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私の読む「源氏物語」ー3-

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「まだ詩賦の試験に及第した文章生の時でした、賢い女性を妻といたしておりました。先程、左馬頭がおしゃいましたように、出仕しての出来事を相談しても結構好い返事が返ってきたり、私生活も心がけてくれて、その上に漢学の才能はそこらの博士が恥ずかしく思うほどで、私なんかとても口出しが出来ない女でした。 
 この女と親しくなったのは、私がある博士の家で学問を学ぼうと思って、通っておりましたころ、師匠の博士には娘が多くいると聞きまして、ちょっとコネを付けようとこの女に最初は御簾ごしに言葉をかけてましたが、次第に親しくなり、たまたま御簾の中に入っていたところを父親の博士が女房からこのことを聞きつけたのでしょう、盃を持って出てくるや、私の将来性を見込んでか、またはこの博士の家より少しは私の家柄や身分が高かったのか。
『我が家は貧しいが、貧家には姑に孝行を尽くす良い嫁がいる、『白氏文集』秦中吟「議婚」の「聴我歌両途」(両つの途を歌うのを聴け)をいま吟うからしっかりと聴いておけ』
 と謡いかけてきました。
 私はこの娘と結婚しようとは思ってもみず、博士の父親の気持ちに気兼ねしながらも、その後娘の元に通っておりました。そうは言うも娘とは身体の関係は出来ていまして、とても情が深く、床の中で身体を合わせながらも、つい話は彼女の持つ深い知識に及びますので、私も色々と得るところがありまして、朝廷に仕えるのに役立つ学問的なことを知りました。また、とても見事に女ながらも手紙文に仮名文字を混ぜず、本格的な漢文で表現しますので、私はついつい別れることができずに、その女から、下手な漢詩文を作ることなどを習いました。今でもその恩は忘れませんが、良妻として頼りにするには、無学のわたしは、どことなく無学者と見られましょうから、それが恥ずかしく思いました。お二方のようによくお出来になる方には、このようなしっかりした妻は、必要とされないでしょう。私のような無学の常識に欠けている男でも、こんなつまらない女でも、ただ自分が気に入いった者で有れば宿縁というのでしょう共に暮らすようになります、男という者は、他愛のないもののようです」
 と式部は話し終わろうとするので、続きを言わせようとして、そうかそうかと相槌を言いながらも、
「それにしてもその博士の娘はまあ、何と興味ある女だろう」
 と、おだてなさるので、式部はそうとは知りながらも、調子に乗って鼻をひくひくさせて語り続ける。
「そんなことから、ずいぶん博士の女の所に泊まりに行きませんでしたが、何かのついでに立ち寄ってみると、いつもの二人で逢う部屋には入れて貰えませんで、御簾や几帳を隔てて逢のでございます。私に嫉妬しているのかと、ばかばかしくもあり、また、別れるのにちょうど良い機会だと考えましたが、この賢い女という者は、軽々しく嫉妬をするはずもなく、男女の仲を心得ていて恨み言を言いません。
 女は早口で言うことには、
『このところ、風邪をひきましてなかなか治らずに益々重くなって参りました。そこで熱を下げる薬草を服しております、これが大変に臭そう御座いますので、面会は御遠慮申し上げかように奥にたたずんでおります。ご無礼お許し下さいませ。直接にお話出来なくとも、しかるべき雑用などは承りましょう』
 と、いかにも殊勝にもっともらしく言います。返事には何とも言葉が出てきません。ただ、
『承知しました、お大事に』
 とだけ言って、立ち去ろうとしますと、物足りなく思ったのでしょうか、女は、
 『この臭いが消えた時にお立ち寄り下さい』
 と声高に言います、聞き捨てるのも気の毒ですが、女の服用している薬草の臭いまでが、ぷんぷんと漂って来るのも堪りませんので、言うとおり、退散することにして、
 ささがにのふるまひしるき
          夕暮れに
 ひるま過ぐせといふがあやなさ
(蜘蛛の動きでわたしの来ることがわかっているはずの夕暮に、蒜のような薬草の臭っている昼間が過ぎるまで待てと言うのは訳がわかりません
 どのような口実ですか。
 と、言い終わるやすぐに退出しましたところ、女の使いが追いかけてきて、
『逢ふことの夜をし隔てぬ
         仲ならば
  ひる間も何かまばゆからまし
(一夜も置かずに逢っている夫婦仲ならば、
蒜の臭っている昼間逢ったからどうして恥ずかしいことがありましょうか)』
 さすがに賢い女返歌は素早うございました」
 と式部丞、落ち着いて話すので、聴いていた公達は余りにもまともな話で興醒め、
「嘘だ」
 と一斉に言って笑ってしまった。
「何処にそんな女が居るのだよ。こんなことなら鬼と向かい合っていたほうがましだ。気持ち悪い話をしよって」
 と鬼という言葉が出たのでそれを祓うように爪弾きして、
「何とも言うことがない」
 と、藤式部丞をばかにした、
「もう少しましな話を言えよ」
 式部は
「これ以上珍しい話がありますか」
 と言って、澄ましている。
 左馬頭が言葉を継いで、 
「すべて男も女も未熟者は、知ったかぶりをする、困ったものです。