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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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英雄の証

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 この岩はただの岩ではなく、魔導士たちが一定量の魔導を注がなければ動かない魔導石の一種だった。この岩をラーザァーたちに退かさせることによって技量試しというわけだ。
 二本の角を持つ黒馬――バイコーンから降りたシルハンドが一目散に岩に向かって走りした。それに続いて他のラーザァーたちも我先にと巨石に向かう。
 一足遅れてゆっくりと騎獣イーラから降りたアレクの横でザヴォラムはため息をついた。
「こんなところで競って何になるというのだか……」
 その意見にアレクは同感であったが声には出さない。
 シルハンドが手が激しい光を放つ。
「動かすなど悠長なことを言わず、破壊してしまった方が手っ取り早い!」
 岩を破壊しようとしたシルハンドの前にキルスが立ちはだかった。
「これはラーザァー全員に与えられた試練だ」
 キルスによって魔導でつくり出した半透明の壁――魔導壁が雷光を手にしたシルハンドの前に立ちはだかる。
 硝子が砕けたように弾け飛ぶように魔導壁が壊され、煌く破片の向こう側でシルハンドに手を向けるキルスが口元が歪む。
 槍と化している雷光の先端はあと少しでキルスの手を貫くところであった。その距離は1ティート(約1.2センチ)もなかった。
 冷や汗を流すシルハンド。次の瞬間、彼の身体はキルスの手から放たれた波動によって後方に大きく飛ばされていた。
 砂煙を上げながら地面に倒れたシルハンドの身体を光の鎖が拘束する。その鎖を放ったのはキルスだ。
「君の実力はわかった、そこで大人しくしていたまえ。さて、この岩は彼を除いて動かすとしよう」
 唖然とするラーザァーたちにキルスは何事もなかったように視線を向けた。
 動揺しつつもアレクが一番初めに岩に魔導力を注ぎはじめた。それに続いて他の者も魔導力を注ぎはじめる。
 巨石が微かに揺れるが、それ以上は動かない。まだまだ、魔導が足りないということだ。
 額に汗を滲ませるラーザァーたちを見てキルスは冷ややかな表情をしている。
「その程度の実力ではラーザァーを名乗ることはできんな」
 相手を小ばかにした言い方を聞いたラーザァーたちの魔導力が一気に上昇した。
 巨石がゆっくりだが横に移動しはじめた。だが、巨石の動きが急に止まった。ラーザァーたちの動きも止まっている。
 ――強大な力を持つ者が近くにいる。
 アレクは辺りを見回した。近くに何かがいるのは確かだ。だが、どこに?
 気高き咆哮が轟々と木霊した。空気が振動し、ラーザァーたちはそれを見た。
 ただの獣の鳴き声ではない。それは、ドラゴンの一種、地竜の鳴き声であった。
 蜥蜴を大きくしたような身体には、鋼の鱗が並び、眼は黄金色に妖しく輝いている。頭から突き出た角だけでも巨大だというのに、その全長は約一〇メティート(約一二メートル)もあった。
 アレクは文献などでドラゴンの絵を見たことはあったが、本物を目の当たりにしたのはこれがはじてだった。
「まさか、この山にドラゴンが……いや、ザルハルト山にドラゴンがいるなど聞いたことがないぞ!」
 そう、この山にはドラゴンは棲んでいないと云われていた。では、何故?
 ラーザァーたちは身構えはするが、それ以上動けずにいた。そんな中、キルスは冷ややかな口調でラーザァーに言った。
「ムーミスト様の守護も届かぬか……」
 この言葉に含まれた意味をアレクはすぐに感じ取った。
「もしやキース様は、あのドラゴンが……!?」
 〈血の雫〉を手に入れさせまいとする何者かの差し金であるとキルスは悟っていたのだ。
 この地竜を取り巻く魔導。地竜は強大な力を持つ魔導士によって操られている。
 地竜が地響きを立てながら迫って来る。ラーザァーは各々に魔導を発動し、地竜に攻撃を開始した。
 風、炎、雷光が地竜に襲い掛かる。
 ドラゴンが咆哮をあげた途端、ラーザァーの放った魔導は掻き消されてしまった。このドラゴンの咆哮は強力な魔導なのだ。
 地竜はラーザァーの前まで来て大きく口を開けた。
 誰かが大きくな声で叫んだ。
「避けろ!」
 次の瞬間、地竜の口から毒霧が吐き出され、ラーザァーは成す術もなく立ち尽くしてしまった。だが、ラーザァーたちは巨大なドーム状の魔導壁によって守られていた。
 魔導壁でラーザァーを守ったのはキルスだった。
「手助けをすることは何があろうと禁じられている。今のは自分を守ったにすぎない。あのドラゴンは君たちで倒したまえ」
 この事態に及んで手助けをしないとは、どうのような考えがあるのか。
 メミスの民である者にはムーミストの言葉は絶対なのだ。キルスが手出すけをできないのは、ムーミストの定めた仕来りだからだ。
 ザヴォラムが白銀に輝く槍を魔導によってつくり出した。
「ムーミスト様のご加護のもとに!」
 ザヴォラムはキルスの張った魔導壁の中にはいなかった。ドラゴンを討つべく果敢にも独りで立ち向かっていた。
 魔導によって瞬間的に天高く舞ったザヴォラムに向かってアレクが叫んだ。
「ザヴォラム止せ!」
 法衣を風に靡かせ、ザヴォラムは白銀の槍を地竜に向けて投げつけた。
 白銀の槍が地竜の硬い鱗に突き刺さった。だが、びくともしていない。
 地竜が大きく身体を震わせ、地面に着地したザヴォラムの身体を巨大な尾が直撃を喰らわす。
 大きく飛ばされ気を失い動かなくなったザヴォラムにアレクがすくさま駆け寄る。
「大丈夫かザヴォラム!?」
 返事はないが息はある。
 アレクはザヴォラムを安全な物陰まで運び、現状を見定めた。
 ラーザァーは地竜との本格的な戦いをはじめている。そして、キルスはどこに?
「この者は私が見ていよう」
 アレクは驚いた表情をしてキルスを見つけた。キルスはアレクに気配を悟られぬまま、すぐ横に立っていたのだ。
「キース様!?」
「現状は思わしくない。例え選ばれし魔導士とはいえ、〈血の雫〉を服用していない魔導士では、あの?魔導具?の相手は荷が重い」
「今、何と?」
「あれは巨大な?魔導具?だ」
 キルスは地竜を見つめて言っていた。あの地竜と思われた怪物の正体は?魔導具?であるとキルスは言っているのだ。
「キース様、あれが魔導具であるとすると、誰が私たちの妨害を……?」
「その話については後でゆっくりと話そう。今はドラゴンを倒して来たまえ」
「しかし、どうやって倒せば?」
「そのようなこともわからぬのか? 世界に誇るメミスの魔導士の質も落ちたものだ。あの魔導具である地竜には核が存在しているのが視えないのか?」
 アレクはキルスにザヴォラムを任せ、地竜に向かって走り出した。
 地竜の魔導具には原動力がある。それをアレクは視た。
 黄金に妖しく輝く双眸が核だとアレクは見定めた。
「ドラゴンの眼を攻撃しろ!」
 自らそう言って、いち早くアレクは雷光のような剣で地竜の瞳を突き刺そうとした。だが、そう上手くはいかない。
 地竜の前足が横に振られアレクに直撃しようとした瞬間、アレクの身体は仲間の一人によって押し飛ばされて、アレクを押し飛ばした者が身代わりとなって宙を舞った。
 吹き飛ばせれ宙を舞った魔導士に地竜が素早く噛み付き、肉を引きちぎって喰らった。
 悲痛な叫び声と共に血が地面に降り注ぐ。
作品名:英雄の証 作家名:秋月あきら(秋月瑛)