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新撰組異聞__時代 【中編】

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 夜も更け島原の賑わいが去り、二階から見下ろす景色は江戸とはまったく違っていた。勿論、妓といる場合ではないと理解っているが京に着いてから何の指示もなく、徒に時が経つのが歯痒く落ち着かなかった。
 「面白ぅおすか?」
 「?」
 「さっきから、窓の外ばかり見てはる」
 「いや」
 「旦那はんのような客は初めてや。でもうちは、好きえ。これまでの男はんより、旦那はんは何かしはる人やと思うてます」
 「変わった妓だな」
 「そうどすか?変わった者同士、気ぃ合うかも知れまへんなぁ」
 そう云って、その遊女はにっこり笑った。
 名を東雲、やがて強く惹かれ合う事になる歳三と東雲太夫である。
 「いい月だ」
 「ほんまに。なぁ土方はん、これからも京にいらはるのどすやろ?」
 「まぁな」
 「天子さまの護衛どすやろ」
 「え…」
 歳三は、思わず口に運ぶ杯を止めた。
 「そう聞きましたえ」
 「誰からだ?」
 「どうしはったん?」
 「誰から聞いた?」
 「関東から来ぃはったと云う偉うお武家さんどす。うちは、その御人の側におりませんどしたが、そのお方のお供の相手から聞いた話どす。浪士隊は天子さまの為の警護だと。土方はん、違うのどすか?」
 違う。
 歳三は、込み上げる怒気を必死に抑え、未だ東雲の話を信じられずにいた。
 そんな京の一角で、男は邸の庭にいた。
 「清河どの、遠路ご苦労やったな」
 「は」
 「帝も、たいそう御喜びになられたわ。この先の働きによっては、上も夢ではないやろ。頑張りよし」
 邸の主は姿を見せる事なく、その人物は障子の奥でクスクスと笑っていた。
 京、浪士隊本陣に戻った彼を、総司がニコニコしながら出迎えた。
 「お帰りなさい。朝帰りとはすみにおけませんね」
 「ばか。勝…、近藤さんは?」
 「夕べ遅くに、芹沢さんとお帰りに」
 「___総司、どうやら俺たちは清河に食わされたかも知れねぇぞ」
 「はい?」
 総司はこの時、その意味を理解らなかった。