小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

英雄の証

INDEX|14ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

 気を失っていたアレクは獣の遠吠えによって慌てるようにして目を覚ました。
 アレクは手を強く握り締めた。
「よかった」
 自分が助かった安堵感から出た言葉ではない。アレクの手にはしっかりと〈ムーミストの弓〉が握り締められていた。激流に流され、意識を失いながらも、アレクはこの弓だけは決して放すことがなかったのだ。
 弓を握るアレクの指には蒼い宝石が輝いていた。
「シルハンド……」
 今は亡きシルハンドの形見。彼はムーミストの民を裏切った。しかし、アレクはこの指輪を捨てることができず、ずっと肌身離さず身につけていたのだ。
 シルハンドのことを思い出すと心が痛む。
 なぜ裏切ったんだ。
 アレクは自分でも気が付かないうちに頬を濡らしていた。人前では絶対に見せない涙。いつだって涙を流すことはなかったのに、今はどうにも涙が堪えられなかった。涙の流し方すら忘れていたのに。
 夜闇が川辺に寝そべるアレクの身体を包み、孤独感がアレクを襲う。
 拳を強く握り締めたアレクはシルハンドのことを頭から振り払い、力強く立ち上がった。
 初歩の魔導によって拳大の光を1つ作り出したアレクは、それを身体に纏わせた。光は身体の周りを纏わり付くように飛び周り、辺りを明るく照らしてくれる。この魔導ならば両手が空くので何かと便利だ。
 川辺から少し歩き、アレクは辺りを見回した。この場所にアレクは見覚えがあった。ここはメミスの都に程近いステップだ。思ったよりも早くメミスの都に辿り着くことができそうだ。
 アレクは〈ムーミストの弓〉をしっかりと握り締め、まだ見えぬメミスの都に向かって足を速めた。
 ひたすら歩き続けてアレクたちの目にメミスの都が見えてきた。都には明かりが灯っている。美しく輝く灯火はメミスの繁栄の証に思えた。しかし、アレクは眼を凝らして深い息を吐いた。
「なんたることだ!?」
 都は燃えていた。いたるところから火の手が昇り、メミスの都は滅びの一途を辿っていた。
 愕然としてしまったアレクは血相を変えて走った。
 都を守るために造られた壁が強大な力によって破壊され、火の手は治まるところを知らない。
 アレクたちは都の中に急いだ。
 全長約二一メティート(約二五・二メートル)の蛇に似た巨体をくねらせながら町中を縦横無尽に暴れまわる。それはレザービトゥルドであった。
 町中酷い有様だった。そして、町中の人々の多くやレザービトゥルドと戦った者たちは全員レザービトゥルドの吐いた毒の息にやられ、瀕死の重症を負っていたのだ。
 身体を震わせ口を揺らす男のもとにアレクは駆け寄った。その者はラーザァーのひとりであった。
 アレクが瓦礫の上に横たわる男の手を取ると、男は震える声で言葉を漏らした。
「ムーミスト様のご加護がありますように」
 それだけを言って男の手からは力が抜けた。アレクは男から願いを託された。アレクは最期の願いを託されたのだ。
 レザービトゥルドの巨大な頭が町の中心部から見えている。
 怒りを心に抱いたアレクは地面を蹴り上げ町の中心部へと急いだ。
 アレクたちが駆けつけた時にはキルスとザヴォラムが数少ない魔導士たちと戦っていた。多くの魔導士は毒で身動きが奪われ、ザヴォラムは毒で身体を起こすこともできないようで、キルスの身体もまた毒に汚染されつつあった。
 荒ぶるレザービトゥルドはアレクたちの前に巨体を這わせながら現れた。
「この都を滅する――それはムーミストの血を引きし者を滅することなり」
 ムーミストの血を引きし者とはキルスのことであった。
 レザービトゥルドの目的はメミスの都を滅ぼすこと、それはムーミストの血を引きし者を滅することであった。ムーミストの血を引きし者とはキルスのことであった。
 メミスに存在する巫女と神官長の家系はムーミストがこの土地に初めに集落を作らせた旅人末裔である。ムーミストがこの旅人と交わり双子を生んだのだ。つまり、キルスの中には神であるムーミストの血が受け継がれているのだ。
 キルスは闇色の瞳でレザービトゥルドを睨み付けた。
「メミスの民の毒を癒してもらおう」
「それはできぬ。我が体内にある魔導具を使えば毒を癒すことはできよう。だが、ムーミストの造り上げたこの国の民を根絶やしにするまで我が怒りは治まらん」
「ならばおまえの肉を切り裂き、魔導具を取り出すのみだ」
 キルスの身体からローゼンは上空を飛び回りレザービトゥルドの身体を魔方陣で包んだ。
「く、身体が動かんぞ!」
 レザービトゥルドは地響きを立てながらもがき苦しみ砂煙を巻き起こした。
「アレクよ、ムーミストの弓で奴を射抜け!」
 動きを封じられているレザービトゥルドに向けてアレクはムーミストの弓を構えた。
 アレクは魔導で光り輝く矢を創り出し、レザービトゥルドに向けて解き放った。
 空気を巻き込み飛んでいった矢はレザービトゥルドの硬い鱗に突き刺さった。
 咆哮をあげるレザービトゥルド。だが、その身体は拘束されており身動きが自由にできない。
「おのれ、おのれ!」
 アレクの放った矢がムーミストの弓から放たれたものだと知ったレザービトゥルドは激怒した。
 古の時代レザービトゥルドが神だった時、宝に執着が強かったこの神はムーミストとの戦いの末に醜い大蛇へと姿を変えた。
 ムーミストのことを思い出したレザービトゥルドは腹の底から打ち震えた。
 レザービトゥルドの身体を拘束していた魔方陣が粉々に引きちぎられた。
 上空を飛び交うローゼンに巨大な口が喰らい付き、ローゼンの半身を食い千切った。それを見ていたキルスが叫ぶ!
「ローゼン、私の身体の中に戻るのだ!」
 ローゼンは声にならない悲鳴をあげながらキルスの内に還っていった。
 怒り狂うレザービトゥルドにアレクは再びムーミストの弓を構える。アレクの身体から生気を奪われ、矢と共に放たれた。
 矢はレザービトゥルドの片目に当たり、レザービトゥルドは激しくのた打ち回った。それに巻き込まれてしまったキルスは激しく吹き飛ばされ地面に叩きつけられてしまった。
「キルス様、ご無事ですか!」
 瓦礫の山から立ち上がったキルスは血反吐を吐きながら叫んだ。
「奴の舌を狙うのだアレク! そこがレザービトゥルド弱点だ!」
 弱点を見抜かれたレザービトゥルドは高笑いをあげた。
「討てるものなら討ってみよ。だが、我を滅せば毒に犯された者も死ぬことになるぞ!」
 アレクは弓を構えレザービトゥルドの言葉の意味を問うた。
「それは何故だ!」
「我が舌に隠されし魔導具は我が吐く毒から自らを守るものである。この魔導具を壊せば我を滅することはできよう、だが、毒に犯された者を癒すことができるのもこの魔導具。どうする、我を殺すことができるか!」
 選択が迫られた。レザービトゥルドを殺すこと、それは毒に犯された人々の死も意味していた。
「アレクよ撃つのだ!」
 キルスは息絶え絶えになりながらも叫んだが、その声はアレクに届かなかった。
作品名:英雄の証 作家名:秋月あきら(秋月瑛)