小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

英雄の証

INDEX|15ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

 アレクはキルスの声が届かないほどに悩み苦しんでいた。この都が小さな集落であった頃から人々に恐怖を与えて来た元凶であるレザービトゥルド。それを今ここで倒すことができれば、長年メミスの民が抱えてきた恐怖を消し去ることができる。だが、毒に犯せれた人々はどうなる?
 アレクが矢を放てないのを見て、レザービトゥルドはその大きな口でアレクに喰らいつこうとした。
「矢を貸せアレク!」
 怒鳴り声を上げたのはザヴォラムであった。
 やっとの思いで立ち上がったザヴォラムは全速力で走り寄って来て、アレクから〈ムーミストの弓〉を奪い取り、眼前まで迫っていた大きな口の中に矢を解き放った。
 巨大な力が弓に注がれ矢を放つ。ザヴォラムは全ての生で矢をつくり出したのだ。だが、すでにその時にはザヴォラムはアレクに代わりに巨大な口に喰われた後だった。
 巨大な穴のような口の中に輝く矢が飛び込んで行き、レザービトゥルドの舌の付け根に突き刺さった。
「ギアゴォォォォォッ!」
 レザービトゥルドの咆哮は空気を震わせた。
 のた打ち回るレザービトゥルド全身に大量の毒が周り、やがてレザービトゥルドは動きを止めて泡を吐き死んだ。
 屍となったレザービトゥルドの皮膚にひびが入りやがて塵と化し、塵は風に乗り巡り巡りて大気を満たし、毒で苦しむ人々を癒していった。
 だが、半身を喰われたザヴォラムは死に絶えようとしていた。
 アレクはザヴォラムの傍らに膝をついた。
「ザヴォラム……」
「私が死ねば貴公の秘密は告発できなくなるな、喜ぶがいいアレク……」
 皮肉を口にしてザヴォラムは息を引き取った。
 それはアレクに新たな苦しみを与えた。ザヴォラムの死によって自分の秘密は守られた。しかし、それで本当にいいのか?
 レザービトゥルドのいた場所には巨大な骨だけが残されていた。
 アレクは地面に膝を突き、長い時間に何も言えずにその場から動くことはなかった。

 レザービトゥルドの骨は川に流され葬られ、これで全てが終わったと誰もが心から喜んだ。これからはもう四〇年に一度来ていた怪物に脅えることはない。
 この度の戦いで生き残ったラーザァーはアレク独りであった。
 レザービトゥルドと戦いのあったその日の晩、アレクは神殿に呼ばれ巫女に労われた。
 アレクが神殿にいる頃、都中は復興作業に追われ、壊れた建物の修復作業が行われていた。
 都の至る所はレザービトゥルドによって破壊され、その瓦礫の片隅でザッハークは身を潜めて隠れていた。
 レザービトゥルドが暴れまわっている騒ぎの最中、ザッハークは牢屋からまんまと逃げ出していたのだ。
 ザッハークの頭の中に禍々しい声が響いた。
「この身体は貰受ける」
 頭の中に言葉が響いた次の瞬間、ザッハークの腹が大きく波打った。腹の中に何かがいる。
 ザッハークの身体の中に入り込んでいた蟲に?何か?の魂が乗り移ったのだ。
 虚ろな目をしたザッハークは揺ら揺らと歩き出し神殿に向かった。
 レザービトゥルドを倒して浮かれる都市の警備は手薄だった。それは神殿も同じでザッハークは軽々と神殿の中に忍び込むことができた。
 巫女は目の前で跪きムーミストの弓を自分に返したアレクの遥か後方に邪気を放つ者を見た。
「……レザービトゥルドかえ?」
 小さく呟いた巫女の声を聞いて、横にキルスはローゼンを解き放った。
 輝くローゼンはアレクの横をすり抜けて飛び、後ろにいたザッハークの身体を燃え上がらせた。
 炎の中でザッハークは笑い、炎はやがて闇色に変わっていった。
「ははははっ!」
 ザッハークの皮膚が剥げ落ち、中から硬い鱗が現れた。そして、大きく開かれた口はそのまま引き裂かれ、その中から蛇の顔を飛び出すと共にザッハークの頭部は四散した。
 レザービトゥルドはその身体を滅ばされてもなお、魂だけは滅びず、ザッハークの体内に乗り移っていたのだ。
 この場にいた魔導士たちや神官たちはレザービトゥルドを取り囲み、いっせいに魔導を放った。
 魔導士たちの身体から光り輝く帯状の魔導が発射され、レザービトゥルドの身体に見事命中した。だが、レザービトゥルドはそんなものなどものともせずに長く伸びた頭で近くにいた魔導士に喰らいつき丸呑みにしてしまった。
 ここにいる魔導士たちは一度目のレザービトゥルドとの戦いで傷つき、とても二度の戦いには耐えられそうもなかった。
 レザービトゥルドは手から稲妻を魔導で出し、巫女に向けて撃ち放った。巫女と神官長を殺害すること、それがこのメミスを滅亡させる方法であった。
 黒い稲妻が巫女に当たる瞬間、それを庇うようにキルスが身を犠牲にして稲妻を身体に受けた。巫女と神官長、どちらかが生き残ればいい、そして神官長の本来の役目は双子の巫女を守ることであった。
 強い魔導力を持つキルスには魔導に対する耐性がある。それでも今の稲妻はキルスの身体に重症を負わせた。
 巫女の手からムーミストの弓がアレクに投げられた。
「レザービトゥルド仕留めよアレク!」
 アレクはムーミストの弓を受け取ろうとしたが、ザッハークの手が蛇の身体のように伸びてムーミスの弓を奪い去った。
「この弓を使わせてなるものか!」
 ローゼンの身体から光の玉が幾つも放出され、それは生きているように動き回り、レザービトゥルドに向かっていく。
 ムーミストの弓を奪ったレザービトゥルドに当たった光の玉は、爆発を引き起こし辺りに硝煙が立ち込めた。
 よろめいたレザービトゥルドの身体にローゼンが抱きつき、動きを完全に封じようとした。だが、レザービトゥルドの激しい抵抗に遭いローゼンは振り払われそうになった。
 長く伸びた首を大きく振り回し、レザービトゥルドの頭は神殿の壁や柱を次々と壊していった。
 暴れまわるレザービトゥルドの手からムーミストの弓が地面に落ちた。
 言うことを聞かぬ身体に鞭を打って、キルスもまたレザービトゥルドの身体に飛びかかった。
 キルスとローゼンの身体から激しい魔導力が発せられレザービトゥルドの身体を完全に封じた。
 これがレザービトゥルドを倒す最後のチャンスであった。
 アレクが地面に転がっていたムーミストの弓を拾い上げ、レザービトゥルドに向けて構えた。
 アレクの身体から生命力と魔導力が奪われ矢が創り出された。
「今度こそ私は撃たねばならない!」
 輝く矢がレザービトゥルドの身体を貫いた。
 咆哮をあげたレザービトゥルドの身体に皹が入り、そこから目も開けられぬほどの激しい光が漏れ、魔導力を失しなったレザービトゥルドは石のようになると、やがて粉々に砕け塵と化し消滅してしまった。
 滅びたレザービトゥルドと共にキルスの身体も光の中に溶けていった。
 キルスが死ぬということ、それはローゼンの死も意味している。
 光が治まり、砕けたレザービトゥルドの身体から煙のようなものが立ち上った。
「我は死なぬ!」
 黒い煙は巫女に向かって飛び掛った。だが、黒い煙の攻撃は突如空間から滲み出すよう現れたある者が張った魔導壁によって阻まれた。
 その魔導壁を張った者はアレクの指輪から現れた。
「そこまでだレザービトゥルドよ」
 巫女と黒い煙の間に立っていたのはシルハンドであった。
作品名:英雄の証 作家名:秋月あきら(秋月瑛)