天国からの脱出
燃やしてみる
オレは何かが焦げるような匂いに気づいた。匂いの方向がすぐにはわからなかったが何か料理の匂いのようなので、台所に向かった。
ガスレンジに鍋がかかっていて、そこが匂いのもとのようだった。近づいてガスを止めた。そのついでに鍋のふたを開けると煙のような湯気のようなものがわあーっと顔にかかる。焦げ臭さと一緒にどこか懐かしい匂いがした。
「あーっ やっちゃったあ」
明菜がどたどたと駆け込んできた。
「せっかくジャガイモが手に入ったから、肉じゃがを作ろうと思ったのにぃ」
明菜は鍋の中から焦げていない部分を丼に取り出している。
「ま、料理する気になっただけでも進歩だな」
オレは、焦げていない肉をつまんで口に入れた。少し焦げ臭かったが美味しいと思えた。焦げた匂い・・・・・焦げる・・・・焦がす? と、オレの頭にひらめいたことがあった。
「燃やせばいいんだ!」
オレはなぜ今まで気づかなかったのかと、自分を呪った。
「明菜、そろそろここを出たいと思わないか?」
「別にぃ」
明菜はパックのご飯を出して電子レンジでチンをした。
【食べる?」
明菜がついでのように言うのを聞きながら、外の柱を燃やす方法を考えていた。
「少し、焦げたところがおいしいわ」
何を食べてもおいしいんだろうが、という言葉を飲み込んで、さらに具体的方法を考えた。火元はガスレンジだ。これを松明のようなもので外まで運ぶ。直に丸太は燃えないだろうから、柱の周りに燃えるものを置いて火を点ける。
オレは焦るなよと自分に言い聞かせながら、さらに考える。うっかり屋根まで燃え移らせては、柱が燃えて蹴破れるまでに焼け死ぬ恐れがある。屋根? そういえば柱の上部はどうなっていたのだろう。オレは確認に行くことにした。
建物をぐるっと取り囲む丸太の柱。視線を上にあげると、柱同士はやはり丸太で繋がっていて、その上に屋根があった。当然といえば当然の話だ。ゆえに木登りのように上まで行っても外には出ることが出来ない。
「やはり火を大きくしないで丸太を焼く方法を考えないとな」
独り言を言いながらオレは自分の部屋にしているPCのある部屋に戻った。
1.石油を染みこませた布を丸太に巻いて火を点ける。
2.段ボールと本を柱の周りにおいて火を点ける。
3.真っ赤に焼けた金属を柱に押しつける。
注意:危なくなったらすぐに火を消せるようにバケツに入れた水を置いておく。
そうメモしてみてから、やはり2の方法かなと思った。
少しワクワクしている自分を感じるのがまた嬉しかった。ゲームも時間を忘れさせ、たのしませてくれるが充実感というものはない。
オレは読み終わった本と段ボールを丸太まで運び、台所から聖火のように段ボールつけた火を運んで火を点けた。傍らにはバケツに入れた消火用の水も置いてある。
炎が大きくならないように注意しながら、時々本を追加しながら柱を焼いている。炎に隠れて見えないが、順調に焼けている筈だ。ここを出ることができたら何をしようかと考えて、したいことが特に無い自分が情けない。でも、太っていない別の女性と知り合いたいと思った。ああ、痩せなければとついでのようにそう思う。
ピシッと音がした。見ると柱に縦に割れ目ができている。
焼いて縦に割れるかなあ? 炎が当たっている場所は焦げて黒くなっている。オレは燃やすものの追加をやめて様子を見ることにした。
とりあえず確認するために何か固いものがあった方がいいと、台所に戻り、アイスピックを持ってきた。一番燃えていたあたりにそれを差し込んで見た。少しだけアイスピックが刺さり、すぐに固いものに当たる感触があった。割れ目をたどり、斜めに刺してテコの原理を応用して力を入れると柱の一部が剥がれた。
丸太の木が剥がれる? またも予想外のことである。どうなってるんだ? 続けて剥がしてみて、オレは愕然とした。中は鉄骨あるいは鉄パイプだ。それを木で覆っていたのだ。普通じゃ無い。最初に思った変わり者の隠遁生活者が事故にあって戻れなくなったという推測は違っていたのかもしれない。
もしかしたら、自分たちは罠にはまっていて、監視、研究材料にされているのかもしれない。オレはひやっとするのを感じた。