新撰組異聞__時代 【中編】
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___会えなくなる。
昔から、嫌な予感はよく当たった。
久しぶりにやってきた男の顔を見た瞬間、東雲は思ってしまった。
「よう、お越しやす」
「恨まれていると思ったんだが」
「何故どす?」
「未だ紅葉見物云ってないだろ」
「うちはいつまでも待ちますえ。土方はんは、嘘はつかん御人や」
「買い被りすぎだ」
「顔に出てはる。何処かに行くと」
云おうとした事をさらりと先に云われて、歳三は笑った。
「うち、変な事云いました?」
「いや…、お前は強いな。東雲」
「今度は、遠いんどすやろな。なら、帰って来はったらそん時に紅葉見物連れて行っておくれやす」
「ああ」
帰ってくる。必ず。
東雲は、歳三の羽織の袖を握り締めたまま自身に言って聞かす。
しかし、東雲の元に彼が現れる事は二度となかった。
次の年も、未だ次の年も。
その後、東雲がどうなったか誰も知らない。遊郭から出ることができたのか、それとも誰かに身請けされ妻になったか、ただ、紅葉の時期になると嵐山で毎年のように一人の女が立っていた。
「うち、ここどすえ」
はらはら舞う紅葉を見上げ、彼女は笑った。
「やっぱり、嘘はついておへんどしたな?土方はん」
時は明治二年、秋。
___東雲、待たせたな。
そんな声が聞こえた気がした。
「うちの勘、外れたわ。また会えたやないの。なぁ?」
男の返事はない。会えたと思うのに、何故哀しくなるのか。
また来よう。彼に会いに。
東雲は、歩き出した。はらはら舞う紅葉の中を。
結ばれる事はなかったが、彼女の恋は終わっていない。だから、さようならとは云わない。云えば、永遠に会えない事を認めるから。
---------------------後編に続く-------------------------------
作品名:新撰組異聞__時代 【中編】 作家名:斑鳩青藍