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天国からの脱出

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――とりあえずはもっと攻撃力のある武器と防具をそろえなくては――と、オレはショップを探した。どこにも剣と盾を表した看板は無い。隠れて営業しているのだろうか。それらしい所を探して歩いているうちにまたHPが低下している。――先程の戦闘で毒を受けたのだろう――そう冷静的確に判断したオレは傷口を探し、絆創膏を貼った。さらにオニギリもお行儀悪く歩きながら食べた。頭の中のどこかでポイントが減るかなと思ったが、そう上品なキャラクターでは無いらしく、お行儀が悪くてもポイントは減らなかった。

武器屋は見当たらず、オレは勤め帰りだろうと思う厚化粧でおミズ風のおばちゃんに、
「この辺に武器と防具を扱っている店はありますか」と尋ねた。

おばちゃんは、30秒ほど頭の中で検索をしたが、「ブキトボウグ」は非合法なドラッグという答えが出たようだった。
「あんた高校生でしょう、そんなもんに手を出すんじゃないよ」と言って頭から足までオレを値踏みするように見た。
「まあ、もっといいおもいをさせてあげることができるけど、あんたお金持ってんの?」
通行人に?付の言葉を貰ったことは無く、オレは言葉を探したがどこにも無かった。
オレはキャンセルボタンを押して、その場を去ろうとしたが、おばちゃんは気に入らなかったらしい。
「お金が無かったら、話しかけてくるんじゃねえよ」

オレはおばちゃんの声に押されるように早足になってその場を離れた。
 ――お金?―― そう言えば、残りはいくらだろう。
1980円――バーゲンの値段のような残金を、もっと増やせないものかとオレは考えた。――拾ったアイテムを売る―― それしか無いだろう。しかし、【壊れた傘】は一応武器だし、値段はつかないだろうと冷静に判断したオレは、素早く次の行動に移った。

大通りから脇道に入り、手前の家から探索に入った。玄関の前に立ち頭の中でボタンを押した。ドアは開かなかった。庭をチェックしたが何も無かった。

次の家には[愛想のいい犬」が出迎えてくれた。オレは経験値を上げるためにその犬を【壊れた傘】で打った。
「パコン!」頭を一撃。
その犬は一瞬何が起こったのか理解できずに首をかしげた。
「パコン!」さらにもう一回。
[愛想のいい犬]が[普通の犬]になった。
「パシッ!」背中を一撃。
[普通の犬]が[猛犬]になった。
「ぐあるるる」猛犬が傘に食らいついて、オレの手から傘をもぎ取った。

オレは【逃げる】を選んだ。
「ううわん」オレに噛みつこうと飛びついた猛犬が、チェーンによって前進を阻止された。

家の外に出たオレは《ステイタス》でオレをチェックした。装備の【壊れた傘】が無くなり、攻撃力が落ちた。経験値がほんの少し上がった。

――もっとガンバラナクテハ―― そう思ってから、何のために戦っているのかを忘れていることに気づいた。

――わるいひとにとらわれているおひめさまをすくう―― いやいやそんな子供っぽいものじゃなかった筈だ。

――滅亡にむかっている人類。原因は人類そのもの。選ばれた人間が地球をリセットして、エリートが人類をやり直す―― いやいや、そんなものでもなかった気がする。

――いい学校に入って、いい会社に就職して、いいお嫁さんと結婚し、いい子供を育て、いい老人になって、いいお墓に入る―― こんなもののために戦っていたのか。いやいやそうではあるまい。もっと崇高な使命があったはずだ。

そのうちに思い出すだろうと楽観的に考えて、オレはまた冒険の続きに入った。

作品名:天国からの脱出 作家名:伊達梁川