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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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英雄の証

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「私は男だ。戯言をこれ以上抜かすようならば承知しないぞ」
「いやいや、おまえは美男子として女たちに噂されているようだが、やはり真実を知っている俺からすれば女の顔にしか見えない」
 いつの日からか、アレクは自分を見るシルハンドの目が変わってしまったことに気づいていた。だが、アレクはアルフェラッツ家の?長男?だ。シルハンドに対する態度もそうでなければならない。
 今年でアレクは十六歳になるが、それまでの間、父から剣術や魔法を叩き込まれ男装をさせられ完全に男として育てられた。
 男として育てられたアレクには女性としての自覚もある。そうでなくては女性としての自分を隠すことはできない。
 だが、思春期になった頃から私は女性への憧れを強く抱くようになってしまった。その最も大きい要因は私の母にあった。
 男として育てられるアレクを見て不憫に思ったのか、母は、ある時、父に隠れて私に女装をさせたのだ。それからというもアレクは度々母によって女装させられ、そのたびに女性への憧れを抱くようになっていた。そして、最近のシルハンドの態度。
 魔導士であるアレクは普段から厚手の法衣で身を包んでいたので、女性の体系を隠すことにはそれほど困ることはなかった。だが、それでも女性であることがばれぬように、できる限り人とは会わないようにしていた。
 アレクは父が望むように人生を歩んできた。だが、ふと思う――自分は富と名誉を手に入れるための道具なのか……。自問の日々が続き、エイースを持って生まれなければよかったと思うことがある。
「アレク、俺はおまえのことを……」
「それ以上申すな……」
 シルハンドの気持ちが胸に突き刺さる。
 幼き頃から人生を共にしてきた友人。果たして今も友人なのか。そのことがアレクの苦悩を増やしていた。
 押し黙るアレクをただ見つめるシルハンド。時間にしては短いものであっても、二人に取って――特にアレクにとっては苦しく長い時間に思えた。その場を壊してくれたのは法衣を着たひとり男だった。
「神殿からの遣いで参った。久しぶりだシルハンド、そしてアレク」
 この男のことはアレクもシルハンドもよく知っている。同じ師のもとで学んだ兄弟弟子――ザヴォラムだった。
 ザヴォラムは軽くお辞儀をしたが、アレクを見る目つきは鋭い。いつもそうだ。
 明るい顔をしたシルハンドがザヴォラムの肩に腕を回した。
「元気にしてたか? 俺はもちろん元気だったがな」
「貴公は相変わらずだな。魔導士としての威厳に欠ける」
「それは魔導士の恥さらしと言うことか?」
「そう聞こえたのならば、そう捉えるがいい」
 少し苦笑するザヴォラムに対して、シルハンドは大きな口を開けて笑った。
 この二人の輪にアレクは入ることができなかった。
 アレクとザヴォラムは互いのことを昔からよく知っている。シルハンドという共通の友もいる。だが、アレクとザヴォラムの間には溝がある。そのことはザヴォラムがアレクの?秘密?を知らないということもあるだろうが、それよりも、ザヴォラムがアレクを近づけまいとする雰囲気を漂わせていた。
 アレクを無視しているわけではないが、シルハンドは久しぶりの友人との話に華を咲かせた。
「この魔導具を見てくれないか、なかなかの代物だと思うのだが?」
 胸に輝くペンダントを見せ付けるシルハンドに対して、ザヴォラムの口調は淡々としていた。
「不思議な光を放つ魔導具だな。まるで、これ自体が生き物のようだ」
「もっと驚くとかしないのかおまえは?」
「神殿で雑務をしていると、たまにこのような魔導具を見かけることがある。それに神殿の地下にある宝物庫を拝見させて頂いた時、世にも珍しい魔導具の数々を見ることができた」
「この魔導具は俺の物だ。眺めるだけのお宝ではない。その点では俺の勝ちだな」
「意味がわからんな、その勝負は」
 首を傾げるザヴォラムだが、シルハンドにとっては満足だった。相手が世にも珍しい魔導具を見たと言うなら、自分は世にも珍しい魔導具を持っていると言う。ただの負けず嫌いの子供のようだ。
 ザヴォラムは気を取り直して、アレクに視線を向け、シルハンドにも視線を向けた。
「はじめに言ったが、私はシルハンドと雑談をしに来たのでなく、神殿の遣いとして参った。アレク、シルハンド両名を巫女様がお呼びだ、午の刻までに神殿に集まるように」
 踵を返してザヴォラムは二人に背を向けて歩き出そうとした。それにシルハンドが声をかけた。
「もう、行くのか。俺はしゃべり足らんぞ」
「他の者のところにも行かねばならんのでな。それに、貴公の話は後で十分に聞く時間があるから心配するな」
 ザヴォラムは後ろを振り返った。しかし、見たのはシルハンドの顔ではなく、アレクの顔であった。
 不適に笑ったザヴォラムは何も言わず、風のように去って行った。
 アレクの心にザヴォラムの笑みが焼きついた。不安の影が過ぎる。
 この時期に国の中枢である神殿から遣いの者が来て、しかも巫女がお呼びなれば、あれしかないとシルハインドは思った。
「おそらくあれに選ばれたのだろうな」
「そうだな、私たちはラーザァーに選ばれたのだろう」
「だとすると、死にさえしなければ神官になれるのは確実だろうな」
「ああ、そうだな……」
 ラーザァーとはメミスの都に四〇年に一度攻めて来る怪物たちと戦うために選抜される魔導士たちの総称だ。
「俺は一度自宅に戻って支度をする。では神殿でまた会おう」
「ああ、神殿で会おう」
 片手を上げるアレクを尻目にシルハンドが去っていく。
 アレクは不安だった。この日が訪れるであろうことを予感はしていた。しかし、このままで本当にいいのか……。

 ベッドで横になる色香の漂う中年の女性はひとりで読書に明け暮れていた。
 相手を気遣うような優しいドアをノックする音。
 女性は本にしおりをはさみ、静かに顔をドアに向けた。
「アレクかしら?」
 この女性はドアをノックする音だけで、その人物が誰であるかわかるのだ。そう、この女性はアレクの母であった。
 静かにドアを開け、恭しくお辞儀をしたアレクが部屋の中に入って来た。
「母上、お話し等ことがあるのです」
 神妙な面持ちのアレクに対して、母は優しく微笑み、自分の近くにある椅子を指差した。
「そこにお座りなさい」
「はい」
 椅子に腰掛けたアレクは呼吸を整えた。そして、高まる緊張を抑えてから重い口を開いた。
「神殿に呼ばれました。シルハインドも呼ばれましたので、おそらくラーザァーに選ばれたのだと思います」
「まあ、それは、お父上様もさぞお喜びになるでしょう」
 そう言いながらもアレクの母の顔は浮かない表情をしている。
「母上もそう思っているのですか?」
「いいえ。こんなことを言ってはいけないのはわかっています。ですが、ラーザァーに選ばれるということは死ぬかもしれないということ、自分の子供の死を望む母親がどこにいましょうか? わたくしはおまえに普通の女として生きて欲しいのです。あなたはアレクサンドラなのですよ」
 アレクサンドラという名がアレクの本当の名。アレクと二人きりの時はアレクの母はこの名で呼ぶのだ。
作品名:英雄の証 作家名:秋月あきら(秋月瑛)