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天国からの脱出

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包丁



改めて部屋の探索を始めた。ノコギリのようなDIY用品は二人で太ってしまった時に探してもなかったので、台所で刃物を探してみた。ここに来て二ヶ月以上過ぎたのに、料理と言えるようなことはたまにしかしていない。

思い出してみれば、食べたのはレトルト食品が多かった。缶詰やソーセージ類も多いのは、立地上納得できる。冷蔵庫も業務用かと思える大型だった。肉も野菜は冷凍もので過ごしてきた。そういえば配達された食糧は日持ちのするものばかりだった。

あきれた生活をしていたものだと、今頃になってオレは思った。籠城だよなこれってとつぶやく。矢や弾丸の飛んでこない籠城だ。やはりここは天国といえる。

包丁は時々使っていたが、ステンレスの安物だ。でも全く切れないという程ではない。これであの丸太を根気よく切り続ければ何とかなるだろう。他に役に立つものは無いだろうかと探してみたが、テーブル用のナイフとフォークくらいしか無かった。

とりあえず試してみようと包丁を持って玄関を出た。夕方のせいもあるのだろう、寒いと感じた。いつの間にか季節は秋になっていたという思いだ。そういえば夏が過ぎてもエアコンを消したりしてなかった。部屋の中の温度は常に保たれていたということか。これは異常じゃないか、オレは今頃になって状況の不自然さに気がついた。じっくり考える必要があるなと自分に言い聞かせ、とりあえずの包丁での丸太削りを実行してみた。

なんだこりゃ、オレはおもわず独り言が出た。包丁はほんの少し、線を引いた程度にしかならなかった。ものすごい固い木材を使っているようだった。力を入れて押して引いてをしても削れているという気がしない。それじゃあと、振りかぶって包丁を叩きつけた。薄い刃物の乾いた音と、手のしびれ、さらに別の金属音がした。包丁は1ミリ程度は食い込んではいたが、刃が少し欠けてしまった。

出刃があれば何とかなったかもしれない。と、愚痴を言っても始まらない。別の方法を探すしか無いだろう。落胆もせずにあっさりとあきらめてしまったのは、自分への言い訳のようなものが出来たせいかもしれない。これで怠惰な生活になるのはしょうがないだろうという言い訳だ。

作品名:天国からの脱出 作家名:伊達梁川