新撰組異聞__時代 【中編】
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文久三年と云う年は、初めの激動の年になる。
漸く日も温み、月は三月。
「トシ〜っ!!」
突然の大声に、歳三は眠い目をこすりがら何事かと障子を開けた。
その眠気も、廊下を走ってくる勇に覚めた。
「来るぞ」
「は?」
「来るんだ」
嬉しそうに云う勇に、理解不能である。またも朝帰りして、こっちは眠くて仕方がないと云うのに。
「勝ちゃん、手短に云ってくれないか?」
「大樹公が、上洛される」
「それで?」
「それでって、お前なぁ…」
「ここに来るわけじゃねぇだろう。警護と云ったって、あの清河に計画はふっ飛んだのも同じだ。上からは何も云ってこねぇし、形だけの俺たちに将軍が喜んでくれると思うか?このままじゃ、俺たちもこの町にいる不逞浪士のようになるぜ」
「では、どうすればいいと」
「手はあるぜ」
「手?」
「黒谷金戒光明寺さ」
「寺?おい、仏に祈願するつもりか?」
「勝ちゃん、将軍もいいが他の人間の情報も頭にいれておいてくれよ…」
こめかみを揉みながら、歳三は溜息をついた。
金戒光明寺は、黒谷にある浄土宗の寺院である。知恩院とならぶ格式を誇る浄土宗の大本山の1つである。今その金戒光明寺は、会津藩本陣となっていた。
「ちょっと待て…」
「何だ?」
「会津藩って、確か藩主の容保公は…」
「京都守護職」
「…もしかして直談判しようっていうんじゃ…」
「ああ」
「おい、相手は大名だぞ。大名」
歳三の顔は、それがとうしたと云う顔であった。
作品名:新撰組異聞__時代 【中編】 作家名:斑鳩青藍