英雄の証
黒い煙が叫び声をあげる。
「シルハンド、なぜ我の邪魔をする!? 裏切る気かっ!」
「おまえの手助けはしてやったが、仲間になったつもりはない」
シルハンドの手から白い炎が放たれ黒い煙を跡形もなく消し去った。
アレクは唖然としてしまった。シルハンドがなぜ?
「シルハンド……どういうことだ説明しろ! 今の会話はどういうことだ!」
目を丸くして大声を出すアレクの瞳をシルハンドの闇色の瞳が見つめた。
「俺は魔導の真理を知りたいだけさ。だから、ソーサイアに協力し、キルスとローゼンを殺し、そして、レザービトゥルドを使って神々の戦争に火を点けてやった」
「ソーサイアだと!?」
アレクはシルハンドに詰め寄ろうとしたが身体が動かない!?
「おまえの動きは封じた。おまえだけではない、ここにいる全ての人間は俺によって動きを封じられた」
シルハンドはアレクに近づき、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
突然のことにアレクは言葉を失ってしまった。
静かに唇を放したシルハンドは微笑んだ。
「俺がやった指輪をこれからも大切にしろよ。さらばだアレク」
「シルハンド!」
アレクは叫びながら指にはめていた指輪をシルハンドに投げつけた。その指輪はシルハンドの手によって掴まれ、少し哀しそうな顔をしたシルハンドの身体は空間と溶け合い消えた。その途端、この場にいた者たちの身体が自由に動くようになった。
アレクは全身の力が抜け、地面に膝を付き放心状態に陥ってしまった。
アレクは異端審問会によってシルハンドの関係が取りざたされたが、レザービトゥルドを倒した功績が称えられ、神殿内で起きたことは一切他言無用と口止めされた。
神殿内で事件が起きたことはなかったことにされ、神官長はその前の戦いで命を落としたことになった。
アレクは戦いによって多くもものを失った。そして、父もレザービトゥルドに殺されたことを聞かされた。
アレクは母と二人になってしまった。
あくる日、レザービトゥルドを倒したアレクはその功績を称えられ、民衆の前でスピーチをすることになった。
このスピーチをする前にアレクは母に大事な話をした。母はそれに快く応じた。母はその時、笑みを浮かべたが、これから起こるであろうこと考えると、その笑みは気丈であった。
アレクは決めていたことがあった。多くの人々の前でこれだけを言いたかった。
「私は皆さんに嘘をついて今まで生きてきた。レザービトゥルドを倒した今、私のするべき仕事は終わった。今ここに真実を言おう?私は女である?!」
どんな罪でも受け入れようと思った。アレクは祭り上げられる自分が人々を欺いていることに抵抗を感じたのだ。
集まった人々にどよめきが起こる。
アレクは深く息をついて言葉を続けた。
「どのような罰でも受けよう!」
肩の荷が下りると共に、またこれによって多く者に迷惑を駆けることになると思った。母と自分は都を追われることになるだろう。最悪の場合は公死刑になるかもしれない。しかし、嘘をつくことに疲れていた。
母には悪いことをしたと思う。けれど、母は笑ってくれた。
再び集まった人々にどよめきが起こる。声高らかに宣言したアレクに民衆は歓声をあげた。
レザービトゥルドを倒したのは女であった。そのことを人々は認めたのだ。性別などに関係なくその功績は称えられ、後にアレクはこの国に正式に認められた女の魔導士となった。
そして、月日は流れ、メミスの都から有望な女魔導士が数多く生まれ、多くの人々を救われたのだという。
作品名:英雄の証 作家名:秋月あきら(秋月瑛)