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天国からの脱出

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衝撃の事実だった。さらに追い打ちの言葉が聞こえた。
「オイ、そのヨーグルト、盗んだのだろう」リーダー格のがっしりした体格の子が言った。
「………」
オレはそれに対して何も言えなかった。アイテムを探して歩き回り、手に入れたものである。しかし、言い換えれば盗んだものである。
「どど、どうしてだ」
オレはうろたえながら答えた。

「ヨーグルトを買ったら、レジでスプーンをくれるか、おつけしますかと聞くはずだ」
鋭い指摘だった。小学生とは思えない。いや当たり前か。

「ここへ何しにきた」かさに掛かってリーダー格の子が言う。だんだんその子が大きく見えてきた。パーティの中の痩せた男の子が何やら呪文を唱えているようだ。
「魔法使いもいる」オレはそう判断した。
【逃げる】を選んだが、《逃げることは出来ない》と出た。

さらにキャンセルボタンを押すが、反応がない。
【戦う】を選ばざるを得ない。オレはポケットからカッターナイフを取り出して構えた。

相手のパーティメンバーに緊張が走った。
「FF小学校を悪の手から守る愛と正義の軍団、バラ組!」リーダーが叫んだ。

カクッと拍子抜けして、オレは前のめりに転びそうになった。やっとのことで態勢を立て直し、身構えた。
 
小石を拾っていた子がヒョイと小石を放り投げた。何だ、オレにぶつけることも出来ないのかと笑ってしまった。が、その後カチーーンと金属音がして、オレの腹部に衝撃があった。
「ううっ」と膝をついたオレに数秒遅れて痛みが走った。

「イテテ」
さっきのはバットを持ったやつへのトスだったのだ。見事な連係プレイを感心する間もなく、投げられた縄がオレの首に絡まって、引っぱられた。とっさにその縄跳びの縄を掴んで、首が絞まるのを防いだが、とんでもないことをやる奴らだ。死んじゃうかも知れないのだ。

――何が愛と正義だ。―― オレは怒りがこみ上げてくるのを感じた。首に絡まったままの縄をグイと引くが、しかし思うようにはいかなかった。何と向こうは3人で綱引きの要領で引っぱっている。

「ヨイショ」
グイと引っぱられて身体が前のめりになる。そのまま冷静なオレはカッターナイフの使い道を思いついた。縄跳びの縄を手元で切ればいいのだ。オレはニヤリと笑ってカッターナイフの刃をずらした。

「ヨイショ」 相手は依然強い力で引っぱっている。
「ぎっぎぎっ」
オレはカッターナイフの刃を縄に当てて往復させた。
「ソーレ」 相手はそのまま引いている。
「ッツ」 縄が切れてオレと相手の三人が尻餅をついた。

敵は甘くは無かった。尻餅をついたオレにいつの間にか忍び寄った子の金属バットが見えたとたん「ガチィイン」という音と、衝撃が頭に響いて、昼なのに花火が見えた。
「やった」
「気絶したかな」

そんな言葉が聞こえるが、オレは身体を動かす気力を無くしていた。もう死んだふりをするしかなかった。
「レベルが上がったかな」
「それより、何かアイテムを持っていないか」
オレの身体をうつ伏せにさせ、ジーパンの尻ポケットからサイフがとられるのを感じ、起きあがろうとしたら、「ガチイイイン」という音と共に頭の中でまた花火があがった。 

薄れ行く意識の中で、「それが愛と正義か」というセリフを吐いたが、言葉になったかどうか怪しかった。

頭が痛いという感覚でオレは目が覚めた。起きあがると頭が痛い。頭に手をやった。《ステイタス》で確認する。【正常】とあった。そして残金が0になっていた。




 
どこかでテレビの音がしている。ふと目をやった先に『ドラゴンシャドー』のゲームが GAME OVER になっていた。

ゲームと現実の区別があいまいになっている。オレはこの先のことを考えると恐怖を感じた。これを期に、この天国から脱走しなくてはいけないと心に誓った。

作品名:天国からの脱出 作家名:伊達梁川