とうめいの季節 3
10.願いの子
「だっこしてみるか?」
穂積(ほづみ)に言われ、瑞はしり込みする。穂積の腕の中には、おくるみに包まれた生まれて間もない赤子がいる。
「む、無理だよ・・・こんなちいちゃなもん・・・」
怖い。首なんかくにゃくにゃではないか。抱っこなんてとんでもない。
「おまえがいずれ護っていく子だ。だっこしてやってくれないか」
「・・・そおっとしろよ。まだ離すなよ」
おっかなびっくり赤子を受け取る。腕に抱いてしまうと、もう動けない。かちかちの瑞を診て、穂積はおかしそうに笑っている。
「ふっ」
「笑うなよ・・・初めてなんだからな、赤子を抱っこするなんて」
「小夏は上手に抱いていたよ」
「お・・・俺だって練習すりゃうまくなるよ・・・」
腕の中で、赤子がうにうに動く。目がぱっちり開いて、瑞を不思議そうに見つめている。
(これが次のお役目か・・・)
この先何度、生と死を繰り返していくのだろうか。この赤子が死に、また新たなお役目が生まれてくる・・・。
「瑞、この子に名前をつけてやってくれんか」
「・・・名前?そんなたいそうなことはできんぞ」
名づけというのは、両親がわが子に初めて贈る物だという。瑞には過ぎた役目である。
「亜季がどうしてもおまえに、というんだ。願いをこめてつけてやってくれんか」
願いをこめて。それはかつて、瑞が穂積にしてもらったことだ。それならば、と出来そうな気がする。この小さな命が元気に育っていくように。
「・・・わかったよ、考えておく」
温かな体温。柔らかな匂い。小さな命。いつか自分が護ってゆく命のぬくもり。
赤子はへら、と笑った。
「情けない顔だなあ」
「そう言ってやるな」
「亜季に似るかな・・・くりっとした目がそっくりだし」
気の抜けた顔で笑っている赤子に、こちらの気も緩みそうになる。なんて小さな指なのだろう。この指先で、彼は未来で何を掴むのだろう。
「・・・ちゃんと護ってやるからな」
この小さな命に自分が護られていたことを瑞が知るのは、まだずっと先の話。
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