WonderLand(中)
昨日玄関で意識を失ってから、どうやってこの部屋に運ばれたのかはわからない。ただ、服は着ていたワンピースからパジャマに着替えさせられ、あたしの身体はすっぽりと布団の中に入っていた。そして、身体中に絆創膏や湿布などの処置がなされていた。すぐ近くにあった鏡を覗き込むと、あたしはあたしを留めず、中に居るのは人間ではなくて、化け物だった。
時計を見ると、午後の四時だった。昨晩から、あたしは昏々と眠り続けていたようだ。
学校、と思ったけれど、土曜日で学校は休みだった。そうでなくても、この顔で学校へ行くのは躊躇われる。だけれど、月曜日までにこの傷が少しでも回復するかどうかも、疑わしかった。
携帯電話を見ると、ウサギからメールが来ていた。
「今日六時、いつものところで」と、いつも通りの簡潔な内容だった。
父は、あれだけあたしを殴った翌日であっても、ウサギを抱きに出掛けるのか。あの五千円の束がウサギによって抜き取られたものであることも知らずに、今日もまた抜き取られていくこと知らずに。自分の陰をすべてあたしに押し付けて、それでも快楽を貪ろうとするのか。
行かなくちゃ、あたしは身体を起こした。
上半身を起こすと、身体が悲鳴をあげた。思わず、唸り声を漏らさずにはいられなかった。歯を食いしばるのも激痛だった。痛みを堪えながらなんとか立ち上がり、なんとか服を着替えた。
洗面所へ向かい、身だしなみを整えようとしたけれど、それは無意味だった。どれだけ頑張っても、この化け物のような顔を人間に戻すことは不可能だった。髪を梳かして、そのまま父の部屋へ向かった。
勿論、父は居なかった。あたしはきょろきょろと書斎を見回す。置いてあった本とか、あらゆる文具や小物を押しのけて、目的のものを探した。部屋はあっという間に、泥棒に入られたかのように荒れた。
目的のものは、机の下の引き出しにあった。あたしから取り上げた、あの五千円札の束が入った封筒。もともと何枚入っていたかを数えていなかったから、それが減っているかどうかもわからなかったけれど、とりあえずそれをスカートのポケットに押し込んだ。
部屋に戻り、顔を隠せるように帽子とマフラーを身につけた。必要なものを鞄に詰め込み、玄関へ向かう。
「アリス?」
奥のリビングから、母が出てきた。
「あなた、そんな顔で何処へ行くの!?」
作品名:WonderLand(中) 作家名:紅月一花