない女の例でしょう。女が平気をよそおって心では辛いと思っているのも知らないで、私が愛し続けていた、これは無益な片思いでした。今はだんだん忘れかけて行くころになって、あの女は女でまだわたしを忘れられず、時折、自分のせいで夫が現れなくなったと胸を焦がす夕べもあることでしょう。この女は、永続きしそうにない頼りない例でした。
 それだから、あの嫉妬深い女も、思い出の女としては忘れ難いけれども、実際に結婚生活を続けて行くのには問題がある、悪くすると、嫌になることもありましょうよ。琴が素晴らしい才能だったという女も、浮気な欠点は重大でしょう。そしてやがては、この頼りない女も、疑いが出て来ましょうから、どちらが良いとも結局は決定しがたいものだ。男女の仲は、ただこのようなものだ。それぞれの女に優劣をつけ、非難される点を持たない女なんてどこにいましょうか。吉祥天女に思いをかけようとすれば、抹香臭くなり、人間離れしているのも、また、おもしろくないでしょう」
 と頭の中将が言うので、聴いていた者みんな大笑した。

 頭の中将は、
 「式部、お前にも変わった話沢山あるはずだ、少しずつ小出しでも好いから話をしてみろよ」と催促する。
式部はとまどって、
「下っ端の私のような者に、貴方様方にお聞かせするような話はありませんよ」
 と式部は言うけれど、頭中将が、真面目な顔で、
「早く早く話してみなよ」
 と催促するので、式部は何を話そうかと思案しやがて、