新撰組異聞__時代 【中編】
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池田屋事変は、怒濤の如く始まった。
「会津藩京都守護職お預かり新撰組である。中を改める!刃向かう者は容赦なく斬り捨てる」
戦場化した池田屋で、桂小五郎は二階から屋根に飛び降りた。
中は、地獄絵図の様をていし、怪我人も死者も出た。
「総司、そっちは任せた」
総司は一人倒し、振り返ろうとした。
「___!!」
「総司っ!」
だんだら染めの羽織が血に染まっていく。止まらない出血。
「近藤さん」
____土方…さん…?
勝負は、新撰組の勝ちであった。これにより、彼らの名は更に京に響く。
しかし、時代の変化は始まろうとしていた。
彼らの中で、ゆっくりと。
時は慶応。
空に、錦の御旗が翻る。
共に対立関係にあった薩摩、長州はついに倒幕へ動いた。
大政奉還と王政復古により、幕府は朝敵となった。
「冗談じゃねぇ」
睨む男の目に、官軍となった彼らは見えていない。目の前の敗戦も、消えゆく徳川幕府も、映らない。その敵は、目には見えない。
彼の戦いは、終わってはいない。
そして、小五郎は江戸にいた。
「桂さん」
「江戸も、凄い騒ぎになっているようだね」
「それはもう。官軍が江戸にもやってくるとか。道場じゃ、稽古どころじゃなくなってますよ。ところで、江戸へは?」
「ああ、知り合いを訪ねたんだが留守だったよ。酒を呑もうと約束したんだが、それどころでもないようだな」
「誰です?」
「土方___歳三」
「え…」
「皮肉なものだな。まさか、と思っていたが」
それを確かめるために、小五郎は江戸に来た。
同じ京に彼はいた。今や、対立する事になってしまった二人。
___土方さん、この戦いが終わったら今度こそ呑もう。敵とか、幕府とか関係なく。
小五郎は、混乱する江戸の雑踏に消えていった。
彼が、再び歴史に躍り出るのは数年後の事である。
作品名:新撰組異聞__時代 【中編】 作家名:斑鳩青藍