新撰組異聞__時代 【中編】
3
そんな京の町で、三人の男が同じ場にいた。島原遊郭の、それぞれ違う部屋に。
「今日は、芹沢はんはおらへんのやな」
「酒に酔ってしまわれてな…」
「まぁ、それはえろう難儀どすなぁ。近藤はんも大変やわ」
「そうかな」
「人がいい御人や。うちの目ぇに狂いはおまへんな」
金銀の揺れる髪飾りを揺らし、郭一と云われる妓がピタリと勇に躯を寄せていた。深雪太夫である。
「君は、芹沢さんが好みだと思ってたよ」
「そう見えるだけどす。うちは客をもてなしてるだけや。うちはもっと強い男はんが好きどすえ」
だから、理解らない。
勇は、深雪が相手してるなど思っていなかった。歳三に引っ張られるまま、芹沢なしでまたここへ来てしまったが、彼女を呼べるような大金はなく、他の妓を指名したつもりだった。彼女の云う強い男とは誰だろう。
「近藤さん、他の女は初めてどすか?」
「いや…」
「ならそんなに堅くならんと、うちの事が嫌いなら下がりますえ?」
「いや、…じゃ…ない…」
「?」
「嫌いじゃない」
勇は、無意識のうちに深雪を抱きしめていた。
そんな勇のいる部屋から少し離れて、歳三は東雲といた。
「近藤さん、うまくいってるかな」
「大丈夫ですやろ。ここは郭どす。子供ではおまへん。あんじょう、やってます」
「東雲」
「何どす?」
「今度、嵐山へでも行くか」
「ええどすな。秋には紅葉が綺麗でっしゃろう。連れて云ってくれはります?」
「ああ」
例え嘘でもいい。この郭の外から出られる事がなかったとしても、夢を見る事はできる。この男と一緒に。
深雪も東雲も、そう思いそれぞれの男の胸に抱かれた。
そして、もう一人の女もまた___。
「…お帰りにならはるん?」
「ああ」
「また逢うてくだはる?」
「そのうちにな」
「きっとどすえ?山南はん」
「今度は土産をもってくるよ、明里」
山南はそういって、郭を出た。山南敬介___お互い哀しい別れをする事になるとは、彼も明里もこの時は知らない。
作品名:新撰組異聞__時代 【中編】 作家名:斑鳩青藍